白狼 白起伝

松井暁彦

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面影

 五

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「何がおかしい」 
 ぶっきらぼうに告げると、柚蘭はまた鈴を鳴らしたように、細い声で笑う。

「少しお話していきませんか?」
 
 返事も待たず、柚蘭は裾を地に擦らすながら、東屋へと向かっていく。白起は黙って、彼女の後を追う。いつものことだった。彼女から遊牧民族としての奔放さは失われてはいない。

 時間がある時は二人で良く話をした。別に男女の仲にある訳ではない。白起自身、女に情欲を覚えたこともない。また生来からの瑕疵かしのせいで、人を愛するということをしらない。

 柚蘭も白起に男としての情を感じている訳ではない。彼女は魏冄の愛妾の内の一人に過ぎないが、それでも別邸ではなく、市中の館に囲われているということは、彼女に対する寵愛の深さが顕著に表れている。

「やるよ」
 東屋に向かい合うように座ると、白起は徐に懐から、掌大の包みを取り出した。

「これは?」
 柚蘭の真円の眼が、更に丸くなる。包みを開くと、其処には軟玉製の首飾りがあった。

「将軍になると、賤しい官吏共がしきりに贈り物を寄越してくる。俺は魏冄と距離が近いからな。今のうちに取り入っておこうという肚なのだろう。これもその贈り物の一つだ。俺は宝石などに興味はなし、妻帯もしていないから、こんなもの必要ない」

「私にくださるのですか?」
 柚蘭は純朴な眼を輝かせた。

「他にくれてやるあてもないからな」
 柚蘭は首飾りを手に取り、細く白い指で首につけた。


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