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第一部 三回目の人生
プロローグ 死に戻った魔女
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サモラ王国の王族たちは、「魔女」が嫌いだ。
魔女というのは特別な力を持ち、時に人の心をも思いのままに操る非人道的な女だといわれている。
とはいえ、現在魔女の力を持って生まれるものは限りなく少なく、それこそ、百万人に一人の確率でしか誕生しないと言われていた。
わたしからしてみたら、その統計はいったいどこの誰がどうやって導き出したもので、その信憑性はいかほどなのかと言いたいところだが、少ないのは確かだ。
世の中、魔女のなんたるかも正しく理解していない人間ばかりのくせに、どこかの頭でっかちな学者気取りの人間が、「魔女とは」という適当なことを「哲学」とか称して並べ立てているのも知っていたが、結局、誰も真実なんて知らない。
そして、そんなことは、わたしにとってはどうだっていい話だった。
そんなことよりも、わたしの、今のこの状況の方が問題だったからである。
「また戻って来た~~~~~~ッ‼」
本や薬草、ついでに服や靴や果ては空っぽの鍋が散らばった部屋の中。
破れたカーテンの隙間から差し込んできた朝日が顔に当たって目を開けたわたしは、その瞬間すべてを悟った。
戻って来た。
十六歳のわたし――まだ、独身で少女のアサレアに。
同じ人生も三度目なら、もはや慣れたものだ。
ベッドの上に上体を起こし、かくりとうなだれる。
わたしは、死んだはずだった。
それなのに、過去に戻って来た。
どういう因果なのか、それともこの国で忌み嫌われる魔女の血がわたしの中に流れているからなのか、理由は定かではない。
だけどわたしは、今日から三度目の人生を送るのだ。それだけはわかった。
「それにしても、前の人生はクソだったわ! 前って言っても、つい数分前のことなんですけどねッ‼ あー! む~か~つ~く~! 男なんてくそくらえ‼」
「朝っぱらから何をわめいているわけ、アサレアってば。昨日薬作りに失敗して鍋を爆発させた時についでに頭の中も爆発させたのかな? これ以上馬鹿になったら大変だから、あれだけ慎重に作れって言ったのに」
頭をかきむしって喚いたわたしの耳に、「あ~やれやれ」とあきれた声がする。
わたしは頭をかきむしるのをやめて、バッと顔を上げた。
「ラロ! わたしは今、ものすごく大切な教訓を胸に刻んでいる最中なの、邪魔をしないで!」
「男なんてくそくらえって? すごい教訓もあったもんだ」
ぷかりぷかりと、真っ白い子犬――ラロがへそ天状態で宙に浮いている。
器用にも前足を後頭部に回して、犬らしからぬ格好でわたしのそばまで宙をふわふわと飛んで来たラロは、へっと口をゆがめて笑った。
この愛嬌もへったくれもない子犬ラロは、わたしの唯一のお友達だ。
本人は「伝説の聖獣フェンリル様だ!」などと大それたことを言っているが、どう見てもただの子犬である。きっとフェンリルになる夢でも見たのだろう。五歳の時からの付き合いだが、その夢はいったいいつ醒めるのだろうか。
「そうよ、すごい教訓なのよ! 男を信じると痛い目を見る! 死にたくなければ信じるなって言う、素晴らしい教訓なの! わかったら邪魔しないで」
「……アサレアはあれだよね、こんなところで一人で暮らしているから、きっと知能指数が五歳のままで止まっているんだろうね」
ひどい言われようだが、わたしは聞こえなかったふりで無視をした。
本当に、本当にそれどころではないのだ!
だってだって、すっごく腹が立っているのだから!
今日からはじまった三度目の人生。
三度目ということは、当然、一度目も二度目もあるのだが、その人生が本当にクソみたいな人生だったのである。
……え? クソクソ言いすぎ? 口が悪いって? やさぐれているんだから、そのくらい目をつむってちょうだい!
というか、わたしの一度目の人生と二度目の人生を聞いたら、「クソみたいな人生」っ理由がわかるから、絶対‼
あ~!
