転生した公爵令嬢は王子様との婚約を破棄して魔女になります!

狭山ひびき

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フェルナーンの王太子

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 イリアは長い金髪をせっせと編み込んで、紺色のワンピースに着替えると、目深に帽子をかぶって顔半分を覆い隠した。

「準備できたかーい?」

「あ、はーい!」

 アマルベルダに呼ばれてイリアは玄関まで駆けて行くと、そこにはすっきりとした白いシャツにダークグレーのトラウザース姿のアマルベルダ――リュシオンがいた。

 魔女アマルベルダは、人目に触れるときだけ女装を解き、男のリュシオンの姿になるのだ。

 イリアとリュシオンは今からニーチェの町に買い出しに行くところだった。

「ポチ、いい子でお留守番をしておくんだよ」

 アマルベルダの留守中、イリアがお菓子を作ろうとしてボヤ騒ぎを起こしてからというもの、魔女は買い出しにイリアを同行させるようになった。曰く「この娘から目を離すとろくなことをしでかさないから心配で仕方がない」らしい。

 あのボヤ騒ぎはたまたまだったと弁明したいイリアだったが、あの時に魔女に多大なる迷惑をかけたのは事実なので、ここは素直にアマルベルダの言うことに従った。買い出しに連れて行ってくれるのはそれなりに楽しかったし、災い転じてなんとやらである。

 リュシオンはイリアにすっと手を差し出した。

「ほら、手を離すんじゃないよ」

 イリアは頷いて、彼の手をぎゅっと握りしめた。直後、ぶわっと強い風に巻き込まれたかと思えば、イリアたちは町のはずれにある川の近くにいた。川から町まで、歩いて数分程度の距離だ。

 それにしても――、リュシオンはこうしてみると、普段女装しているとは思えないほど端正な青年だった。背は高く、細身に見えるけれど意外とがっしりしていて、細めだがきりっとつり上がり気味の眉は、気だるそうに少し垂れ下がった目元と相まって、何とも言えない魅力がある。

 クラヴィスも顔立ちの整った美青年だが、リュシオンも負けず劣らず麗しかった。

(この人も謎な人よね……)

 魔女という浮世離れした職業(?)についているせいなのか、今までそれほど疑問に思わなかったが、顔立ちのみならず、彼の所作もどこかの貴族の子弟と言われても納得できるほど洗練されている。

 アマルベルダの格好をしているときはそれほど気にならないのだが、こうしてリュシオンの姿を見ると、イリアはどうして魔女なんてしているのだろうと違和感を覚えるのだ。

「ほら、ぼーっとしてないで行くよ」

「え、あ、はい! リュシオ――じゃなくて、『旦那様』」

 リュシオンに促されて、イリアは慌てて彼のあとを追った。
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