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温泉旅行はどきどきがいっぱいです
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イリアのナイトとして、ともに離宮に連れてこられた白狐ポチだったが、彼は大の水嫌いで、当然湖のボートになんて乗るはずもない。
ポチは日当たりのいい居間の窓際に丸くなると、気持ちよさそうに昼寝を楽しむことにしたらしい。
イリアは「いってきます」とポチの頭を撫でると、クラヴィスとアマルベルダとともに湖に向かった。
湖に行くと、水面には想像以上の霧が立ち込めていた。
「これではボートは無理だな」
クラヴィスはそう判じて、早くもボートを諦めようとした。確かに霧の中でボートをこぐなんて無謀すぎる。岸から向こう岸が見えないくらいなのだ、湖の中で方向感覚を失うのはわかりきっていた。
イリアはしょんぼりして、「ほらやっぱ温泉だ」と妙に嬉しそうなクラヴィスの案に乗りかけた。しかし――
「霧がなんだっていうんだい。このアマルベルダ様の敵じゃぁないね」
アマルベルダがそう言って、パチンと指を鳴らすと、ぶわっと吹き抜けた突風によってあっという間に霧が晴れてしまった。
「ほら、ボートだよ」
その時イリアの隣で「ちっ」と舌打ちが聞こえたような気がしたが、振り返ったクラヴィスは優しい微笑みを浮かべていたし、おそらく気のせいだろう。
そして、イリアたちを乗せたボートは、すーっとなめらかに湖を進みはじめた。
もちろん、イリアたちはオールなんて漕いでいない。クラヴィスは、おそらくイリアと二人きりなら率先してオールを手にしただろうが、アマルベルダも乗ったボートで、どうして僕が漕がないといけないんだと言わんばかりだった。そしてそれはアマルベルダにも言えることで、「どうしてあたしが、そんな汗水かいてボートを漕ぐんだい」と言った魔女によって、ボートにひとりでに動く魔法がかけられたのである。
滑るように進むボートに、イリアは楽しくなった。揺れないボートなんてはじめてだ。イリアはボートの淵から身を乗り出すと、湖に指の先をつけてみた。人肌よりも少しぬるいくらいの水温だ。
アマルベルダもボート遊びが気に入ったようで、気をよくした魔女は人差し指を立てると、それをすいっと弧を描くように滑らせた。すると突然、遠くの湖の水がまるで大蛇のように水面から飛び出してきて、半円を描いて遠くの水面に飲み込まれた。
イリアは感動してぱちぱちと手を叩いた。
「すごーい!」
「なぁに、簡単だよ。例えば……」
アマルベルダはボートの淵から腕を伸ばして、水面に人差し指をつけた。すると水が一筋、空に向かって飛び上がった。
「このくらいならあんたにだってできるんじゃないかい?」
「本当ですか!?」
いまだ失敗続きのイリアは、今度こそ魔法を成功させると意気込んだ。
そんな様子をクラヴィスは面白くなさそうに見つめていたが、愛しのイリアが楽しそうなのを邪魔するのも忍びなく、しばらく黙ってみていることにした。
クラヴィスはボートの淵に頬杖をついて、魔女になりたいという婚約者の魔女としての成長ぶりを見てやるつもりで、イリアが水面に手を近づける様子をながめていた。
「せぇ――のっ!」
なんだか気合たっぷりの掛け声で、イリアが湖の水にありったけの力をこめた瞬間。
「うわあああああ―――!」
なぜか勢いよくボートがひっくり返り、転覆した。
ポチは日当たりのいい居間の窓際に丸くなると、気持ちよさそうに昼寝を楽しむことにしたらしい。
イリアは「いってきます」とポチの頭を撫でると、クラヴィスとアマルベルダとともに湖に向かった。
湖に行くと、水面には想像以上の霧が立ち込めていた。
「これではボートは無理だな」
クラヴィスはそう判じて、早くもボートを諦めようとした。確かに霧の中でボートをこぐなんて無謀すぎる。岸から向こう岸が見えないくらいなのだ、湖の中で方向感覚を失うのはわかりきっていた。
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その時イリアの隣で「ちっ」と舌打ちが聞こえたような気がしたが、振り返ったクラヴィスは優しい微笑みを浮かべていたし、おそらく気のせいだろう。
そして、イリアたちを乗せたボートは、すーっとなめらかに湖を進みはじめた。
もちろん、イリアたちはオールなんて漕いでいない。クラヴィスは、おそらくイリアと二人きりなら率先してオールを手にしただろうが、アマルベルダも乗ったボートで、どうして僕が漕がないといけないんだと言わんばかりだった。そしてそれはアマルベルダにも言えることで、「どうしてあたしが、そんな汗水かいてボートを漕ぐんだい」と言った魔女によって、ボートにひとりでに動く魔法がかけられたのである。
滑るように進むボートに、イリアは楽しくなった。揺れないボートなんてはじめてだ。イリアはボートの淵から身を乗り出すと、湖に指の先をつけてみた。人肌よりも少しぬるいくらいの水温だ。
アマルベルダもボート遊びが気に入ったようで、気をよくした魔女は人差し指を立てると、それをすいっと弧を描くように滑らせた。すると突然、遠くの湖の水がまるで大蛇のように水面から飛び出してきて、半円を描いて遠くの水面に飲み込まれた。
イリアは感動してぱちぱちと手を叩いた。
「すごーい!」
「なぁに、簡単だよ。例えば……」
アマルベルダはボートの淵から腕を伸ばして、水面に人差し指をつけた。すると水が一筋、空に向かって飛び上がった。
「このくらいならあんたにだってできるんじゃないかい?」
「本当ですか!?」
いまだ失敗続きのイリアは、今度こそ魔法を成功させると意気込んだ。
そんな様子をクラヴィスは面白くなさそうに見つめていたが、愛しのイリアが楽しそうなのを邪魔するのも忍びなく、しばらく黙ってみていることにした。
クラヴィスはボートの淵に頬杖をついて、魔女になりたいという婚約者の魔女としての成長ぶりを見てやるつもりで、イリアが水面に手を近づける様子をながめていた。
「せぇ――のっ!」
なんだか気合たっぷりの掛け声で、イリアが湖の水にありったけの力をこめた瞬間。
「うわあああああ―――!」
なぜか勢いよくボートがひっくり返り、転覆した。
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