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箱の中には、昨日と同じ形の小瓶がもう一本入っていた。だが、今回は手紙が添えられていた。開くと、滑らかな文字でこう書かれていた。
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**変身モニター 第2段階:適応フェーズ**
あなたは初期適応に成功しました。次の変身では外見だけでなく、「社会的認知」や「他者記憶」も一定期間上書きされます。
これにより、変身後のあなたは“その人物”として認識され、生活できます。
※効果は最大72時間。以降、恒常化オプションの案内が届く可能性があります。
※服用は任意です。
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「他者記憶の上書き……?」
つまり、今回は“神谷ユキ”として、完全に社会に溶け込めるということなのか。もう“偽者”ではなく、本物のユキとして認識される——そんな力が、この小さな瓶に詰まっている?
幸一は数分間、黙って瓶を見つめていた。
心の中で、あらゆる声が交錯していた。
(危険だ。戻れなくなるかもしれない)
(でも、昨日の由紀としての一日は、本当に生きてるって感じた)
(あれは演技なんかじゃなかった。俺は……“あの姿”の自分を好きになってしまった)
思わず笑みがこぼれた。
「……面白いじゃないか」
それは、長い間、失業と無為な日々に蝕まれていた彼の中に、久々に灯った“欲”だった。
ただの承認欲求かもしれない。逃避かもしれない。
でも、“神谷幸一”のままでは決して届かなかった何かが、そこには確かにあった。
彼は再び瓶の封を切り、一気に飲み干した。
甘く、どこか懐かしい味。
頭がぐらりと揺れる。視界が揺れ、全身の細胞がざわめくような感覚——
やがて彼は、静かに目を開けた。
鏡の中には、昨日よりもさらに洗練された“神谷由紀”が立っていた。
ただの美人ではない。意志を持ち、自信に満ちた眼差し。微笑みには余裕すら感じられる。
昨日の“借り物の姿”とは違う、どこか“馴染んだ”自分自身の顔だった。
通知音が鳴る。スマホの画面には、出演依頼、スポンサー契約、ファッションイベントの招待状——そして、一通のメール。
**「由紀さん、実はずっと前からスカウトしようと思ってました」**
**「今夜、食事でもどうですか?」**
送り主は、昨日のライブ配信で一緒だった美容系インフルエンサー「ミオ」だった。
「……人脈まで、続いてるんだ」
彼女の記憶にも、自分は“由紀”として存在し続けている。
由紀は、ワンピースに着替え、髪を巻き、軽くメイクをしてから出かけた。
街はまるで最初から彼女の舞台であったかのように自然で、すれ違う人々が笑顔を向ける。
(これが……もう一つの“人生”か)
由紀として過ごす時間が進むごとに、幸一としての意識がどこか遠くへと引いていく気がした。だが、それは決して怖くなかった。
夜。ミオと会ったレストランで、ワインを傾けながらふとミオが言った。
「ねえ由紀、あなたって……前から有名だったっけ?なんか急に現れて、すごく気になってたの」
一瞬、返事に詰まった。けれど、すぐに由紀は笑顔を返す。
「ううん、最近ようやく“自分らしくなれた”だけ」
そして、心の中でつぶやいた。
(もしかしたら……このまま、“神谷由紀”として生きるのも悪くないかもしれない)
その夜、ベッドに横たわる由紀のスマホに、また新たな通知が届いた。
**【モニタープログラム 第3段階:永続変身】のご案内が可能となりました。ご希望の方は…**
画面を見つめながら、彼女は静かに目を閉じた。
その顔には、もう迷いはなかった。
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**変身モニター 第2段階:適応フェーズ**
あなたは初期適応に成功しました。次の変身では外見だけでなく、「社会的認知」や「他者記憶」も一定期間上書きされます。
これにより、変身後のあなたは“その人物”として認識され、生活できます。
※効果は最大72時間。以降、恒常化オプションの案内が届く可能性があります。
※服用は任意です。
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「他者記憶の上書き……?」
つまり、今回は“神谷ユキ”として、完全に社会に溶け込めるということなのか。もう“偽者”ではなく、本物のユキとして認識される——そんな力が、この小さな瓶に詰まっている?
幸一は数分間、黙って瓶を見つめていた。
心の中で、あらゆる声が交錯していた。
(危険だ。戻れなくなるかもしれない)
(でも、昨日の由紀としての一日は、本当に生きてるって感じた)
(あれは演技なんかじゃなかった。俺は……“あの姿”の自分を好きになってしまった)
思わず笑みがこぼれた。
「……面白いじゃないか」
それは、長い間、失業と無為な日々に蝕まれていた彼の中に、久々に灯った“欲”だった。
ただの承認欲求かもしれない。逃避かもしれない。
でも、“神谷幸一”のままでは決して届かなかった何かが、そこには確かにあった。
彼は再び瓶の封を切り、一気に飲み干した。
甘く、どこか懐かしい味。
頭がぐらりと揺れる。視界が揺れ、全身の細胞がざわめくような感覚——
やがて彼は、静かに目を開けた。
鏡の中には、昨日よりもさらに洗練された“神谷由紀”が立っていた。
ただの美人ではない。意志を持ち、自信に満ちた眼差し。微笑みには余裕すら感じられる。
昨日の“借り物の姿”とは違う、どこか“馴染んだ”自分自身の顔だった。
通知音が鳴る。スマホの画面には、出演依頼、スポンサー契約、ファッションイベントの招待状——そして、一通のメール。
**「由紀さん、実はずっと前からスカウトしようと思ってました」**
**「今夜、食事でもどうですか?」**
送り主は、昨日のライブ配信で一緒だった美容系インフルエンサー「ミオ」だった。
「……人脈まで、続いてるんだ」
彼女の記憶にも、自分は“由紀”として存在し続けている。
由紀は、ワンピースに着替え、髪を巻き、軽くメイクをしてから出かけた。
街はまるで最初から彼女の舞台であったかのように自然で、すれ違う人々が笑顔を向ける。
(これが……もう一つの“人生”か)
由紀として過ごす時間が進むごとに、幸一としての意識がどこか遠くへと引いていく気がした。だが、それは決して怖くなかった。
夜。ミオと会ったレストランで、ワインを傾けながらふとミオが言った。
「ねえ由紀、あなたって……前から有名だったっけ?なんか急に現れて、すごく気になってたの」
一瞬、返事に詰まった。けれど、すぐに由紀は笑顔を返す。
「ううん、最近ようやく“自分らしくなれた”だけ」
そして、心の中でつぶやいた。
(もしかしたら……このまま、“神谷由紀”として生きるのも悪くないかもしれない)
その夜、ベッドに横たわる由紀のスマホに、また新たな通知が届いた。
**【モニタープログラム 第3段階:永続変身】のご案内が可能となりました。ご希望の方は…**
画面を見つめながら、彼女は静かに目を閉じた。
その顔には、もう迷いはなかった。
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