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素直じゃないあの子
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「あーそぼ!」
日が暮れて人がいなくなったらぼく達の時間。台座から地面に下りた後、ぐーんと伸びをして相方の狛犬に声を掛ける。けど彼女はすぐにお尻を向けて歩き出した。
「こっち来ないで」
「待ってよ」
「あっち行ってってば!」
そして彼女は走りだして。
いっつもこれ。今日もこれ。今までもずっと、ぼくが遊びに誘って断られて、ムカッとして噛んだり噛まれたりして喧嘩してきた。彼女を追いかけてる内に遊んでるみたいな雰囲気になって、楽しいことも結構あったけど。
「付いてこないで!」
「あででででっ。何するんだよ!」
噛まれた。初めの頃は「仲良くしなさいな……」って言ってきてた神さまも、もう傍観してる。
「いつものことでしょ、何よ今更」
「くぅ~っ」
噛まれたとこを舐めて誤魔化す。やり返したい気持ちでいっぱい。でも、でも! 今夜は絶対やり返さないって決めたんだ。彼女はいっつも噛んでくるし痛いし嫌だけど、別に嫌いな訳じゃない。本当は仲良くしたい。
「その『いつも』に問題があるんだよ。ぼくら、もう何百年もこうやって喧嘩してきたけど、今日で終わりにしない?」
「……どういう意味? あなたを噛むのをやめろって?」
「やめてほしいよ。ぼくも噛んだけど、それは謝るからさ。ごめん。だから、仲直り――ッいで!」
「冗談やめて。寝ぼけてるの?」
また噛まれた! しかも鼻を! 最悪。でもぼくもう決めたんだ。今日はカッとなってやりかえしたりしない。
「冗談じゃないよ。寝ぼけてもない。ぼくは本気だ!」
「……」
彼女が怪訝な目で見つめてくる。でもどこかに行かないってことは話は聞いてくれるみたい。
「正直もう、嫌なんだ! あと何百年同じ関係性でいなきゃいけないのかと思うと、苦しくてどうにかなりそう! さみしい!」
彼女がさっさとどこかに行ってしまった時や見失った時は、一匹で月を眺めたり神さまに遊んでもらったりする。そういう時たまに、彼女と一緒に寝転がったり遊んだりできたらなぁって思うんだ。
「つまりは、あなたのワガママに付き合えってこと?」
「そう。だってこうしなきゃ、ずっと仲悪いまんまでしょ? ぼく、きみのこと好きだし、そろそろ仲良く遊びたいよ」
「……そう」
彼女が黙る。そして俯いていた顔を上げたかと思うと
「そうならそうと早く言ってくれれば私も、もっと早くぶちのめしたのに」
「えぇぇぇえええぇぇえ⁉︎ ちょっと待ってよ! ぼくが素直になったんだから、それに倣ってきみもちょっとは素直になるもんだろ⁉」
「うるさいバカーッ! あなたに素直になるなんて、無理! 無理無理! 自分で自分が気持ち悪いー!」
大声で捲し立てた彼女は、そのまま走り去っていく。
「あ、ちょっと待……」
追いかけようか迷ったけど神さまの手が添えられたから、やめておく。行くな、ってすごい目で訴えてくるんだもん。
「わかった、行かないよ」
「あぁよかった。これでまた喧嘩が起きたらやってられん……」
境内を走り回るぼく達を落ち着かせたり、団子になるぼく達を引き離したりするのはいつも神さま。すごく迷惑かけてるけど、前謝ったら「仕方ないからの」って撫でてくれた。
一安心した神さまがゆっくりお社に帰っていくのを見送ってから、彼女が去っていった方を見る。きっと、明日になったら彼女も「仲良くしよう」って言ってくれるはず。……言って、くれるはず。うん、何にせよ、ちらっと見えた彼女のほっぺが赤くなってたってことは本心では仲良くしたいって思ってくれてるってこと。また数百年かかったとしても、それはそれでいいや。だって希望が見えたんだもん。今日は大収穫。また明日から、ゆっくり仲良しになっていけたらいいな。
