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災禍の音
一
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利星と名を変えた、姫平は市中から、空を仰いだ。昼だと云うのに、空は夜の帳が降りたように昏い。行き交う人々は悲鳴を上げながら、腕で頭を守るようにして駆け去っていく。列肆は慌てて店の戸を閉め、座賈達は、悪態を尽きながら、莚の上に乗せた商品を片付けていく。
驚天動地―。空を覆い尽すほどの蝗の大群は、東から西へと飛び去っていく。正に世界の終焉の縮図の様相である。奴等はただ移動するだけではない。その道中に、あらゆる作物を食い荒らしていく。粟や麦もその例外ではない。水旱蝗兵は、いつの時代だって民を苦しめる。
利星は暗黒と化した、空をねめつけ、「之を待っていたのか」と漏らす。漏らした吐息は、激憤で火焔となる。
「若!早く」
地を駆ける蝗が利星に襲い掛かる寸前、手を引く青年が居た。青年は強引に手を引き、酒屋へと転がり込んだ。限り限りの所で滑り込んだ二人。店主が力任せに戸を閉める。既に逃げ込んできた者達も数名いるようで、外の喧噪に耳を欹てている。
「若!お怪我は?」
具足姿の青年は、喘鳴を鳴らしながら、立ち上がると、利星に手を貸した。
「ああ。大丈夫だ」
利星は心此処にあらずと云った様子で、静かに席に付く。
「若にお怪我をさせようものなら、俺が父上にどやされます」
青年は利星に向かいに座り、庶民に身分を窶した、主の顔を覗き込む。
「すまない。秦殃」
秦殃は秦開の息子であり、今は次期太子と眼される姫平の警護を任されていた。
「取り敢えず酒でも喉に通しましょう」
うわの空の主を、秦殃は気遣う。
店主を呼ばわり、酒を頼む。非常時で酒を頼む、肝の太さに呆れつつも、店主は甕を抱えて、二人の間に置いた。
秦殃は杓で酒を椀に注ぎ、利星に手渡した。短く礼を告げて、利星は流し込む。蝗の大群に脅える先客達は、胡乱な者を見るような眼つきで、二人の様子を遠巻きで見ている。
「何か気になることでも?」
秦殃は声を潜ませる。
「秦開に斉の情勢について詳しく調べさせていた」
「父上にですか?」
「ああ。情勢と云っても、主に物の流れについてだ」
「何故です?」
「爺様が薨じる以前から、粟や麦の値段が上がり始めていた」
「値の変動は珍しいことではないのでは?」
事実、天水農業に頼る華北地方では、実りによって値が変動することは稀有なことではない。
「ああ。だが、負郭の者達が大量の粟や麦が高官や貴族の邸宅に運び込まれるのを目の当りにしている。そして、秦開が寄越した報せによると、斉は今年、蝗害が多く発生しているようだ」
古より蝗は山東地方から飛来するものが多かった。蝗の大群は東方より飛来すー。と誌するものが多く残っているほどである。
「つまり、こういう事ですか。高官や貴族達は、各地に人脈を持つ商人達より、早くに東の情勢を知り、飢饉に備えて、粟や麦を備蓄していると」
「違うな。今の貴族や高官達に、そのような芸当ができるとは思えん」
「では、誰が?」
「誰かが貴族、高官に情報を齎した。商人達より遥かに物の流れに聡く、利に拘泥し、各地に耳目を抱えている者がいる」
「そいつが貴族、高官を動かしていると?」
「ああ」
「何の為?」
何時しか、二人の距離は互いの顔に息がかかるほどに近くなっている。
「宮中を支配する為だ。何れ燕は飢饉に見舞われる。その時、貴族、高官は備蓄を商人に通常の十倍もの値で売りつけることができる。だが、自分達が生きて行く上では買うしかない。そして、その二倍の値で庶民に売りつける。ありつけるのは例外的に裕福な庶民のみ。他の者はー」
