夫に顧みられない王妃は、人間をやめることにしました~もふもふ自由なセカンドライフを謳歌するつもりだったのに、何故かペットにされています!~

狭山ひびき

文字の大きさ
71 / 85
夫婦の形

新たな火種 3

しおりを挟む
「陛下にキスしてもらうにはどうしたらいいか? そんなこと、あたしが知るはずないだろう?」

 朝食をすませ、リオンが仕事に行くと、フィリエルは獣医の部屋を訪れてヴェリア相手に真剣な顔で相談事をしていた。
 周囲から見ればとってもくだらない問題だが、フィリエルには重大な問題だ。

 ヴェリアはフィリエルが人に戻っても、リオンの計らいでいまだに獣医として雇われていた。
 城にはほかにも動物はいるし、獣医を置いておいても問題はないと判断したようだ。
 もっと言えば、フィリエルは人に戻ったけれど、かけられた魔法は半永久的に解けないとヴェリアが言っていた。つまり、何かのきっかけで猫に戻る可能性がないわけではない。
 そうなったとき、近くにヴェリアがいると安心だ、というのが本音らしい。

「あんたの大問題って平和でいいねえ」
「全然平和じゃないわ! だって、猫のときはちゅってしてくれたのよ? なのに人に戻った途端に一度もないってどういうこと?」
「知らないよそんなの。陛下が人間の女の唇に興味がないだけじゃないのかい?」
「そうなの⁉」
「だから、知らないってば」

 ヴェリアはものすごくどうでもよさそうな顔でひらひらと手を振った。

「そんなに唇がほしけりゃ自分で奪えばいいだろう。一緒の部屋で寝ているんだ、いくらでもチャンスはあるじゃないか」
「……はしたないって思われたらやだもん」
「あーもう本当に面倒くさい子だよあんたは」

 ヴェリアはそういうが、フィリエルから迫って拒絶でもされたら、たぶん、ショックでまた猫に戻る気がする。なんとなく。

「色恋沙汰で頭を悩ます前に、あんた、しなくちゃいけないことがあるだろう? 大丈夫なのかい、仕事は」
「あ、うん。今日は午前中は予定ないから」

 王妃には王妃の仕事があるが、これまでフィリエルは、どうしても避けられない公務以外は何もさせてもらえていなかった。
 リオンによると、ボルデ元宰相が王妃の仕事を取り上げていたらしい。
 リオンはリオンで、元宰相からフィリエルが仕事を拒否したと聞かされていて、嫌々嫁いで来たんだろうから強制する必要はないと放置していたとか。

(そんなこと言ってないのにね!)

 つくづく腹が立つ元宰相である。もう処刑されてこの世にいないが、生きているうちに猫の爪の餌食にしてやればよかった。
 誤解だとわかってからは、フィリエルに王妃の仕事が割り振られるようになったけれど、いきなり大量に回すと困るだろうからとリオンが加減してくれているのでそれほど忙しくないのだ。

(陛下、目の下に隈を作るくらい忙しいみたいだから、手伝えることがあれば手伝いたいけど……政関係はわたしあんまり詳しくないし)

 よくわかっていない人間が下手に出張ると迷惑をかける。
 しょんぼりと肩を落としたとき、コンコンと扉が叩かれた。
 ヴェリアが返事をすると、ボルデ元宰相のかわりに宰相に就任したクロデル侯爵が扉を開けて入って来た。

「ああ、やはりこちらにおいででしたか」

 ソファに座ってヴェリアとお茶を飲んでいたフィリエルに、クロデル宰相が柔らかく相好を崩す。クロデル宰相は六十前の優しそうな紳士で、いつも穏やかな表情を崩さないのでフィリエルも大好きだった。

