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第5章:結末
Episode16:灰の旗の下へ――王が選ばれる時
山を越えた夜明け。
冷たい霧が、
リネルの肩にまとわりついていた。
帝国から逃れた三人は、
北部と南部の境にある
廃都《グラニス旧市》へと
辿り着く。
かつて、
アスティア王国が
最後まで抗戦した地。
今は――
名もなき者たちの隠れ家だった。
⸻
「……ここに、人が?」
セリスが周囲を警戒する。
瓦礫の奥。
崩れた鐘楼。
その影から、
視線が無数に向けられていた。
盗賊。
元兵士。
帝国に家族を奪われた民。
どれも、武装は貧弱だが、
眼だけは死んでいない。
「帝国兵か?」
誰かが叫ぶ。緊張が走る。
その瞬間、
リネルは一歩前に出た。
剣を、地に置いた。
「違う」
ざわめき。
「俺は――アスティアの王子だ」
一瞬の沈黙。
次いで、嘲笑。
「王子?今さらかよ」
「王国は滅びた」
「帝国に尻尾振る側だろ?」
その言葉が、胸を刺す。
だが、リネルは
目を逸らさなかった。
「そうだ」
「俺は一度、帝国の兵になった」
空気が、凍る。
「だが、民を守れなかった」
声が、低くなる。
「だから、戻ってきた」
⸻
イリスが、静かに前へ出る。
「この人は、命令を拒み、
村を守ろうとした」
セリスが続く。
「帝国最強の将軍に、
正面から逆らった」
「それでも、生き延びた」
ざわめきが、変わる。
疑いから、戸惑いへ。
⸻
リネルは、拳を握る。
「俺は、英雄じゃない」
「完璧な王でもない」
「だが――」
顔を上げる。
「もう、誰も踏みにじらせない」
「帝国に、奪わせない」
「奪われたなら、取り戻す」
その瞬間。
瓦礫の中から、
一人の老人が歩み出た。
震える手。
だが、声は強い。
「……その眼」
「灰王と、同じだ」
息を呑む音。
「俺は、先王に仕えた」
「あの方も、同じ眼で
民を見ていた」
老人は、膝をついた。
「王子殿下」
それは、合図だった。
⸻
一人、また一人。
膝をつく。
剣を下ろす。
「帝国に、復讐を」
「俺たちを、導いてくれ」
リネルは、言葉を失う。
(……選ばれた?)
違う。
これは、選ばされたのではない。
――選んだのだ。
⸻
リネルは、深く息を吸い。
剣を、高く掲げた。
「俺は、王になる」
「だが、命令する王じゃない」
「共に戦う王だ」
灰の都に、声が響く。
「帝国を、終わらせる」
「その日まで…この旗の下で、
生き残れ」
誰かが、灰色の布を掲げる。
そこに描かれたのは、
砕けた王冠と、燃える剣。
灰の旗。
反帝国勢力は、
初めて一つになった。
⸻
その夜。
焚き火の前で、リネルは
空を見上げる。
「……もう、戻れないな」
セリスが笑う。
「最初からだろ」
イリスは、静かに言った。
「でも、ここからは
“一人”じゃない」
リネルは、小さく頷いた。
灰の王は、
今、民に選ばれた。
冷たい霧が、
リネルの肩にまとわりついていた。
帝国から逃れた三人は、
北部と南部の境にある
廃都《グラニス旧市》へと
辿り着く。
かつて、
アスティア王国が
最後まで抗戦した地。
今は――
名もなき者たちの隠れ家だった。
⸻
「……ここに、人が?」
セリスが周囲を警戒する。
瓦礫の奥。
崩れた鐘楼。
その影から、
視線が無数に向けられていた。
盗賊。
元兵士。
帝国に家族を奪われた民。
どれも、武装は貧弱だが、
眼だけは死んでいない。
「帝国兵か?」
誰かが叫ぶ。緊張が走る。
その瞬間、
リネルは一歩前に出た。
剣を、地に置いた。
「違う」
ざわめき。
「俺は――アスティアの王子だ」
一瞬の沈黙。
次いで、嘲笑。
「王子?今さらかよ」
「王国は滅びた」
「帝国に尻尾振る側だろ?」
その言葉が、胸を刺す。
だが、リネルは
目を逸らさなかった。
「そうだ」
「俺は一度、帝国の兵になった」
空気が、凍る。
「だが、民を守れなかった」
声が、低くなる。
「だから、戻ってきた」
⸻
イリスが、静かに前へ出る。
「この人は、命令を拒み、
村を守ろうとした」
セリスが続く。
「帝国最強の将軍に、
正面から逆らった」
「それでも、生き延びた」
ざわめきが、変わる。
疑いから、戸惑いへ。
⸻
リネルは、拳を握る。
「俺は、英雄じゃない」
「完璧な王でもない」
「だが――」
顔を上げる。
「もう、誰も踏みにじらせない」
「帝国に、奪わせない」
「奪われたなら、取り戻す」
その瞬間。
瓦礫の中から、
一人の老人が歩み出た。
震える手。
だが、声は強い。
「……その眼」
「灰王と、同じだ」
息を呑む音。
「俺は、先王に仕えた」
「あの方も、同じ眼で
民を見ていた」
老人は、膝をついた。
「王子殿下」
それは、合図だった。
⸻
一人、また一人。
膝をつく。
剣を下ろす。
「帝国に、復讐を」
「俺たちを、導いてくれ」
リネルは、言葉を失う。
(……選ばれた?)
違う。
これは、選ばされたのではない。
――選んだのだ。
⸻
リネルは、深く息を吸い。
剣を、高く掲げた。
「俺は、王になる」
「だが、命令する王じゃない」
「共に戦う王だ」
灰の都に、声が響く。
「帝国を、終わらせる」
「その日まで…この旗の下で、
生き残れ」
誰かが、灰色の布を掲げる。
そこに描かれたのは、
砕けた王冠と、燃える剣。
灰の旗。
反帝国勢力は、
初めて一つになった。
⸻
その夜。
焚き火の前で、リネルは
空を見上げる。
「……もう、戻れないな」
セリスが笑う。
「最初からだろ」
イリスは、静かに言った。
「でも、ここからは
“一人”じゃない」
リネルは、小さく頷いた。
灰の王は、
今、民に選ばれた。
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