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暗闇の抱擁
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遥香は耳を塞いでうずくまっていた。
先ほどから繰り返し雷の音が響いており、窓のない小屋では外がどうなっているのかもわからない。叩きつける雨の音と雷の音に恐慌状態となって、ぼろぼろと泣きながら、遥香は身を縮こまらせていた。
夜が明ければ、さすがに誰か助けに来てくれるだろうと思っていたが、明日まで遥香の心が持つかどうか怪しい。
恐怖と寒さでガタガタと震えながら、「助けて」と小声でつぶやく。
そこへ、「リリー!」と微かに自分を呼ぶ声が聞こえた気がして、遥香はハッと顔をあげた。
木戸のところまで這って行くと、藁にも縋る思いで木戸に耳をつけた。
「リリーっ」
クロードだ。
雨の音に交じってクロードの声が聞こえて、遥香は泣きじゃくりながら木戸を叩いた。
「クロード王子っ、助けて、助けてください!」
ドンドンと力いっぱい木戸を叩いていると、外でガタンと音がした。
「リリー、そこか!?」
ガタガタと音がして、やがてギィと軋んだ音がして木戸が開く。
そこには雨でずぶ濡れのクロードが立っていて、遥香の全身から力が抜けた。
「ク、ロード……っ」
ぼろぼろと泣きじゃくる遥香を、クロードが飛びつくようにして抱きしめる。
「馬鹿! こんなところで何をしているんだっ!」
耳元で怒鳴られるが、遥香はその声に恐怖を感じなかった。来てくれたという安堵感でいっぱいになって、うまく言葉を紡げない。
クロードにしがみついてしゃくりあげていると、遥香を抱きしめたクロードが、はあっと大きく息を吐きだした。
「……とにかく、無事でよかった」
クロードにきつく抱きしめられて、頭を撫でられると、強張っていた体から力が抜けていく。
「俺にあんまりくっつくと、濡れるぞ」
そう言いながらも抱きしめる腕の力がまったく緩まないことに、遥香は逆に安心した。まだ心細くて、とにかく縋っていたかったのだ。
「リリー、落ち着いたら帰るぞ。増水した湖の水がここまで来ないとも限らない」
クロードに優しくささやかれて、遥香はこくんと小さくうなずく。
クロードに支えられるようにして立ち上がると、彼は持ってきていた外套を遥香にかぶせた。
「外套も濡れているが、ないよりはましだろう?」
クロードが優しくて、遥香はまた泣きたくなる。
クロードに支えられるようにして別荘の玄関をくぐった遥香は、泣きながら走ってきたアンヌをぎゅっと抱きしめた。
「心配をかけてごめんなさい」
アンヌのうしろからやってきたリリックも、遥香の顔を見てホッと安堵の息をつく。
「リリック兄様も、ごめんなさい」
「いいよ。それより、ずぶ濡れだから着替えないと。クロード王子も」
アンヌとの抱擁を解いた遥香は、クロードを見上げて、金色の髪が顔に張り付いているのを見ると、申し訳なさそうに目を伏せた。
「ごめんなさい、クロード王子。探しに来てくれてありがとうございました。アンヌ、お風呂の用意はできるかしら。クロード王子が風邪を引いちゃうわ」
「それは君もだろう」
クロードは苦笑すると、遥香の頭をポンポンと叩く。
アンヌが慌てて二人分の風呂の用意をしに行くと、リリーは着替えのため、いったん部屋に戻ろうとした。だが、階段を一つ上ったところで、体がカクンと前のめりになり、それに気がついたクロードが慌てて遥香を抱きとめる。
緊張の糸が切れたのだろうか。遥香はそのまま意識を手放していた。
先ほどから繰り返し雷の音が響いており、窓のない小屋では外がどうなっているのかもわからない。叩きつける雨の音と雷の音に恐慌状態となって、ぼろぼろと泣きながら、遥香は身を縮こまらせていた。
夜が明ければ、さすがに誰か助けに来てくれるだろうと思っていたが、明日まで遥香の心が持つかどうか怪しい。
恐怖と寒さでガタガタと震えながら、「助けて」と小声でつぶやく。
そこへ、「リリー!」と微かに自分を呼ぶ声が聞こえた気がして、遥香はハッと顔をあげた。
木戸のところまで這って行くと、藁にも縋る思いで木戸に耳をつけた。
「リリーっ」
クロードだ。
雨の音に交じってクロードの声が聞こえて、遥香は泣きじゃくりながら木戸を叩いた。
「クロード王子っ、助けて、助けてください!」
ドンドンと力いっぱい木戸を叩いていると、外でガタンと音がした。
「リリー、そこか!?」
ガタガタと音がして、やがてギィと軋んだ音がして木戸が開く。
そこには雨でずぶ濡れのクロードが立っていて、遥香の全身から力が抜けた。
「ク、ロード……っ」
ぼろぼろと泣きじゃくる遥香を、クロードが飛びつくようにして抱きしめる。
「馬鹿! こんなところで何をしているんだっ!」
耳元で怒鳴られるが、遥香はその声に恐怖を感じなかった。来てくれたという安堵感でいっぱいになって、うまく言葉を紡げない。
クロードにしがみついてしゃくりあげていると、遥香を抱きしめたクロードが、はあっと大きく息を吐きだした。
「……とにかく、無事でよかった」
クロードにきつく抱きしめられて、頭を撫でられると、強張っていた体から力が抜けていく。
「俺にあんまりくっつくと、濡れるぞ」
そう言いながらも抱きしめる腕の力がまったく緩まないことに、遥香は逆に安心した。まだ心細くて、とにかく縋っていたかったのだ。
「リリー、落ち着いたら帰るぞ。増水した湖の水がここまで来ないとも限らない」
クロードに優しくささやかれて、遥香はこくんと小さくうなずく。
クロードに支えられるようにして立ち上がると、彼は持ってきていた外套を遥香にかぶせた。
「外套も濡れているが、ないよりはましだろう?」
クロードが優しくて、遥香はまた泣きたくなる。
クロードに支えられるようにして別荘の玄関をくぐった遥香は、泣きながら走ってきたアンヌをぎゅっと抱きしめた。
「心配をかけてごめんなさい」
アンヌのうしろからやってきたリリックも、遥香の顔を見てホッと安堵の息をつく。
「リリック兄様も、ごめんなさい」
「いいよ。それより、ずぶ濡れだから着替えないと。クロード王子も」
アンヌとの抱擁を解いた遥香は、クロードを見上げて、金色の髪が顔に張り付いているのを見ると、申し訳なさそうに目を伏せた。
「ごめんなさい、クロード王子。探しに来てくれてありがとうございました。アンヌ、お風呂の用意はできるかしら。クロード王子が風邪を引いちゃうわ」
「それは君もだろう」
クロードは苦笑すると、遥香の頭をポンポンと叩く。
アンヌが慌てて二人分の風呂の用意をしに行くと、リリーは着替えのため、いったん部屋に戻ろうとした。だが、階段を一つ上ったところで、体がカクンと前のめりになり、それに気がついたクロードが慌てて遥香を抱きとめる。
緊張の糸が切れたのだろうか。遥香はそのまま意識を手放していた。
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