バーチャル性転換システム

廣瀬純七

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再会の夜

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一週間後、幸一は美由紀と会う約束を取り付けることができた。デートをすっぽかして以来、美由紀の態度は冷たく、返事も素っ気ないものばかりだった。それでも彼女と話をするチャンスが欲しいと、何度も連絡を続けてようやく会えることになった。

待ち合わせのカフェで、幸一は先に席について待っていた。心臓が鼓動を打つ音が、周囲の雑音に紛れているように感じる。やがて、美由紀が店に入ってきた。いつもより控えめな服装で、表情は硬い。

「久しぶり。」  

「……うん、久しぶり。」  

彼女は短くそう答え、席に座った。目を合わせようとせず、バッグからスマホを取り出してテーブルに置く。無言の圧力を感じながら、幸一は深く息を吸った。

「美由紀、先週は本当にごめん。君との約束を忘れるなんて、最低だった。」  

「仕事じゃなかったんでしょ。」  

美由紀の言葉は冷たく刺さる。幸一はうなずきながら、意を決して話を始めた。

---

### バーチャルな世界の告白

「実は……最近、あるシステムを使い始めてるんだ。『ニューフレームVR』っていうやつで、バーチャルな体験ができるシステムなんだ。」  

「バーチャル?」  

美由紀はようやく顔を上げたが、その目には困惑と疑念が浮かんでいる。

「うん。仮想現実の世界で、いろんな体験ができるんだ。旅行に行ったり、普段じゃ絶対できないことを試したり……。」  

「それで私との約束を忘れるくらい夢中になったってこと?」  

幸一は言葉に詰まった。彼女の声には明らかな怒りが込められている。

「美由紀、分かってほしいんだ。現実で感じられない自由や、新しい自分になれる感覚がそこにはあったんだ。最初はただの好奇心だったけど、気づいたら……。」  

「気づいたら、私よりそれを優先してたの?」  

美由紀の声が震えた。彼女の目には涙がたまり始めている。

---

### 究極の問い

「幸一、私たちの関係は大事じゃないの?私は君と一緒に過ごしたくて、君のことを信じて待ってた。それなのに……仮想現実の方が大事だったなんて、ひどい。」  

「違うんだ!」  

幸一は慌てて声を上げたが、美由紀は鋭く問いかけた。

「じゃあ聞くけど、私とバーチャルのどっちが大事なの?」  

その言葉に、幸一は完全に黙り込んだ。テーブルの上で指を組みながら、美由紀の瞳を見つめ返すことができなかった。  

彼女は沈黙を察し、乾いた笑い声を漏らした。

「答えられないんだね。それが答えだよ。」  

---

### 選択の余地

「違う、本当に違うんだ……。」  

幸一はようやく声を絞り出した。

「美由紀、君のことを大切に思ってる。だけど、あの体験が、今の自分にとって必要だったんだ。現実ではできないことを、あの世界で試して、自分の中の可能性を知りたかった……。」  

「私と一緒にいることじゃ、ダメなの?」  

美由紀の問いに、幸一は言葉を失った。彼女の視線には、純粋な悲しみと失望が込められていた。  

「私は君を信じてきた。でも、君が信じてるのは……現実じゃなくて、仮想の自分なんだね。」  

美由紀はバッグを手に取り、席を立った。

「もう少し自分と向き合って。それができたら、また連絡して。」  

そう言い残して、彼女は店を出て行った。

---

### 一人の夜

帰宅した幸一は、カプセルの前に立ち尽くしていた。手には、あの夜から触れていなかったVRヘッドセットが握られている。しかし、そこに触れることはできなかった。

「俺は、現実から逃げてただけなのか……。」  

彼はゆっくりとヘッドセットを床に置き、深くため息をついた。バーチャルな世界の中では手に入れたはずの自由が、現実の大切なものを奪っていたことに、ようやく気づき始めていた。

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