子供の姿で転生したパティシエ、異世界で甘くて幸せな生活を送る。〜調味料や料理器具を生み出す力で、食文化を発展させます〜

かむら

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#64 帰宅、そして変な人

「忘れ物はないか?」

「はいっ」

「ま、あってもすぐ戻って来れるが」


 王都に来てから一ヶ月。

 長いようで短かった滞在期間も今日で終わり、これからカスミ達はサミアンの街へ帰る。

 とは言っても、行き同様フィオの転移魔法を使うし、今回はサミアンの街のパーティーハウスに直接飛ぶので、本当に一瞬で帰れる。

 しかも、今回用意してもらったこの王都の拠点は、このままビフレストが王都に来た時に使う場所として使われることになった。

 これはミーユイアの誕生日パーティーに尽力してくれたカスミと、普段から冒険者としてこの国の困り事を解決してくれている礼として、王家がこの家を商業ギルドから買い取り、権利をそのままビフレストに譲った形だ。

 カスミ的にはもらい過ぎかと思ったのだが、これからの食文化がこの国から発展していくというネームバリューは凄まじい価値を持つようで、ちょっとでもカスミに礼として返せるものがあったら返していくつもりらしい。


「私がいなくてもここに飛べるよう、転移陣を用意するね~……」


 フィオの言う転移陣というのは、転移魔法を固定化させたもので、対になる転移陣と繋げればいつでもその2点間で転移ができるという優れものだ。

 ただ、設置には転移魔法の使い手と高価な媒介が必要なので、実用化には程遠い代物だったりする。


「では、頼むぞフィオ」

「ん~……」

「……って、やっぱりこれで飛ぶんですね」


 それからフィオの周りに集まったビフレストのメンバーだったが、行きと同じようにフィオはカスミを後ろから抱きしめてきた。

 それに苦笑いしつつも、嫌じゃないカスミは大人しくフィオに抱きしめられたまま、転移魔法で瞬間移動していった。

 そして、少しの浮遊感の後、視界の変化に酔わないように閉じていた目を開けると、なんだか少し懐かしく感じる、サミアンの街のパーティーハウスの庭に立っていた。


「到着~……」

「ここまでパーティーハウスを空けたのは久々だな」

「なんだか帰ってきただけなのに、嬉しいですっ」


 カスミはそんな風に言いながらパーティーハウスの方へ駆けていき、久々の我が家を堪能しようとした。

 が、庭の出入り口から入ったリビングは、中々に埃っぽくなってしまっていた。


(あぁー…… そりゃ一ヶ月掃除しなかったらそうなるよね)

 
「おー、埃だらけにゃー」

「長く拠点空けるとこうなっちゃうよねー」


 カスミに続いてきたローニャとレネも、埃っぽいリビングを見て苦笑いしていた。


「よし、まずは掃除だな」


 それからカスミ達は、皆で家の大掃除を始めた。

 中々に広い家なので、各自役割分担をして元の綺麗な家へと戻していく。

 幸い、留守にする前にカスミがしっかり掃除していたおかげで、埃以外の汚れはなく、2時間ほどで大体の場所を元通り綺麗な状態に戻すことができた。


「ふぅ、綺麗になりましたね」

「疲れた~…… カスミちゃん、一緒にお昼寝しよ~……」

「いや、私は食料を買いに行かないとっ」

「働き過ぎだよ~…… ほらほら、この辺ちょうど日向だし、寝たら気持ちいいよ~……」


 当然の如くこの家の冷蔵庫は現在空っぽなので、カスミは食料を買いに行こうとしたのだが、フィオが昼寝しようと可愛く誘惑してきた。


「うっ…… い、いやでも、買い物行かないとご飯が作れないのでっ」


 カスミも掃除でちょっと疲れたので、危うくそんなフィオの誘惑に負けそうになったが、なんとか振り切ってローニャと一緒に市場へと繰り出していった。


「カスミはなんでその都度食料買うのにゃ? 収納ポーチに入れとけば腐らないから、いっぱい買い溜めしとけばいいにゃー」


 そうして市場に向かう途中、ローニャはそんなことを聞いてきた。


「うーん、そうできるのは分かってるんですけど、便利な道具に頼り過ぎるのも良くないと思って」

「カスミは真面目にゃー」

「それに、市場とかは掘り出し物がある可能性もあるので、普通に見て回るだけで楽しいです」

「おーっとそこのお嬢様方! 良ければうちの商品を見ていかないかいっ☆」


 カスミがローニャの質問に答えながら歩いていると、いつの間にか市場に着いており、そこで露店を出していた細身の金髪で、なんだかキザな雰囲気をした男に声をかけられた。


「カスミ、ああいうのは無視にゃー」

「え、は、はい」

「おーっと!? 気に触ったのならごめんよ! でも、どうか見てって欲しい! ぶっちゃけあんまり売れてなくて困ってるんだ!」


 ハイテンションだが、実は結構切羽詰まっているようで、その男は今度はちょっと真面目な感じでカスミ達にお願いしてきた。


「ローニャさん、見に行ってもいいですか?」

「えー、変な奴にゃのに?」

「ま、まぁ、それはそうですけど、熱意は本物みたいなので」

「おー! 来てくれるのかい! さ、こっちだよ! あ、僕はアルデンテって言うんだっ☆」

「聞いてないにゃー」


 アルデンテと名乗ったその男は、態度はちょっとふざけているものの、なんとか客の気を引いて物を売りたい気持ちは伝わってきたので、カスミはアルデンテの露店を覗き込んでみた。


「これ、パスタですか?」

「そうさ! パスタに限らず、僕が作った色んな麺を売ってるんだ☆」


 その露店には、普通のパスタから始まり、他にも色んな麺が売っていた。

 ベースはパスタ生地のものが多く、普通のパスタより5倍くらい太いものや、星型にくり抜かれたものなど、面白い形をしたものが色々あった。


「そして、今日のメインがこれさっ! 名をスターダストゴールデン……」

「わぁ、ひょっとして中華麺ですか?」


 その中でも、アルデンテは自信作として、黄色い少しちぢれた麺をカスミに見せてきた。

 それはカスミにとっては馴染み深い中華麺と見た目が酷似していた。


「おや、僕オリジナルの麺だと思ってたけど、もしかしてもうある!?」

「あー、えっと、似たような麺が私の故郷にあって…… でも、こっちの方では見たことないので、オリジナルって言って良いと思いますよ」

「そうか! でも、名前はその、中華麺? ……ってやつを使わせてもらおうかな! 名付けに困ってたんだ!」

「い、良いと思いますよ」


 少なくともアルデンテが言っていた、スターダストなんとかという名前よりは中華麺って言ってくれた方がカスミ的にはありがたかった。


「パスタとなにが違うにゃー?」

「全然違うぞ! パスタよりもコシがあってもちもちしてるし、生麺だから調理もしやすい! ……んだけど、新しいものは中々受け入れられなくてね。 売れてないんだよー」


 大げさに肩を落としながらそんな風に言うアルデンテ。


「じゃあ、あるだけこの中華麺ください!」

「おう!? なんと、良いのかいお嬢ちゃん! 憐れみならいらないぜ!」

「ちょうど欲しかったんですよ、中華麺。 自作するのは大変ですし」

「おお、なんと…… 今日この出会いに感謝しなければっ☆」

「早く袋詰めしろにゃー」


 謎にクルクル回りながら踊り出したアルデンテに、ローニャは冷たくそう言い放つ。

 それからアルデンテは、コメディアンのような動きで中華麺を袋詰めし、カスミに渡してきた。

 カスミも当然代金を払ったのだが、新商品で買って欲しいということもあって、その値段はとても安かった。


「アルデンテさん、またお店出しますか?」

「ああ! パスタは割と売れ行き良いからね!」

「それじゃあ、また買いにきます。 あ、それと、良ければこういうの作れたりしませんかね?」


 カスミはそう言いながら紙とペンを収納ポーチから出して、欲していた麺類の形状や覚えている範囲での作り方を書いてアルデンテに渡した。


「ほう…… ほうほう! なんとこれは魅力的な麺ばかり! えぇえぇ、こちらから作らせて欲しいと言いたいくらいですよ☆」

「作れたら教えてください。 買いますので。 あと、それらを使ったレシピを今度まとめて商業ギルドに登録しておきます。 アルデンテさんにもお渡しするので、商売のネタに良ければしてください」

「なんと!? ……ああ、貴女は私にどれだけの恵みを与えてくださるのか。 さては貴女は天使!?」

「天使じゃないですっ!」

「あ、ごめんなさい」


 アルデンテに天使と言われたカスミは、条件反射でそれを否定した。

 女神だの天使だの、これ以上変な肩書きがついてたまるものかと。

 アルデンテも数秒ほど前まで可愛らしい微笑みを浮かべていたカスミが、突然クワッと鬼の形相を浮かべながら睨んできたので、素の反応で謝罪をしていった。


「コホン…… 天使はさておき、お名前をお聞きしても!?」

「……カスミです」

「ああ、カスミ様! 貴女との出会いに感謝を……」

「カスミ、用が済んだならもう行くにゃー」


 それから早くも切り替えてカスミの名を聞き、踊り出したアルデンテだったが、ローニャによってカスミは強制的にアルデンテの露店を後にする形になった。


「変人だったにゃー」

「あはは…… まぁでも、良いものが買えました」

 
 凄まじく印象に残るアルデンテだったが、売られているものはとても質が良かったし、カスミが欲していた麺も作ってくれそうだったので、また来ようとカスミは思いつつ、その後も市場で買い物を続けるのであった。
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