2 / 69
プロローグ
2
しおりを挟む
「うーん! いい天気ぃ!」
イリア・グランティーノはのどかに広がる草原を左手に眺めながら、なだらかにカーブを描く道をとことこと歩いていた。
イリアは今、公爵令嬢として毎日のように来ていた豪華なドレスを脱ぎ捨てて、簡素な綿のワンピースに歩きやすいペタンコの靴を履いている。これらは家を出ると決めたときから周到に用意した「町娘」仕様の服だ。
鮮やかな金髪は目立つため編み込んで一つにまとめ、帽子をかぶった。
このあたりの地図も頭に叩き込んである。しばらく生活に困らないように、ワンピースの裏には宝石を縫い留めて、金貨では使いにくいので、銀貨や銅貨を入れた袋をポシェットに入れた。
うん、我ながらばっちりだ。
イリアは公爵令嬢だが、家を出ることはずっと昔から決めていたので、庶民の暮らしについてはしっかりと勉強していた。
辻馬車に乗って王都を出て、そのあと馬車を乗り継いでやってきたのは、王都から離れたところにある、ダーネスト地方。イリアの目的は、このダーネスト地方の西に、南北に長く広がる山脈があるのだが、そのダーネスト山脈だ。
(絶対に未来を変えて見せるわ!)
イリアは拳を握りしめると、青く澄み渡る空に突き上げる。
そう、イリアにはこれから先の未来に何が起こるのかがわかっていた。
それは、語れば長くなるのだが、要約すれば、イリアは未来から過去へ転生したのだ。過去をやり直しているのである。
そして、未来でイリアを過去に飛ばした魔女が、どうやらこのダーネスト山脈に居を構えているらしいという情報をついに突き止め、こうして向かっているのだ。
この地方の人間は、魔女をひどく恐れているようで――なんでも、傲慢で情け容赦がなく、とてつもない極悪魔女、らしい――、だれもダーネスト山脈には近寄らない。まるで山賊のような扱いの魔女だ。
そのためイリアは、誰も馬車を用意してくれないので、こうしてえっちらおっちらと目の前に広がる山脈に向かって歩いているのだ。
「クラヴィスには悪いことをしちゃったけど、でも、結局は彼のためなんだし、仕方ないわよね」
イリアは優しく微笑む銀髪の端正な王太子の顔を思い出して、ぶんぶんと首を振った。感傷に浸っている暇はない。イリアには使命があるのだ。
「よーし! のぼるぞぅ!」
イリアはダーネスト山脈の入口に到着すると、険しそうな山にごくんと唾を飲んで、それから一歩、山に足を踏み入れたのだった。
イリア・グランティーノはのどかに広がる草原を左手に眺めながら、なだらかにカーブを描く道をとことこと歩いていた。
イリアは今、公爵令嬢として毎日のように来ていた豪華なドレスを脱ぎ捨てて、簡素な綿のワンピースに歩きやすいペタンコの靴を履いている。これらは家を出ると決めたときから周到に用意した「町娘」仕様の服だ。
鮮やかな金髪は目立つため編み込んで一つにまとめ、帽子をかぶった。
このあたりの地図も頭に叩き込んである。しばらく生活に困らないように、ワンピースの裏には宝石を縫い留めて、金貨では使いにくいので、銀貨や銅貨を入れた袋をポシェットに入れた。
うん、我ながらばっちりだ。
イリアは公爵令嬢だが、家を出ることはずっと昔から決めていたので、庶民の暮らしについてはしっかりと勉強していた。
辻馬車に乗って王都を出て、そのあと馬車を乗り継いでやってきたのは、王都から離れたところにある、ダーネスト地方。イリアの目的は、このダーネスト地方の西に、南北に長く広がる山脈があるのだが、そのダーネスト山脈だ。
(絶対に未来を変えて見せるわ!)