*
読んでくださりありがとうございます(*´꒳`*)
日が暮れて人がいなくなったらぼく達の時間。台座から地面に下りた後、ぐーんと伸びをして相方の狛犬に声を掛ける。けど彼女はすぐにお尻を向けて歩き出した。
「こっち来ないで」
「待ってよ」
「あっち行ってってば!」
そして彼女は走りだして。
いっつもこれ。今日もこれ。今までもずっと、ぼくが遊びに誘って断られて、ムカッとして噛んだり噛まれたりして喧嘩してきた。彼女を追いかけてる内に遊んでるみたいな雰囲気になって、楽しいことも結構あったけど。
「付いてこないで!」
「あででででっ。何するんだよ!」
噛まれた。初めの頃は「仲良くしなさいな……」って言ってきてた神さまも、もう傍観してる。
「いつものことでしょ、何よ今更」
「くぅ~っ」
噛まれたとこを舐めて誤魔化す。やり返したい気持ちでいっぱい。でも、でも! 今夜は絶対やり返さないって決めたんだ。彼女はいっつも噛んでくるし痛いし嫌だけど、別に嫌いな訳じゃない。本当は仲良くしたい。
「その『いつも』に問題があるんだよ。ぼくら、もう何百年もこうやって喧嘩してきたけど、今日で終わりにしない?」
「……どういう意味? あなたを噛むのをやめろって?」
「やめてほしいよ。ぼくも噛んだけど、それは謝るからさ。ごめん。だから、仲直り――ッいで!」
「冗談やめて。寝ぼけてるの?」
また噛まれた! しかも鼻を! 最悪。でもぼくもう決めたんだ。今日はカッとなってやりかえしたりしない。
「冗談じゃないよ。寝ぼけてもない。ぼくは本気だ!」
「……」
彼女が怪訝な目で見つめてくる。でもどこかに行かないってことは話は聞いてくれるみたい。
「正直もう、嫌なんだ! あと何百年同じ関係性でいなきゃいけないのかと思うと、苦しくてどうにかなりそう! さみしい!」
彼女がさっさとどこかに行ってしまった時や見失った時は、一匹で月を眺めたり神さまに遊んでもらったりする。そういう時たまに、彼女と一緒に寝転がったり遊んだりできたらなぁって思うんだ。
「つまりは、あなたのワガママに付き合えってこと?」
「そう。だってこうしなきゃ、ずっと仲悪いまんまでしょ? ぼく、きみのこと好きだし、そろそろ仲良く遊びたいよ」
「……そう」
彼女が黙る。そして俯いていた顔を上げたかと思うと
「そうならそうと早く言ってくれれば私も、もっと早くぶちのめしたのに」
「えぇぇぇえええぇぇえ⁉︎ ちょっと待ってよ! ぼくが素直になったんだから、それに倣ってきみもちょっとは素直になるもんだろ⁉」
「うるさいバカーッ! あなたに素直になるなんて、無理! 無理無理! 自分で自分が気持ち悪いー!」
大声で捲し立てた彼女は、そのまま走り去っていく。
「あ、ちょっと待……」
追いかけようか迷ったけど神さまの手が添えられたから、やめておく。行くな、ってすごい目で訴えてくるんだもん。
「わかった、行かないよ」
「あぁよかった。これでまた喧嘩が起きたらやってられん……」
境内を走り回るぼく達を落ち着かせたり、団子になるぼく達を引き離したりするのはいつも神さま。すごく迷惑かけてるけど、前謝ったら「仕方ないからの」って撫でてくれた。
一安心した神さまがゆっくりお社に帰っていくのを見送ってから、彼女が去っていった方を見る。きっと、明日になったら彼女も「仲良くしよう」って言ってくれるはず。……言って、くれるはず。うん、何にせよ、ちらっと見えた彼女のほっぺが赤くなってたってことは本心では仲良くしたいって思ってくれてるってこと。また数百年かかったとしても、それはそれでいいや。だって希望が見えたんだもん。今日は大収穫。また明日から、ゆっくり仲良しになっていけたらいいな。
*
読んでくださりありがとうございます(*´꒳`*)
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