利星は言葉を切る。
「飢え死ぬのを待つしかない」
「負郭の者達はもっと酷い。恐らく今年の冬を待つことなく、一人残らず死に絶えるだろう」
空疎な眼を利星は向けた。冬を迎える頃には、この薊の外には酸鼻を極める光景が拡がっていることになるだろう。餓死者が万を超え、城壁の外には堆く屍の山が幾つも築かれていく。
「来い」
と突然、秦殃の袖を利星が引いた。勘定を多めに済ませ、戸を開き、外へ出る。蝗の大群は去っていた。先ほどまでの光景が嘘のように、晴天が拡がっている。袖を引かれるまま、ずかずかと複雑に入り組んだ街懼を進む、利星の後を行く。
「若!急にどうされたのです?」
だが答えは返ってこない。大通りと大通りを斜めに繋ぐ脇道に入った時、利星が歩みを止めた。
「若?」
突然、振り返り、秦殃を乱暴に突き飛ばした。
「何を!?」
地面に突っ伏す形になる。その時、金属と金属がぶつかり合う音がした。
黒衣の男と利星が対峙していた。男の手には既に抜き身の剣がある。秦殃は主の危急を察し、跳躍と共に、剣を抜き去り、男に打ちかかった。
散る鉄華。巧くいなされる。躰のさばき方で分かる。手練れである。
「後ろ!」
利星が叫んだ。腹背からの気配。身を翻す。三つの閃光。皮一枚で避ける。
睨み合う。総勢五名の黒衣の男が、利星と秦殃を囲む。
「若。この者達は」
背を預け合う形の二人。
「気が付かなかったのか。連中、宮廷を抜けた後から、ずっと俺達の跡を尾けて来ていたぞ」
愕然とした。王子の身を護る立場である己が、王子の命を狙う刺客の気配に気が付かぬとは。そして、軍人として厳しい調練を受けた己より、遥かに感覚が鋭い姫平に驚愕した。
「俺に遅れをとるとは、まだまだ修行が足りんな」
刺客に囲まれながら、呵呵大笑する、豪胆さに呆れながらも、返す言葉は見つからない。
「お前達が欲しいのは之か?」
利星は手にした剣を投げ捨て、右腰に佩く護国の剣を抜き放った。護国の剣はあくまで、儀礼用の剣である。鉛色の刃に殺傷能力はない。故に易王より護国の剣を賜った、利星はもう一振り別に護身用の剣を佩いている。
被った黒の頭巾から覗く、刺客達の双眸が彩に代わる。
「当たりか」
哄笑と共に、霊験あらたかな宝剣を手で弄ぶ。
「命が惜しいなら今すぐ去ね。たった一振りの剣の為に、血を流す必要はない。お前達にも血の繋がった親兄弟はいるだろう」
どちらかと云えば、分が悪いのは明らかに此方である。だが、利星は涼しい顔で、刺客達を諭している。だが、当然、刺客は退かない。むしろ、侮られ気炎が揚がっている。
「まぁ、そうなるわな」
嘆息し、護国の剣を振り払う。
「おい、秦殃。そっちの二人は殺れ。任せたぞ」
と横顔でにやりと笑ってみせると、懐に手をやり、骰子を取り出した。
刹那―。袖を返す。一筋の閃光が走る。衝撃音。利星の眼前を阻んでいた、刺客の一人が仰向けに斃れる。
(あれは飛礫―。何処でそのような妙技を)
唖然とするのも束の間、咆哮を上げて、利星が地を蹴った。
つられるようにして、秦殃も躍り出る。二人が匕首で撃ちかかってくる。眼の端で主を捉えながら応戦する。
「舐めるなよ」
己とて大司馬を父に持つ軍人だ。雑魚と一緒にしてもらっては困る。たかが手練れ二人など。剣を回し、別方向から飛んでくる斬撃に対応する。間隙を付いて、無駄のない動きで攻めに転じる。瞬く間に二人を斬り捨てた。刃が返り血に塗れる。
「若!」
声を張り上げる。
護国の剣が白銀に輝き始めた。剣格が熱を帯びている。そして、剣は鴻毛の如く軽くなる。まるで、躰の一部のように馴染む。突き出された直刀。躱し、護国の剣を振り上げる。