「どうなさったんですか?」
「王妃様にご確認いただきたいものがございまして。来月の陛下の生誕祭に出席を表明された他国の方のリストなんですが……」

 リオンが忙しいので、彼の生誕祭の準備はクロデル宰相とフィリエルが主体となって行っていた。
 隣国に招待状を送って戻って来た出席者リストをまとめてくれたらしい。
 クロデル宰相からリストを受け取ると、ゆっくりと確認していたフィリエルは、そこにある人物名を見つけて目を見開いた。

「何か問題がございましたか?」
「え? ええっと、いいえ……」

 フィリエルは笑って誤魔化すと、「問題ありません」とクロデル宰相にリストを返却する。
 しかし、笑顔の下で、フィリエルは焦った。

(どうしよう……)

 リストには、フィリエルに求婚してきたベリオーズ国の第三王子オーレリアンの名前があったのだ。

しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます

時岡継美
ファンタジー
 初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。  侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。  しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?  他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。  誤字脱字報告ありがとうございます!

結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください

シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。 国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。 溺愛する女性がいるとの噂も! それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。 それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから! そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー 最後まで書きあがっていますので、随時更新します。 表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。

【完結】間違えたなら謝ってよね! ~悔しいので羨ましがられるほど幸せになります~

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
ファンタジー
「こんな役立たずは要らん! 捨ててこい!!」  何が起きたのか分からず、茫然とする。要らない? 捨てる? きょとんとしたまま捨てられた私は、なぜか幼くなっていた。ハイキングに行って少し道に迷っただけなのに?  後に聖女召喚で間違われたと知るが、だったら責任取って育てるなり、元に戻すなりしてよ! 謝罪のひとつもないのは、納得できない!!  負けん気の強いサラは、見返すために幸せになることを誓う。途端に幸せが舞い込み続けて? いつも笑顔のサラの周りには、聖獣達が集った。  やっぱり聖女だから戻ってくれ? 絶対にお断りします(*´艸`*) 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2022/06/22……完結 2022/03/26……アルファポリス、HOT女性向け 11位 2022/03/19……小説家になろう、異世界転生/転移(ファンタジー)日間 26位 2022/03/18……エブリスタ、トレンド(ファンタジー)1位

悪女として処刑されたはずが、処刑前に戻っていたので処刑を回避するために頑張ります!

ゆずこしょう
恋愛
「フランチェスカ。お前を処刑する。精々あの世で悔いるが良い。」 特に何かした記憶は無いのにいつの間にか悪女としてのレッテルを貼られ処刑されたフランチェスカ・アマレッティ侯爵令嬢(18) 最後に見た光景は自分の婚約者であったはずのオルテンシア・パネットーネ王太子(23)と親友だったはずのカルミア・パンナコッタ(19)が寄り添っている姿だった。 そしてカルミアの口が動く。 「サヨナラ。かわいそうなフランチェスカ。」 オルテンシア王太子に見えないように笑った顔はまさしく悪女のようだった。 「生まれ変わるなら、自由気ままな猫になりたいわ。」 この物語は猫になりたいと願ったフランチェスカが本当に猫になって戻ってきてしまった物語である。