本当に、忌々しいわ~‼
魔女というのは特別な力を持ち、時に人の心をも思いのままに操る非人道的な女だといわれている。
とはいえ、現在魔女の力を持って生まれるものは限りなく少なく、それこそ、百万人に一人の確率でしか誕生しないと言われていた。
わたしからしてみたら、その統計はいったいどこの誰がどうやって導き出したもので、その信憑性はいかほどなのかと言いたいところだが、少ないのは確かだ。
世の中、魔女のなんたるかも正しく理解していない人間ばかりのくせに、どこかの頭でっかちな学者気取りの人間が、「魔女とは」という適当なことを「哲学」とか称して並べ立てているのも知っていたが、結局、誰も真実なんて知らない。
そして、そんなことは、わたしにとってはどうだっていい話だった。
そんなことよりも、わたしの、今のこの状況の方が問題だったからである。
「また戻って来た~~~~~~ッ‼」
本や薬草、ついでに服や靴や果ては空っぽの鍋が散らばった部屋の中。
破れたカーテンの隙間から差し込んできた朝日が顔に当たって目を開けたわたしは、その瞬間すべてを悟った。
戻って来た。
十六歳のわたし――まだ、独身で少女のアサレアに。
同じ人生も三度目なら、もはや慣れたものだ。
ベッドの上に上体を起こし、かくりとうなだれる。
わたしは、死んだはずだった。
それなのに、過去に戻って来た。
どういう因果なのか、それともこの国で忌み嫌われる魔女の血がわたしの中に流れているからなのか、理由は定かではない。
だけどわたしは、今日から三度目の人生を送るのだ。それだけはわかった。
「それにしても、前の人生はクソだったわ! 前って言っても、つい数分前のことなんですけどねッ‼ あー! む~か~つ~く~! 男なんてくそくらえ‼」
「朝っぱらから何をわめいているわけ、アサレアってば。昨日薬作りに失敗して鍋を爆発させた時についでに頭の中も爆発させたのかな? これ以上馬鹿になったら大変だから、あれだけ慎重に作れって言ったのに」
頭をかきむしって喚いたわたしの耳に、「あ~やれやれ」とあきれた声がする。
わたしは頭をかきむしるのをやめて、バッと顔を上げた。
「ラロ! わたしは今、ものすごく大切な教訓を胸に刻んでいる最中なの、邪魔をしないで!」
「男なんてくそくらえって? すごい教訓もあったもんだ」
ぷかりぷかりと、真っ白い子犬――ラロがへそ天状態で宙に浮いている。
器用にも前足を後頭部に回して、犬らしからぬ格好でわたしのそばまで宙をふわふわと飛んで来たラロは、へっと口をゆがめて笑った。
この愛嬌もへったくれもない子犬ラロは、わたしの唯一のお友達だ。
本人は「伝説の聖獣フェンリル様だ!」などと大それたことを言っているが、どう見てもただの子犬である。きっとフェンリルになる夢でも見たのだろう。五歳の時からの付き合いだが、その夢はいったいいつ醒めるのだろうか。
「そうよ、すごい教訓なのよ! 男を信じると痛い目を見る! 死にたくなければ信じるなって言う、素晴らしい教訓なの! わかったら邪魔しないで」
「……アサレアはあれだよね、こんなところで一人で暮らしているから、きっと知能指数が五歳のままで止まっているんだろうね」
ひどい言われようだが、わたしは聞こえなかったふりで無視をした。
本当に、本当にそれどころではないのだ!
だってだって、すっごく腹が立っているのだから!
今日からはじまった三度目の人生。
三度目ということは、当然、一度目も二度目もあるのだが、その人生が本当にクソみたいな人生だったのである。
……え? クソクソ言いすぎ? 口が悪いって? やさぐれているんだから、そのくらい目をつむってちょうだい!
というか、わたしの一度目の人生と二度目の人生を聞いたら、「クソみたいな人生」っ理由がわかるから、絶対‼
あ~!
本当に、忌々しいわ~‼
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