先ほどまで錆を帯び、李すら斬れなかった鈍らが、直刀の刃を両断する。切断面は灼熱に焼かれた如く赤い。
刺客と眼が合った。柄頭で顎を撃ち、気を奪う。もう一人―。直刀を薙ぎ払う。的確に喉を狙っている。屈み懐に入り込む。させまいと直刀を振り上げてくる。躰を捩じり、下から刃を擦り上げる。互いの刃が接する。
「馬鹿な」と刺客が声を発した。
刃同士が触れた瞬間、護国の剣が直刀の刃を火焔で溶かした。脾腹を柄で突く。刺客が苦悶の声を漏らし、膝をつく。
血相を変えた秦殃が駆け寄って来る。
「之は」
気を失った刺客達を睥睨し、刃に火焔を纏う、護国の剣を恐る恐る目線まで掲げる。
「幽世の妖力を秘めた剣とはよく云ったものだ」
祖父の言葉が脳裏を過る。剣を払うと、白き火焔は消え、いつもの鈍らへと戻った。鞘に納めると、二つの玉が一瞬だけ光った。
何か言いたそうな秦殃を手で制し、のびている刺客達に向き直る。
「さぁ、話を訊かせてもらおうか」
その時だった。何処からともなく矢が飛来した。二人は後ろに跳躍し、矢を躱す。だが、二本の矢が刺客に突き刺さっている。腕と足なので、命に別状はないだろう。矢先だった。二人の刺客は白目を向き、のたうち回り始めた。苦しさのあまり、頭巾を拭い去り、泡を吹く。四肢を痙攣させた後、二人は絶命した。
「惨いことを。誰がこんな」
露わになった刺客達の顔は、紫色に染まり、開かれた瞳孔は、苦しみを体現していた。
「決まっている。之は影でこの国を支配しようとしている者の仕業だ」
「つまり、物流を支配している者と護国の剣を狙った者は同一人物であると」
騒ぎを聞きつけて、人が駆け寄ってくる足音が聞こえた。
利星は唇を真一文字に結び頷いた。次期太子と目される利星こと、姫平は既に権力闘争の渦の中にある。
(やはり、太子の座を狙う庶公子の仕業か)
だが、動機のある庶公子を列挙すれば切りがない。燕王の外戚は優に百を超えるのだ。
「按ずるな。秦殃」
暗澹とする胸中を察してか、太い笑みを利星は向けた。
「敵の目星は付いている」
「えっ?」
思わず声が上擦る。
「さぁ、今から敵の牙城に殴り込みに行くとしようか」
驚天動地―。空を覆い尽すほどの蝗の大群は、東から西へと飛び去っていく。正に世界の終焉の縮図の様相である。奴等はただ移動するだけではない。その道中に、あらゆる作物を食い荒らしていく。粟や麦もその例外ではない。水旱蝗兵は、いつの時代だって民を苦しめる。
利星は暗黒と化した、空をねめつけ、「之を待っていたのか」と漏らす。漏らした吐息は、激憤で火焔となる。
「若!早く」
地を駆ける蝗が利星に襲い掛かる寸前、手を引く青年が居た。青年は強引に手を引き、酒屋へと転がり込んだ。限り限りの所で滑り込んだ二人。店主が力任せに戸を閉める。既に逃げ込んできた者達も数名いるようで、外の喧噪に耳を欹てている。
「若!お怪我は?」
具足姿の青年は、喘鳴を鳴らしながら、立ち上がると、利星に手を貸した。
「ああ。大丈夫だ」
利星は心此処にあらずと云った様子で、静かに席に付く。
「若にお怪我をさせようものなら、俺が父上にどやされます」
青年は利星に向かいに座り、庶民に身分を窶した、主の顔を覗き込む。
「すまない。秦殃」
秦殃は秦開の息子であり、今は次期太子と眼される姫平の警護を任されていた。
「取り敢えず酒でも喉に通しましょう」
うわの空の主を、秦殃は気遣う。
店主を呼ばわり、酒を頼む。非常時で酒を頼む、肝の太さに呆れつつも、店主は甕を抱えて、二人の間に置いた。
秦殃は杓で酒を椀に注ぎ、利星に手渡した。短く礼を告げて、利星は流し込む。蝗の大群に脅える先客達は、胡乱な者を見るような眼つきで、二人の様子を遠巻きで見ている。
