転生した公爵令嬢は王子様との婚約を破棄して魔女になります!

狭山ひびき

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フェルナーンからの招待状

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 旧王都にある古い城は、普段は使われていないとはいえ、しっかりと手入れが行き届いていた。

 旧王都であった町は、今も大きな町として残っており、城はその町全体を見下ろせるように小高い丘の上に立っていた。

 石畳の坂道をのぼり城に到着すると、イリアは門から城の玄関まで幾重にも重なって続く大きな薔薇のアーチに驚いた。それは白や赤の花をつけ、かぐわしい香りを放ってイリアたちを出迎えた。

「五代前の国王の正妃が薔薇が好きだったようで、この城にはいたるところに薔薇が植えられているんですよ」

 なるほど、庭に入った途端にむせ返るような薔薇の香りに包まれたのは、この薔薇のアーチのせいではなく、庭全体に植えられた薔薇たちによるものだったらしい。

「お望みなら、湯に使う薔薇を切って運ばせますよ」

 アルベールはそう言ってくれたが、せっかく綺麗に咲いている薔薇を切り落とすのは忍びなく、イリアは「お気持ちだけ」と断った。

 城に入れば、少しひんやりとしていた。微かな肌寒さを感じていると、クラヴィスが肩にショールをかけてくれた。イリアが振り向いて彼に「ありがとう」微笑むと、その様子を見ていたアルベールが少し驚いたように言った。

「お二人は仲がよろしいのですね」

 イリアは照れて、腕に抱いていたポチのもふもふした体に顔をうずめた。

 しかし、クラヴィスはこんなことで照れるような殊勝な性格はしていない。彼はイリアの肩を引き寄せると、堂々と言った。

「ええ、僕は婚約者を愛していますから」

 明け透けに宣言したクラヴィスに、イリアは顔から火が出そうになった。もちろんイリアだって彼を愛している。だが、隣国の王子の前でそんな堂々とのろけなくたっていいではないか。

 だが、人ができているアルベールは、こんなことであきれたりはしなかった。むしろ彼は感嘆するように言った。

「素敵ですね。……うちの王家はお互いがお互いに無関心なので、少し羨ましくなります」

 イリアは彼が「家族」ではなく「王家」と表現したことに微かな違和感を覚えたが、アルベールが「こっちですよ」と言って踵を返してしまったので、疑問は心の中にとどめておいた。

 彼はクラヴィスとイリアをそれぞれの部屋に案内すると、「では、夕食の時に」と言って去っていった。
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