白狼 白起伝

松井暁彦

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怨讐

 七

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 全てが范雎の欺瞞ぎまんであった。嫌疑をかけられた者達に罪はない。予め手の者を連中の館に、使用人として忍ばせた。後に証拠となる偶人を館の庭に埋めさせた。

罪を告白した巫女と呪術師達は手当たり次第に捕縛させると、凄惨な拷問を加え、虚偽の自白を促したのである穣候魏冄は懸命に、己の無罪を主張したが、証拠となる偶人が館から掘り出された以上、言い逃れはできない。

本来、巫蠱の禁を犯した者は万死に値する。だが告発された者達が、王の外戚であることから、爵位と官位の剥奪と封地への流刑が決まった。范雎自身、この沙汰は生ぬるいと思っている。要らぬ所で秦王の情けが出た。

最早、痴呆が始まっている宣太后。元々、愚鈍である涇陽君と高陵君に関しては流刑で良いと思っている。生かしていようが、彼等に奮起するほどの才気も気概もない。だが、穣候は違う。彼には白起が付いているし、未だに封地には莫大な富がある。

 巷間こうかんの噂によれば、彼が穣や陶で蓄えた富は国家規模であるという。
 
 今、白起は韓の上党付近に留まっている。というより、魏冄と引き離す口実として韓へ派兵したのである。現状、魏冄の失脚を白起が彼の地で知っても動けないのが実状。時期として的確だった。
 
 徐に范雎は手を叩いた。乾いた音が闇の肚の中でこだまする。
 
 一呼吸の間に、扉が静かに開いた。若く影の薄い男が膝を付く。

「近々、穣候は宰相の印綬を剥奪され、流刑地である陶へと向かうことになるだろう。道中で良い。確実に殺せ」

「御意」 
 男が音もなく消える。もう嗤いを押し殺すことはできなかった。広大な館中に范雎の嗤い声が轟いた。

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