「何か気になることでも?」
秦殃は声を潜ませる。
「秦開に斉の情勢について詳しく調べさせていた」
「父上にですか?」
「ああ。情勢と云っても、主に物の流れについてだ」
「何故です?」
「爺様が薨じる以前から、粟や麦の値段が上がり始めていた」
「値の変動は珍しいことではないのでは?」
事実、天水農業に頼る華北地方では、実りによって値が変動することは稀有なことではない。
「ああ。だが、負郭の者達が大量の粟や麦が高官や貴族の邸宅に運び込まれるのを目の当りにしている。そして、秦開が寄越した報せによると、斉は今年、蝗害が多く発生しているようだ」
古より蝗は山東地方から飛来するものが多かった。蝗の大群は東方より飛来すー。と誌するものが多く残っているほどである。
「つまり、こういう事ですか。高官や貴族達は、各地に人脈を持つ商人達より、早くに東の情勢を知り、飢饉に備えて、粟や麦を備蓄していると」
「違うな。今の貴族や高官達に、そのような芸当ができるとは思えん」
「では、誰が?」
「誰かが貴族、高官に情報を齎した。商人達より遥かに物の流れに聡く、利に拘泥し、各地に耳目を抱えている者がいる」
「そいつが貴族、高官を動かしていると?」
「ああ」
「何の為?」
何時しか、二人の距離は互いの顔に息がかかるほどに近くなっている。
「宮中を支配する為だ。何れ燕は飢饉に見舞われる。その時、貴族、高官は備蓄を商人に通常の十倍もの値で売りつけることができる。だが、自分達が生きて行く上では買うしかない。そして、その二倍の値で庶民に売りつける。ありつけるのは例外的に裕福な庶民のみ。他の者はー」
利星は言葉を切る。
「飢え死ぬのを待つしかない」
「負郭の者達はもっと酷い。恐らく今年の冬を待つことなく、一人残らず死に絶えるだろう」
空疎な眼を利星は向けた。冬を迎える頃には、この薊の外には酸鼻を極める光景が拡がっていることになるだろう。餓死者が万を超え、城壁の外には堆く屍の山が幾つも築かれていく。
「来い」
と突然、秦殃の袖を利星が引いた。勘定を多めに済ませ、戸を開き、外へ出る。蝗の大群は去っていた。先ほどまでの光景が嘘のように、晴天が拡がっている。袖を引かれるまま、ずかずかと複雑に入り組んだ街懼を進む、利星の後を行く。
「若!急にどうされたのです?」
だが答えは返ってこない。大通りと大通りを斜めに繋ぐ脇道に入った時、利星が歩みを止めた。
「若?」
突然、振り返り、秦殃を乱暴に突き飛ばした。
「何を!?」
地面に突っ伏す形になる。その時、金属と金属がぶつかり合う音がした。
黒衣の男と利星が対峙していた。男の手には既に抜き身の剣がある。秦殃は主の危急を察し、跳躍と共に、剣を抜き去り、男に打ちかかった。
散る鉄華。巧くいなされる。躰のさばき方で分かる。手練れである。
「後ろ!」
利星が叫んだ。腹背からの気配。身を翻す。三つの閃光。皮一枚で避ける。
睨み合う。総勢五名の黒衣の男が、利星と秦殃を囲む。
「若。この者達は」
背を預け合う形の二人。
「気が付かなかったのか。連中、宮廷を抜けた後から、ずっと俺達の跡を尾けて来ていたぞ」
愕然とした。王子の身を護る立場である己が、王子の命を狙う刺客の気配に気が付かぬとは。そして、軍人として厳しい調練を受けた己より、遥かに感覚が鋭い姫平に驚愕した。
「俺に遅れをとるとは、まだまだ修行が足りんな」
刺客に囲まれながら、呵呵大笑する、豪胆さに呆れながらも、返す言葉は見つからない。
「お前達が欲しいのは之か?」
利星は手にした剣を投げ捨て、右腰に佩く護国の剣を抜き放った。護国の剣はあくまで、儀礼用の剣である。鉛色の刃に殺傷能力はない。故に易王より護国の剣を賜った、利星はもう一振り別に護身用の剣を佩いている。