君を愛せないと言われたので、夫が忘れた初恋令嬢を探します

狭山ひびき
恋愛
「すまない。心の中に別の女性への気持ちを残して君と夫婦にはなれない。本当に、すまない」 アナスタージアは、結婚式の当日、夫婦の寝室にやって来た夫クリフに沈痛そうな顔でそう言われた。 クリフは数日前から一部の記憶を失っており、彼が言うには、初恋の女性がいたことは覚えているのだがその女性の顔を思い出せないという。 しかし思い出せなくとも初恋の女性がいたのは事実で、いまだにその彼女に焦がれている自分は そんな気持ちを抱えてアナスタージアと夫婦生活をおくることはできないと、生真面目な彼は考えたようだ。 ずっと好きだったアナスタージアはショックを受けるが、この結婚は昨年他界した前王陛下がまとめた縁。 財政難の国に多大なる寄付をした功績として、甥であるクリフとアナスタージアの結婚を決めたもので、彼の意思は無視されていた。 アナスタージアははじめてクリフを見たときから彼に恋をしていたが、一方的な想いは彼を苦しめるだけだろう。 それならば、彼の初恋の女性を探して、自分は潔く身を引こう―― 何故なら成金の新興貴族である伯爵家出身の自分が、前王の甥で現王の従弟であるクリフ・ラザフォード公爵につりあうはずがないのだから。 「クリフ様のお気持ちはよく理解しました。王命でわたしとの結婚が決まってさぞおつらかったでしょう。だから大丈夫です。安心してください。わたしとの夫婦生活は、仮初で問題ございません! すぐに離縁とはいかないでしょうが、いずれクリフ様を自由にしてさしあげますので、今しばらくお待ちくださいませ!」 傷む胸を押さえて、アナスタージアは笑う。 大丈夫。はじめから、クリフが自分のものになるなんて思っていない。 仮初夫婦としてわずかな間だけでも一緒にいられるだけで、充分に幸せだ。 (待っていてくださいね、クリフ様。必ず初恋の女性を探して差し上げますから) 果たして、クリフの初恋の女性は誰でどこに住んでいるのか。 アナスタージアは夫の幸せのため、傷つきながらも、彼の初恋の女性を探しはじめて……

「お前を愛することはない」と言われたお飾りの妻ですが、何か?

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することはない!」「そんな事を言うために女性の寝室に押し入ったのですか? もう寝るつもりで化粧を落として髪をほどいて寝着に着替えてるのに! 最っ低!」 仕事大好き女が「お飾りの妻最高!」と恋愛感情無しで結婚したらこうなるよね、というお話。

聖女の力は「美味しいご飯」です!~追放されたお人好し令嬢、辺境でイケメン騎士団長ともふもふ達の胃袋掴み(物理)スローライフ始めます~

夏見ナイ
恋愛
侯爵令嬢リリアーナは、王太子に「地味で役立たず」と婚約破棄され、食糧難と魔物に脅かされる最果ての辺境へ追放される。しかし彼女には秘密があった。それは前世日本の記憶と、食べた者を癒し強化する【奇跡の料理】を作る力! 絶望的な状況でもお人好しなリリアーナは、得意の料理で人々を助け始める。温かいスープは病人を癒し、栄養満点のシチューは騎士を強くする。その噂は「氷の辺境伯」兼騎士団長アレクシスの耳にも届き…。 最初は警戒していた彼も、彼女の料理とひたむきな人柄に胃袋も心も掴まれ、不器用ながらも溺愛するように!? さらに、美味しい匂いに誘われたもふもふ聖獣たちも仲間入り! 追放令嬢が料理で辺境を豊かにし、冷徹騎士団長にもふもふ達にも愛され幸せを掴む、異世界クッキング&溺愛スローライフ! 王都への爽快ざまぁも?

処刑台の皇妃、回帰して復讐を誓う ~冷酷公爵と偽りの婚約者~ おまえたちは許さない!

秦江湖
ファンタジー
皇妃エリアーナは、夫である皇帝アランと、たった一人の親友イザベラの策略により、無実の罪で処刑される。 民衆に罵られ、アランの冷酷な目とイザベラの嘲笑を「始まりの景色」として目に焼き付けながら絶命した彼女は、しかし、処刑の記憶を持ったまま三年前の過去に回帰する。 「おまえたちは許さない」 二度目の人生。 エリアーナの目的はただ一つ、自分を陥れた二人への完璧な復讐。 彼女はまず、アラン(皇太子)からの婚約内示を拒絶。そして、アラン最大の政敵である「北の冷血公爵」ルシアン・ヴァレリウスに接触する。 1周目で得た「未来の知識」を対価に、エリアーナはルシアンに持ちかける。 「貴方様には帝国の覇権を。わたくしには復讐の舞台を。そのための『契約婚約』を――」 憎悪を糧に生きる皇妃と、氷の瞳を持つ公爵。 二人の偽りの婚約の行く末は……

処理中です...