イリアは拳を握りしめると、青く澄み渡る空に突き上げる。
そう、イリアにはこれから先の未来に何が起こるのかがわかっていた。
それは、語れば長くなるのだが、要約すれば、イリアは未来から過去へ転生したのだ。過去をやり直しているのである。
そして、未来でイリアを過去に飛ばした魔女が、どうやらこのダーネスト山脈に居を構えているらしいという情報をついに突き止め、こうして向かっているのだ。
この地方の人間は、魔女をひどく恐れているようで――なんでも、傲慢で情け容赦がなく、とてつもない極悪魔女、らしい――、だれもダーネスト山脈には近寄らない。まるで山賊のような扱いの魔女だ。
そのためイリアは、誰も馬車を用意してくれないので、こうしてえっちらおっちらと目の前に広がる山脈に向かって歩いているのだ。
「クラヴィスには悪いことをしちゃったけど、でも、結局は彼のためなんだし、仕方ないわよね」
イリアは優しく微笑む銀髪の端正な王太子の顔を思い出して、ぶんぶんと首を振った。感傷に浸っている暇はない。イリアには使命があるのだ。
「よーし! のぼるぞぅ!」
イリアはダーネスト山脈の入口に到着すると、険しそうな山にごくんと唾を飲んで、それから一歩、山に足を踏み入れたのだった。
22
あなたにおすすめの小説
図書館でうたた寝してたらいつの間にか王子と結婚することになりました
鳥花風星
恋愛
限られた人間しか入ることのできない王立図書館中枢部で司書として働く公爵令嬢ベル・シュパルツがお気に入りの場所で昼寝をしていると、目の前に見知らぬ男性がいた。
素性のわからないその男性は、たびたびベルの元を訪れてベルとたわいもない話をしていく。本を貸したりお茶を飲んだり、ありきたりな日々を何度か共に過ごしていたとある日、その男性から期間限定の婚約者になってほしいと懇願される。
とりあえず婚約を受けてはみたものの、その相手は実はこの国の第二王子、アーロンだった。
「俺は欲しいと思ったら何としてでも絶対に手に入れる人間なんだ」
夫が愛人を離れに囲っているようなので、私も念願の猫様をお迎えいたします
葉柚
恋愛
ユフィリア・マーマレード伯爵令嬢は、婚約者であるルードヴィッヒ・コンフィチュール辺境伯と無事に結婚式を挙げ、コンフィチュール伯爵夫人となったはずであった。
しかし、ユフィリアの夫となったルードヴィッヒはユフィリアと結婚する前から離れの屋敷に愛人を住まわせていたことが使用人たちの口から知らされた。
ルードヴィッヒはユフィリアには目もくれず、離れの屋敷で毎日過ごすばかり。結婚したというのにユフィリアはルードヴィッヒと簡単な挨拶は交わしてもちゃんとした言葉を交わすことはなかった。
ユフィリアは決意するのであった。
ルードヴィッヒが愛人を離れに囲うなら、自分は前々からお迎えしたかった猫様を自室に迎えて愛でると。
だが、ユフィリアの決意をルードヴィッヒに伝えると思いもよらぬ事態に……。
パン作りに熱中しすぎて婚約破棄された令嬢、辺境の村で小さなパン屋を開いたら、毎日公爵様が「今日も妻のパンが一番うまい」と買い占めていきます
さくら
恋愛
婚約者に「パンばかり焼いていてつまらない」と見捨てられ、社交界から追放された令嬢リリアーナ。
行き場を失った彼女が辿り着いたのは、辺境の小さな村だった。
「せめて、パンを焼いて生きていこう」
そう決意して開いた小さなパン屋は、やがて村人たちの心を温め、笑顔を取り戻していく。
だが毎朝通ってきては大量に買い占める客がひとり――それは領地を治める冷徹公爵だった!
「今日も妻のパンが一番うまい」
「妻ではありません!」
毎日のように繰り返されるやりとりに、村人たちはすっかり「奥様」呼び。
頑なに否定するリリアーナだったが、公爵は本気で彼女を妻に望み、村全体を巻き込んだ甘くて賑やかな日々が始まってしまう。
やがて、彼女を捨てた元婚約者や王都からの使者が現れるが、公爵は一歩も引かない。
「彼女こそが私の妻だ」
強く断言されるたび、リリアーナの心は揺れ、やがて幸せな未来へと結ばれていく――。
パンの香りと溺愛に包まれた、辺境村でのほんわかスローライフ&ラブストーリー。
【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~
降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。
前世の記憶を取り戻した元クズ令嬢は毎日が楽しくてたまりません
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のソフィーナは、非常に我が儘で傲慢で、どしうようもないクズ令嬢だった。そんなソフィーナだったが、事故の影響で前世の記憶をとり戻す。
前世では体が弱く、やりたい事も何もできずに短い生涯を終えた彼女は、過去の自分の行いを恥、真面目に生きるとともに前世でできなかったと事を目いっぱい楽しもうと、新たな人生を歩み始めた。
外を出て美味しい空気を吸う、綺麗な花々を見る、些細な事でも幸せを感じるソフィーナは、険悪だった兄との関係もあっという間に改善させた。
もちろん、本人にはそんな自覚はない。ただ、今までの行いを詫びただけだ。そう、なぜか彼女には、人を魅了させる力を持っていたのだ。
そんな中、この国の王太子でもあるファラオ殿下の15歳のお誕生日パーティに参加する事になったソフィーナは…
どうしようもないクズだった令嬢が、前世の記憶を取り戻し、次々と周りを虜にしながら本当の幸せを掴むまでのお話しです。
カクヨムでも同時連載してます。
よろしくお願いします。
「転生したら推しの悪役宰相と婚約してました!?」〜推しが今日も溺愛してきます〜 (旧題:転生したら報われない悪役夫を溺愛することになった件)
透子(とおるこ)
恋愛
読んでいた小説の中で一番好きだった“悪役宰相グラヴィス”。
有能で冷たく見えるけど、本当は一途で優しい――そんな彼が、報われずに処刑された。
「今度こそ、彼を幸せにしてあげたい」
そう願った瞬間、気づけば私は物語の姫ジェニエットに転生していて――
しかも、彼との“政略結婚”が目前!?
婚約から始まる、再構築系・年の差溺愛ラブ。
“報われない推し”が、今度こそ幸せになるお話。
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる
葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。
アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。
アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。
市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる