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夫婦の形
新たな火種 3
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「陛下にキスしてもらうにはどうしたらいいか? そんなこと、あたしが知るはずないだろう?」
朝食をすませ、リオンが仕事に行くと、フィリエルは獣医の部屋を訪れてヴェリア相手に真剣な顔で相談事をしていた。
周囲から見ればとってもくだらない問題だが、フィリエルには重大な問題だ。
ヴェリアはフィリエルが人に戻っても、リオンの計らいでいまだに獣医として雇われていた。
城にはほかにも動物はいるし、獣医を置いておいても問題はないと判断したようだ。
もっと言えば、フィリエルは人に戻ったけれど、かけられた魔法は半永久的に解けないとヴェリアが言っていた。つまり、何かのきっかけで猫に戻る可能性がないわけではない。
そうなったとき、近くにヴェリアがいると安心だ、というのが本音らしい。
「あんたの大問題って平和でいいねえ」
「全然平和じゃないわ! だって、猫のときはちゅってしてくれたのよ? なのに人に戻った途端に一度もないってどういうこと?」
「知らないよそんなの。陛下が人間の女の唇に興味がないだけじゃないのかい?」
「そうなの⁉」
「だから、知らないってば」
ヴェリアはものすごくどうでもよさそうな顔でひらひらと手を振った。
「そんなに唇がほしけりゃ自分で奪えばいいだろう。一緒の部屋で寝ているんだ、いくらでもチャンスはあるじゃないか」
「……はしたないって思われたらやだもん」
「あーもう本当に面倒くさい子だよあんたは」
ヴェリアはそういうが、フィリエルから迫って拒絶でもされたら、たぶん、ショックでまた猫に戻る気がする。なんとなく。
「色恋沙汰で頭を悩ます前に、あんた、しなくちゃいけないことがあるだろう? 大丈夫なのかい、仕事は」
「あ、うん。今日は午前中は予定ないから」
王妃には王妃の仕事があるが、これまでフィリエルは、どうしても避けられない公務以外は何もさせてもらえていなかった。
リオンによると、ボルデ元宰相が王妃の仕事を取り上げていたらしい。
リオンはリオンで、元宰相からフィリエルが仕事を拒否したと聞かされていて、嫌々嫁いで来たんだろうから強制する必要はないと放置していたとか。
(そんなこと言ってないのにね!)
つくづく腹が立つ元宰相である。もう処刑されてこの世にいないが、生きているうちに猫の爪の餌食にしてやればよかった。
誤解だとわかってからは、フィリエルに王妃の仕事が割り振られるようになったけれど、いきなり大量に回すと困るだろうからとリオンが加減してくれているのでそれほど忙しくないのだ。
(陛下、目の下に隈を作るくらい忙しいみたいだから、手伝えることがあれば手伝いたいけど……政関係はわたしあんまり詳しくないし)
よくわかっていない人間が下手に出張ると迷惑をかける。
しょんぼりと肩を落としたとき、コンコンと扉が叩かれた。
ヴェリアが返事をすると、ボルデ元宰相のかわりに宰相に就任したクロデル侯爵が扉を開けて入って来た。
「ああ、やはりこちらにおいででしたか」
ソファに座ってヴェリアとお茶を飲んでいたフィリエルに、クロデル宰相が柔らかく相好を崩す。クロデル宰相は六十前の優しそうな紳士で、いつも穏やかな表情を崩さないのでフィリエルも大好きだった。
「どうなさったんですか?」
「王妃様にご確認いただきたいものがございまして。来月の陛下の生誕祭に出席を表明された他国の方のリストなんですが……」
リオンが忙しいので、彼の生誕祭の準備はクロデル宰相とフィリエルが主体となって行っていた。
隣国に招待状を送って戻って来た出席者リストをまとめてくれたらしい。
クロデル宰相からリストを受け取ると、ゆっくりと確認していたフィリエルは、そこにある人物名を見つけて目を見開いた。
「何か問題がございましたか?」
「え? ええっと、いいえ……」
フィリエルは笑って誤魔化すと、「問題ありません」とクロデル宰相にリストを返却する。
しかし、笑顔の下で、フィリエルは焦った。
(どうしよう……)
リストには、フィリエルに求婚してきたベリオーズ国の第三王子オーレリアンの名前があったのだ。
朝食をすませ、リオンが仕事に行くと、フィリエルは獣医の部屋を訪れてヴェリア相手に真剣な顔で相談事をしていた。
周囲から見ればとってもくだらない問題だが、フィリエルには重大な問題だ。
ヴェリアはフィリエルが人に戻っても、リオンの計らいでいまだに獣医として雇われていた。
城にはほかにも動物はいるし、獣医を置いておいても問題はないと判断したようだ。
もっと言えば、フィリエルは人に戻ったけれど、かけられた魔法は半永久的に解けないとヴェリアが言っていた。つまり、何かのきっかけで猫に戻る可能性がないわけではない。
そうなったとき、近くにヴェリアがいると安心だ、というのが本音らしい。
「あんたの大問題って平和でいいねえ」
「全然平和じゃないわ! だって、猫のときはちゅってしてくれたのよ? なのに人に戻った途端に一度もないってどういうこと?」
「知らないよそんなの。陛下が人間の女の唇に興味がないだけじゃないのかい?」
「そうなの⁉」
「だから、知らないってば」
ヴェリアはものすごくどうでもよさそうな顔でひらひらと手を振った。
「そんなに唇がほしけりゃ自分で奪えばいいだろう。一緒の部屋で寝ているんだ、いくらでもチャンスはあるじゃないか」
「……はしたないって思われたらやだもん」
「あーもう本当に面倒くさい子だよあんたは」
ヴェリアはそういうが、フィリエルから迫って拒絶でもされたら、たぶん、ショックでまた猫に戻る気がする。なんとなく。
「色恋沙汰で頭を悩ます前に、あんた、しなくちゃいけないことがあるだろう? 大丈夫なのかい、仕事は」
「あ、うん。今日は午前中は予定ないから」
王妃には王妃の仕事があるが、これまでフィリエルは、どうしても避けられない公務以外は何もさせてもらえていなかった。
リオンによると、ボルデ元宰相が王妃の仕事を取り上げていたらしい。
リオンはリオンで、元宰相からフィリエルが仕事を拒否したと聞かされていて、嫌々嫁いで来たんだろうから強制する必要はないと放置していたとか。
(そんなこと言ってないのにね!)
つくづく腹が立つ元宰相である。もう処刑されてこの世にいないが、生きているうちに猫の爪の餌食にしてやればよかった。
誤解だとわかってからは、フィリエルに王妃の仕事が割り振られるようになったけれど、いきなり大量に回すと困るだろうからとリオンが加減してくれているのでそれほど忙しくないのだ。
(陛下、目の下に隈を作るくらい忙しいみたいだから、手伝えることがあれば手伝いたいけど……政関係はわたしあんまり詳しくないし)
よくわかっていない人間が下手に出張ると迷惑をかける。
しょんぼりと肩を落としたとき、コンコンと扉が叩かれた。
ヴェリアが返事をすると、ボルデ元宰相のかわりに宰相に就任したクロデル侯爵が扉を開けて入って来た。
「ああ、やはりこちらにおいででしたか」
ソファに座ってヴェリアとお茶を飲んでいたフィリエルに、クロデル宰相が柔らかく相好を崩す。クロデル宰相は六十前の優しそうな紳士で、いつも穏やかな表情を崩さないのでフィリエルも大好きだった。
「どうなさったんですか?」
「王妃様にご確認いただきたいものがございまして。来月の陛下の生誕祭に出席を表明された他国の方のリストなんですが……」
リオンが忙しいので、彼の生誕祭の準備はクロデル宰相とフィリエルが主体となって行っていた。
隣国に招待状を送って戻って来た出席者リストをまとめてくれたらしい。
クロデル宰相からリストを受け取ると、ゆっくりと確認していたフィリエルは、そこにある人物名を見つけて目を見開いた。
「何か問題がございましたか?」
「え? ええっと、いいえ……」
フィリエルは笑って誤魔化すと、「問題ありません」とクロデル宰相にリストを返却する。
しかし、笑顔の下で、フィリエルは焦った。
(どうしよう……)
リストには、フィリエルに求婚してきたベリオーズ国の第三王子オーレリアンの名前があったのだ。
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