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猫になった王妃と冷淡だった夫
SIDEリオン 気まぐれな猫 2
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余計なことは何も考えたくなくて、ひたすら仕事に没頭していたら、補佐官に「休憩を……」と言われて顔を上げた。
「もう三時間も休憩を取られていません。急ぎの書類も片付きましたし、少し休憩なさってはいかがですか?」
リオンの様子が少しおかしいことに気が付いたのだろうか。
普段はリオンのすることに口出ししない補佐官に休むように言われて、リオンはふと、窓を振り返った。
窓の外では雪が舞っている。
外に出れば、頭も冷えるだろうか。
「そうだな。少し散歩をしてくる。ああ、庭に降りるだけだ。ついてこなくていい」
そう言ったところで、少し離れて護衛がついてくるだろう。
国王が一人でふらふらできるはずもなく、それを窮屈だと思う心は、とっくの昔になくなった。
リオンは、王子だった時は「世継ぎ」、即位してからは「国王」として、周囲から大切に守られている。
けれどもそれは別に、「リオン」だからではない。例えば自分の上に兄がいたら状況は違っただろう。彼らはリオンがリオンだから大切にしているわけではないのだ。
そんなくだらないことを考えて、本当に今日はどうしたんだろうかと自嘲したくなった。
彼らはただ、職務を全うしているだけだ。そこにある理由を気にする必要などなかろうに。
雪が舞う庭をぼんやりと散歩する。
頬を刺す冷たい空気が今は心地よい。
うっすらと庭を覆う雪を見ていると、どうしてだろう、フィリエルを思い出した。
ゆるく波打つ、光輝くような銀色の髪に、雪を欺くような白い肌をした彼女には、雪が似合う気がする。
(そういえば、いつだっただろう。同じようなことを思ったことがあったような……)
なんとなく気になって、足を止めて考え込んだ時、足首の当たりに衝撃を受けた。
いや、衝撃というには軽すぎるようなものだったが、何かがぶつかった気配と、それから「にゃん!」という小さな鳴き声に何事だろうかと視線を落とす。
そこには銀色の柔らかい毛並みをした、びっくりするほど美人な猫がいた。
その猫は、紫色の瞳を大きく見開いて、こちらを見上げて固まっている。
(……似てる)
また、フィリエルの顔を思い出した。
何故だろう。普段生活していて妻の顔を思い出すことなんてないのに、どうして今日はこんなにも彼女の顔を思い出すのか。
猫は警戒するようにじりじりと後ろに後ずさった。
このままでは逃げられる思った次の瞬間、リオンは無意識のうちにその猫を抱き上げていた。
「こんなに震えて、寒いんだろう? 仕方がない猫だな」
どうしてなのだろう。このままこの猫を逃がしてはいけない、そんな気がする。
昔、動物を飼いたいと言って母親に反対されたことを思い出したが、今はその母も弟と離宮の中だ。誰もリオンのすることに反対などしない。
「おいで。温めて上げよう」
冷たくなっていた柔らかい毛を撫でながら、リオンはそのまま自室に猫を連れ帰った。
「もう三時間も休憩を取られていません。急ぎの書類も片付きましたし、少し休憩なさってはいかがですか?」
リオンの様子が少しおかしいことに気が付いたのだろうか。
普段はリオンのすることに口出ししない補佐官に休むように言われて、リオンはふと、窓を振り返った。
窓の外では雪が舞っている。
外に出れば、頭も冷えるだろうか。
「そうだな。少し散歩をしてくる。ああ、庭に降りるだけだ。ついてこなくていい」
そう言ったところで、少し離れて護衛がついてくるだろう。
国王が一人でふらふらできるはずもなく、それを窮屈だと思う心は、とっくの昔になくなった。
リオンは、王子だった時は「世継ぎ」、即位してからは「国王」として、周囲から大切に守られている。
けれどもそれは別に、「リオン」だからではない。例えば自分の上に兄がいたら状況は違っただろう。彼らはリオンがリオンだから大切にしているわけではないのだ。
そんなくだらないことを考えて、本当に今日はどうしたんだろうかと自嘲したくなった。
彼らはただ、職務を全うしているだけだ。そこにある理由を気にする必要などなかろうに。
雪が舞う庭をぼんやりと散歩する。
頬を刺す冷たい空気が今は心地よい。
うっすらと庭を覆う雪を見ていると、どうしてだろう、フィリエルを思い出した。
ゆるく波打つ、光輝くような銀色の髪に、雪を欺くような白い肌をした彼女には、雪が似合う気がする。
(そういえば、いつだっただろう。同じようなことを思ったことがあったような……)
なんとなく気になって、足を止めて考え込んだ時、足首の当たりに衝撃を受けた。
いや、衝撃というには軽すぎるようなものだったが、何かがぶつかった気配と、それから「にゃん!」という小さな鳴き声に何事だろうかと視線を落とす。
そこには銀色の柔らかい毛並みをした、びっくりするほど美人な猫がいた。
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(……似てる)
また、フィリエルの顔を思い出した。
何故だろう。普段生活していて妻の顔を思い出すことなんてないのに、どうして今日はこんなにも彼女の顔を思い出すのか。
猫は警戒するようにじりじりと後ろに後ずさった。
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昔、動物を飼いたいと言って母親に反対されたことを思い出したが、今はその母も弟と離宮の中だ。誰もリオンのすることに反対などしない。
「おいで。温めて上げよう」
冷たくなっていた柔らかい毛を撫でながら、リオンはそのまま自室に猫を連れ帰った。
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