子供の姿で転生したパティシエ、異世界で甘くて幸せな生活を送る。〜調味料や料理器具を生み出す力で、食文化を発展させます〜

かむら

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#19 教会にて

「あれ、ここって……」


 色々と市場で買い物をした帰り道。

 カスミは気になる建物を見つけて足を止めた。


「そこは教会にゃ!」


 ローニャが言った通り、その建物はこの街の教会で、外から見てるだけでもなんだか厳かな雰囲気が感じられた。
 

「教会…… 皆さん宗教に入ってるんですか?」

「いや、俺は別にだな」

「ローニャは宗教には入ってにゃいけど、たまにお祈り来るにゃ! ツキが来て欲しいときにゃんかに!」


 それから軽く話を聞くと、この世界の宗教は女神教という宗教が一強レベルで普及しているらしく、世界中に信徒がいるそうだ。

 だが、強引な布教活動なんかはなく、信徒の中にもたまにお祈りする人もいれば、教会に勤めて毎日祈りを捧げている人もいるという、割と自由な宗教との事。


「気になるなら入ってみるにゃ?」

「いいんですか?」

「うんにゃ! 誰でも自由にお祈り捧げていいにゃ!」

「じゃあ、ちょっと入ってみたいですっ」


 中々教会というものは現代日本には無かったので、興味があったカスミは教会の中へと足を踏み入れていった。

 すると、そこには外よりも厳かな雰囲気が漂う空間が広がっていて、入口から真っ直ぐ続く道の向こうには、3mくらいはあろうかという大きな女神像が置かれており、その道の左右には木製の長椅子が並べられていた。

 今もその長椅子に座って体を休めている人や、女神像の前で手を組んでお祈りしている人などがおり、折角来たならカスミもちょっとお祈りしてみようという事で、女神像の前に立って手を組み、目を閉じてみた。


(お祈りか…… なにお願いしよっかな?)

「あっ、繋がった!」

「えっ?」


 すると、やけに明瞭な声がすぐ近くから聞こえてきて、カスミは思わず目を開けた。


「えっ…… ここ、どこ……?」


 そうして目を開けた時に飛び込んできた光景は、先程の教会のものではなく、真っ白な空間だった。

 そして、目の前にはケープのようなものを身に纏った美しさ女性と、同じような服装だが、何故か地面に転がっている男性がいた。


「来てくれてありがとう、カスミちゃん!」

「は、はい? えっと、どちら様で…… というか、ここは……?」


 何だか女性からは歓迎の言葉を貰ったものの、カスミの頭には、はてなマークが浮かぶのみだった。
 

「ああ、急にこんな所に来ても訳わからないわよね。 まず、ここはさっきまで貴女がいた世界とはまた違う空間で、私達のような神が住まう神界と呼ばれる場所なの」

「へっ? か、神?」

「ふふ、そうよ。 私は今カスミちゃんがいる世界、ドミニアスを創った女神、チェアリィって言うの」

「は、はぁ……?」


 元々訳が分からない状況なのに、更に現実味のない情報が追加され、カスミはもう頭がパンクしそうだった。


「まぁ、カスミちゃんからすると、神って言われてもピンと来ないわよね。 とりあえず、嘘だと思われないために言っておくと、カスミちゃんを地球からドミニアスに呼んだのは私よ」

「……っ!」


 チェアリィのその言葉は、カスミを信じさせるのには十分過ぎるものだった。

 なにせ、カスミは異世界から来た事を誰にも言っていないので、それを知っているのはカスミを除くと、カスミを異世界転移させた張本人しかあり得ないのだ。


「それで、まずはごめんなさい。 急に異世界へ送ってしまって」

「い、いえ……」

「ほら、アンタも謝りなさい」


 チェアリィはそう言うと、足下に転がっていた男性の首根っこを掴んで、無理やりカスミの方へと顔を向けさせた。


「ず、ずびばぜんでじだ……」

「ひえっ……」


 だが、その男性の顔はもうパンパンに腫れ上がっていて、思わずカスミは怯えたような声を上げてしまう。


「こいつは地球を担当している神のザンゴンって奴なんだけど、新神のくせに生意気だし仕事は適当で、いつか何かやらかすと思ってたの。 で、そのやらかしによってカスミちゃんが異世界に急に飛ばされちゃってね」

