少年神官系勇者―異世界から帰還する―

mono-zo

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第279話 倫理観

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「遥っ!?」


遥がダンジョンから帰ってきた

入り口を覗くだけと言っていたけど本当に入り口から近い場所で元杉神官の救出部隊の人たちに連れられてきた

うつむいて具合が悪そうだ、青い顔をしている

一緒にいたクソ怖いビーツさんにラディッシュというお姉さんに聞くとゴブリンを殺して吐いたらしい


「まだ具合が悪いんじゃないかしら?」

「加護を得てまだ時間が経っていないと聞きますし、あり得るかと」


違う


生気のない顔をした遥を心配そうにしている2人だけど見当違いだ

遥は生き物を殺して、それで気分が悪くなったのだ


「奈美、私・・私・・・」

「遥、遥はきっと正しいことをしたんだよ、だから深く考えちゃだめ、これ食べて」


二人だけにしてもらって地面だけど座らせる

ミルクチョコを開けて食べさせる

理由はわかりきっている

私は元杉神官やヨーコ、レアナー様やケーリーリュさんとこちらの世界についてよく話していたのだけど何かを「殺す」ことに躊躇いがないように思った

こちらでは「殺す」という絶対に取り返しのつかない行為が「当たり前」なのだ


襲いかかってくるから殺す、襲われる前に殺す、見かけたら殺す


平和な日本よりも直接的に命を奪うことが日常の一部となっている

それが生きることにつながるのだから

私もいざ何かを殺そうとしたらこうなるのかもしれない


「殺せ、なかったよ・・・」

「そうなんだ、ゆっくりでいいから話してみて」


この世界では完全に敵対する種族、魔物やアンデッドというものが存在している

彼らはただただ奪いに来る、だから生きるためには壁や柵を作り、武器を用意し、戦って殺す


なにも守るためだけではない


見かけたら殺さないといけない

害虫駆除のように殺す必要があるのだ

現代日本では考えられない価値観、倫理観だ


殺すための武器を作る職人がいて、殺すために訓練するのは当たり前で、町の入口には武器を持った人がいて、殺すことを生業とした兵士が街中を歩いて人々に溶け込んで生活している


平和ボケとまで言われる日本ではあり得ない考え方だ


争い事はダメ、喧嘩しても手を出したら負け、手を出したらもうそっちが悪い、虫だって殺しちゃダメ、命は何でも大切なもの、人は見かけで判断しちゃダメ、人は皆尊重しあって支え合うもの、悪い人なんていない


とにかく殺すどころか暴力は絶対いけないことと教わる、それが正しいのだと


でもそれっておかしいよね?

何も考えずに、遊びで振るう暴力は悪い

だけど理由のある暴力は正義ではなかろうか?

過去にデカ女と私をいじめてくる男の子がいて、私のお弁当をひっくり返したから喧嘩したことがある


「お弁当の話をしてるんじゃないの、あなたが暴力を振るったのが問題なのよ」


そう言われたし、謝りなさいと言われたが私は絶対に謝らなかった

それまでにもずっと私は何度もいじめられてきたし我慢ができなかった


お弁当はお母さんが作ってくれたし、私の命を育むためのものだ


それを遊びで食べれなくしたことは悪いことではないのか?

その男の子も後で謝ってきたし、その親は本気でその男の子を怒っていた

だけど担任の先生だけはずっと私に怒ってきた

そういう価値観の人も、日本には当たり前にいる


遥は3匹のゴブリンを相手にして、1匹を殺して、残り2匹をチーテック様が体を動かして殺したらしい


「違うの、最後のゴブリンは刺さったまま生きてて、それで殺す前に死んじゃったの、殺せなかったの」

「そうなんだ、でも1匹目のゴブリンは殺せたんでしょう?」

「1匹目は一振りで、実感がなかったんだ」

「2匹目は?」

「私がためらっちゃって2匹目と3匹目はチーテックが串刺しにしてそのまま壁に刺して」

「それで終わったの?」


殺せなかったのは2匹目のことかな?

ゴブリンはヒト型の魔物だし、仲間同士でコミュニケーションもとる

元杉神官の記録用魔道具でも見たことがあるのだけど本性は醜悪でも人の形だ


「壁に刺さった一匹が生きてて、叫んでて、死にたくないってわかって・・・私、殺そうとしたんだけど殺す前に死んじゃってさ、自分でもよくわかんないんだけど本当に気分悪くて」

「そうなんだ」


人の形で、言葉はわからないけどなにか魔物同士でコミュニケーションを取ることもある知性のある生き物だそうだ

人間にとって完全に害であり、友好的なものはいない

それでも殺すのは、きついだろう


「うん」

「次はどうする?」

「ちゃんと躊躇せずに殺す」


躊躇せずに、か

きっとほんの少し、覚悟を決めようとした間に死んじゃったんだろう

いや、殺せてても殺せてなくても気分は悪くなってたんじゃないかな?


「うん、こっちではそれが当然だから遥は悪くないんだよ・・ただちょっと消化しきれてないだけなんじゃないかな?」

「うん、でも、気分のいいものじゃないね」

「それで良いんだと思う、私たちは全部こっちに染まる必要なんて無いんだから、私たちは私達なりにやれば良いんだと思う、チョコもう一個いる?」

「いる」


ほんの小さな一口のブロックチョコ

だけどそれだけで気持ちが軽く事がある

まだ具合の悪そうな遥だけどきっと大丈夫だ、一休みすればきっとよくなる
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