被った黒の頭巾から覗く、刺客達の双眸が彩に代わる。
「当たりか」
哄笑と共に、霊験あらたかな宝剣を手で弄ぶ。
「命が惜しいなら今すぐ去ね。たった一振りの剣の為に、血を流す必要はない。お前達にも血の繋がった親兄弟はいるだろう」
どちらかと云えば、分が悪いのは明らかに此方である。だが、利星は涼しい顔で、刺客達を諭している。だが、当然、刺客は退かない。むしろ、侮られ気炎が揚がっている。
「まぁ、そうなるわな」
嘆息し、護国の剣を振り払う。
「おい、秦殃。そっちの二人は殺れ。任せたぞ」
と横顔でにやりと笑ってみせると、懐に手をやり、骰子を取り出した。
刹那―。袖を返す。一筋の閃光が走る。衝撃音。利星の眼前を阻んでいた、刺客の一人が仰向けに斃れる。
(あれは飛礫―。何処でそのような妙技を)
唖然とするのも束の間、咆哮を上げて、利星が地を蹴った。
つられるようにして、秦殃も躍り出る。二人が匕首で撃ちかかってくる。眼の端で主を捉えながら応戦する。
「舐めるなよ」
己とて大司馬を父に持つ軍人だ。雑魚と一緒にしてもらっては困る。たかが手練れ二人など。剣を回し、別方向から飛んでくる斬撃に対応する。間隙を付いて、無駄のない動きで攻めに転じる。瞬く間に二人を斬り捨てた。刃が返り血に塗れる。
「若!」
声を張り上げる。
護国の剣が白銀に輝き始めた。剣格が熱を帯びている。そして、剣は鴻毛の如く軽くなる。まるで、躰の一部のように馴染む。突き出された直刀。躱し、護国の剣を振り上げる。
先ほどまで錆を帯び、李すら斬れなかった鈍らが、直刀の刃を両断する。切断面は灼熱に焼かれた如く赤い。
刺客と眼が合った。柄頭で顎を撃ち、気を奪う。もう一人―。直刀を薙ぎ払う。的確に喉を狙っている。屈み懐に入り込む。させまいと直刀を振り上げてくる。躰を捩じり、下から刃を擦り上げる。互いの刃が接する。
「馬鹿な」と刺客が声を発した。
刃同士が触れた瞬間、護国の剣が直刀の刃を火焔で溶かした。脾腹を柄で突く。刺客が苦悶の声を漏らし、膝をつく。
血相を変えた秦殃が駆け寄って来る。
「之は」
気を失った刺客達を睥睨し、刃に火焔を纏う、護国の剣を恐る恐る目線まで掲げる。
「幽世の妖力を秘めた剣とはよく云ったものだ」
祖父の言葉が脳裏を過る。剣を払うと、白き火焔は消え、いつもの鈍らへと戻った。鞘に納めると、二つの玉が一瞬だけ光った。
何か言いたそうな秦殃を手で制し、のびている刺客達に向き直る。
「さぁ、話を訊かせてもらおうか」
その時だった。何処からともなく矢が飛来した。二人は後ろに跳躍し、矢を躱す。だが、二本の矢が刺客に突き刺さっている。腕と足なので、命に別状はないだろう。矢先だった。二人の刺客は白目を向き、のたうち回り始めた。苦しさのあまり、頭巾を拭い去り、泡を吹く。四肢を痙攣させた後、二人は絶命した。
「惨いことを。誰がこんな」
露わになった刺客達の顔は、紫色に染まり、開かれた瞳孔は、苦しみを体現していた。
「決まっている。之は影でこの国を支配しようとしている者の仕業だ」
「つまり、物流を支配している者と護国の剣を狙った者は同一人物であると」
騒ぎを聞きつけて、人が駆け寄ってくる足音が聞こえた。
利星は唇を真一文字に結び頷いた。次期太子と目される利星こと、姫平は既に権力闘争の渦の中にある。
(やはり、太子の座を狙う庶公子の仕業か)
だが、動機のある庶公子を列挙すれば切りがない。燕王の外戚は優に百を超えるのだ。
「按ずるな。秦殃」
暗澹とする胸中を察してか、太い笑みを利星は向けた。
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