「そ、そうなんですか……?」

「どうしてこうなったのか、説明させてもらうわ。 まず、今カスミちゃんがいる世界、ドミニアスは、カスミちゃんは気付いてると思うけど、食文化があまり発達してないわ」

「それは、そうですね……」


 チェアリィが言うことに、当然カスミには思い当たる節があった。


「でね、折角美味しい食材はあるのに勿体無いって事で、食文化がとても発達している世界である地球から、料理ができる人を呼ぼうって事になったの」

「なるほど……?」

「もちろん誰でも良いって訳じゃなくて、一番は人柄の良さ。 変に食文化以外の異世界の文化や知識をひけらかしたり広めようとするような人とか、暴力的な人はもちろんだめ。 それと、地球で順風満帆な生活をしている人もだめ。 そうなった時に、カスミちゃんは地球にいた頃、結構苦労してたみたいだから、異世界に送る人の候補として名前が上がってたの」

(確かに、結構人生に絶望はしてたかもなぁ……)


 地球にいた頃のカスミは、親族も大切な場所も無くなってしまった事で、かなり絶望していた。


「そんな中、このバカが選定作業とかを面倒くさがって候補者の魂とか記憶を勝手に覗いたりしてたら、カスミちゃんの魂が傷ついちゃって……」

「えっ……?」

「それに焦ったこのバカは、隠蔽するためにカスミちゃんを無理やり異世界に送ったの。 その時に魂が傷ついちゃってたから、姿も変わっちゃった…… っていうのが事の顛末よ」


 どうやら、カスミが子供になってしまったのはそういう理由かららしい。
 

「えっと、魂が傷ついてるのは大丈夫なんですか……?」

「ああ、それはもう大丈夫。 カスミちゃんがこっちの世界で寝てる間に治したわ。 姿はいきなり変わったらカスミちゃんも周りの人も驚くかと思って戻さなかったけど」

「そうですか……」

「本当はもっと早く伝えるべきだったんだけど、神の方から地上の人にコンタクトを取るにはかなり厳しいルールがあって、魂に関しては急務だったから特例で治す許可が降りたけど、こっちから話しかけたりするのはダメって言われてたの」

(神様にもルールとかあるんだ……)

「でも、カスミちゃんの方から今回は教会で神に祈ってくれたでしょ? そういう場合はこっちからアクションをかけるのも、まぁちょっとグレーだけど、怒られはしないから、こうしてここに呼ばせてもらったって訳」


 今、チェアリィが教えてくれた事が、カスミの身に起きた異世界転移の顛末だったようだ。


「それで、カスミちゃんはどうしたい?」

「どう、とは……?」

「このままこの世界で生きるか、地球に戻るか」

「も、戻れるんですかっ?」

「もちろんよ。 こっち側のミスだった訳だからね。 まぁ、そうなったらこっちの世界で体験した事は忘れてもらうけど」

「こちらの世界を、忘れる……」


 そう聞いて、カスミの頭には、ここ数日で起きた事が走馬灯のようによぎっていった。

 クリスタに命を救われ、家に招き入れてもらえるばかりか、家族とまで呼んでもらえた事。

 クリスタ、レネ、フィオ、ローニャ、アネッタとそれぞれ過ごした時間の事。

 それらの思い出が消えてしまうと考えた瞬間、カスミの目からはポロポロと涙がこぼれ落ちてきた。


「……ふふ、その涙がどうしたいかを物語ってるわね」

「あ…… ご、ごめんなさいっ……」

「いいのよ。 それじゃあ、カスミちゃんはこのままこの世界に居てくれていいわ」

「でも、食文化を広める使命とかって……」

「上から見てたけど、カスミちゃんが今しようとしてる事をしてくれれば大丈夫よ。 前世では結構悲しい事が多かったみたいだから、こっちでは思うまま楽しく生きて、食文化を広めるのもカスミちゃんが大変じゃない程度にやってくれればいいわ」

「分かりましたっ。 ありがとうございますっ」


 これまでは、いつまた突然地球に戻ってしまうか常に不安を抱えていたが、これでカスミは正式に異世界で生きることとなったのであった。
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