性転換が日常の社会

廣瀬純七

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拓也の妊娠

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**異形の新たな命**

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「妊娠…?」  
拓也は呆然としたまま、医者の言葉を反芻していた。頭が追いつかない。  
彼の目の前には、医者が提示した診断結果が映し出されている。そこには明確に「妊娠」の文字があった。

それは普通のことではなかった。いや、この社会でさえも、下半身を交換した男女の間で、パートナーの体で子どもを宿すなんて前代未聞だった。

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数か月前、拓也と沙織は付き合いが順調に進み、関係の深まりと共に「下半身交換」をすることを決意した。下半身を交換することで、浮気防止という社会的な規範もクリアし、互いの信頼が試される新たなステージへ進むことができる――そんな期待が二人にはあった。

手術は簡単で、特に痛みもなく終わった。それからというもの、拓也は沙織の身体の一部を持つことで、女性としての感覚や生活に新たな視点を得ることができた。そして、沙織もまた、拓也の下半身を持つことで、今までとは異なる新鮮な体験を楽しんでいた。

しかし、その変化が予想をはるかに超えた事態を引き起こすことになるとは、二人とも思いもしなかった。

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ある日、拓也は不調を感じ始めた。最初はただの体調不良だと思っていたが、徐々に吐き気や食欲の変動、疲労感が強くなっていった。体が重く、何かがおかしいと感じたのはその時だった。彼は心配になり、病院で診察を受けた。そして、驚くべき診断結果が告げられたのだ。

「妊娠しています」と。

「そんな…俺は男なんだぞ!」  
拓也は信じられなかったが、下半身は確かに沙織のものだった。そして、それは今、命を宿している。

「最近、沙織さんとの関係に変化はありましたか?」  
医者が尋ねると、拓也は思い出した。数週間前、二人は一度深く愛し合った。沙織が拓也の下半身を持ち、拓也が沙織の下半身を持つという、奇妙な形での愛の営みだった。それが原因なのかもしれない。だが、まさか自分が妊娠するとは…。

拓也は病院を後にし、どうやって沙織にこのことを伝えるべきか考えた。彼女にとっても衝撃的な事実であるはずだ。二人で話し合わなければならない。しかし、そんなことを考えている間にも、彼の体の中では小さな命が確かに育ち始めていた。

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「沙織、話があるんだ。」  
家に帰ると、拓也は静かに切り出した。沙織は不安そうに彼を見つめた。

「どうしたの?なんか顔色悪いよ。」

「実は…俺、妊娠してるらしい。」  
その瞬間、沙織の顔が固まった。

「えっ…妊娠?そんな、どうして…?」  
沙織も理解が追いつかない。自分の下半身で彼が子供を宿しているという状況に、二人は一瞬言葉を失った。

「たぶん、あの時のことだと思う。俺たちが愛し合った時に…。」  
拓也は思い出すように言葉を選んだ。沙織は、顔を赤らめながらもその瞬間を思い返し、頷いた。

「まさか、本当にそんなことが起こるなんて…。拓也、大丈夫なの?」  
沙織は不安そうに彼の顔を覗き込む。拓也の身体が女性として機能しているとはいえ、精神的にも肉体的にも負担が大きいのは明らかだった。

「正直、まだ混乱してる。でも…俺たち、どうするべきなんだろう?」  
拓也の問いに、沙織はしばらく考え込んだ。二人にとって、これは全く予期せぬ出来事だったが、目の前には新しい命が存在している。それをどう受け入れるかは、二人の選択にかかっていた。

「私たち、二人で育てよう。」  
沙織の言葉は静かで、しかし確信に満ちていた。「拓也が妊娠しているのは、私の体だし、責任は二人にある。でも、それってきっと素晴らしいことなんじゃないかな。こんな形で命が生まれるなんて、誰にも経験できないよ。」

拓也は彼女の言葉に一瞬驚いたが、やがて微笑んだ。「そうだな。確かに、これは俺たちにしかできないことかもしれない。」

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日々が過ぎるにつれて、拓也のお腹は少しずつ大きくなっていった。体の変化に戸惑いながらも、彼は沙織と共に新しい命を迎える準備を進めていった。二人で赤ちゃんの名前を考えたり、部屋を準備したりする中で、彼らの絆はより一層深まっていった。

拓也は時折、男性としての自分を見失いそうになることもあった。しかし、沙織はそんな彼を支え続け、二人で乗り越えていこうと誓った。そして、彼の中に育まれている命こそが、二人の愛の証そのものだった。

そして、やがて迎えた出産の日。拓也はその瞬間、自分がこれまで経験したことのない痛みと感動を味わった。新しい命が彼の体から生まれ出た瞬間、彼は初めて父親として、そして母親としての感情が交錯する奇妙な感覚に包まれた。

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「私たちの赤ちゃんだね。」  
沙織が微笑みながら、拓也の隣に寄り添った。二人は小さな命を抱きながら、これからの未来を静かに見つめていた。
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