俺様公爵様は平民上がりの男爵令嬢にご執心

狭山ひびき

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小さな変化 4

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(セレアはおとなしくしているだろうか……)

 瘴気溜まりのあった場所へ視察に向かって三日目の夜。
 ジルベールは宿の部屋の窓から夜空を眺めて、そっと息を吐き出した。
 目の前で意識を失って崩れ落ちたセレアの姿が思い出されて、ジルベールは不安で不安で仕方がなくなってくる。
 自分自身の体調の変化に疎いのか、それとも我慢強いのか。知らないところで倒れるまで無理をされるのがわかった今、ジルベールはセレアに何かあってもすぐに駆け付けられない距離にいることが不安で心配なのだ。

 普通の貴族女性なら「疲れた」とすぐに音を上げそうなことでも、セレアは平然としていそうだし、これまでの生活環境から考えると無理をするのが当たり前になっているような気もする。
 セレアの体調が万全ならば視察に同行させたかったが、熱が下がったばかりの彼女に無理はさせたくない。
 ロメーヌもニナもそばにいるから大丈夫だと思いたいが、顔が見えないと安心できなかった。

 ふとした瞬間に「セレアはおとなしくしているだろうか」とこぼすジルベールに、この三日でモルガンはすっかりあきれ顔になってしまったが、できるだけ早く視察を終えられるようにスケジュールの調整をしてくれている。
 あと二日あればすべての確認を終えて帰途につけるだろう。
 もう少し予定を縮めるために馬車泊でもいいと言ったのだがそれは却下されて、しかし宿のグレードを落とすことで移動距離が確保できたのだ。
 こんな強行軍みたいな視察は今後なしにしてくださいねと小言は言われたが、それでも何とか調整してくれるモルガンには感謝しかない。

(最終日の町で何か買って帰るか……。食べ物のほうがいいよな)

 装飾品などを贈るとセレアは困るだろうが、お菓子ならきっと喜ぶはずだ。毎回ティータイムで出されるお菓子を楽しみにしているようだから。
 パッと花が咲いたように笑うセレアの笑顔を思い浮かべてジルベールが口元をほころばせたとき、宿の扉が「旦那様‼」と言う声とともにドンドンと激しく叩かれた。

「なんだ?」

 顔だけ振り向いて声をかけると、モルガンが飛び込んでくる。

「た、大変です!」

 息を切らせて飛び込んできたモルガンの顔は青ざめていた。
 よほどのことがあったに違いないと、ジルベールは表情を引き締める。

「何があった?」

 椅子から腰を浮かせたジルベールは、次の瞬間、凍り付いた。

「奥様が! 奥様が行方不明になりました‼」



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