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しおりを挟む画家のお姉さんの件でもそうだが、俺はやっぱり、その人の頑張りは、その人の力だけで報われて欲しい、と思ってしまう。俺は脇でそれを見て、応援して、ちょっと手助けが出来ればそれでいい。
そりゃあ、それでどうしても失敗してしまうようなら、俺は精一杯助けたいと思うけれど、それでも、必死に頑張っている人達に軽々しく横から手を差し伸べて、これで解決!なんて状況にはなりたくないのだ。
大体、程度や実情は違えど、それをやり過ぎて魔族大陸《ローカストス》はあんなことになっていた訳だし……。兎に角、今回の件がヨゼフ達の頑張りによって解決する、と知れたことは素直に嬉しかった。
『そっか……誰も死なないんだな……』
「ええ、少なくとも人族大陸《ミュステン》の者は」
『…………やっぱりそれって、世界のためになるってことですかね』
「私からは何とも言えません。そして、今のアレルスマイアー様が考えることでもないと思いますよ、貴方様は、今は可愛いにゃんこちゃんですので」
優しく、言い聞かせるように囁かれて、確かになあ、と納得してしまう。もし仮に俺が記憶を持たずに生まれ変わっていたら、俺は何も知らず、決戦の日にも干し肉でも囓っていただろう。こうして考え込んでしまうのは、やっぱり記憶があって、考えることが出来てしまうからだ。
何のために猫になったのか。お気楽な生を楽しむ為じゃなかったか? そりゃあ、何もかも知らん顔なんて真似はしたくないが、今大事にしたい人達から死人が出ないと分かった現状、わざわざ俺を虐げた者の心配をしたところで仕方が無い。
『にゃおん』
「ふふ、可愛い鳴き声ですね」
ある程度投げ出すことを決めて鳴いた俺に、静かな微笑みを湛えたモニカさんは軽やかに靴音を響かせながら夜道を行く。ぽつぽつと明かりの灯る道を歩く彼女の足取りは迷い無く、然程掛からぬ内に、古びた教会へと辿り着いた。
所々穴だらけで、嵐でも来れば簡単に崩れてしまいそうな教会を見上げながら、モニカさんは小さく笑う。
「私、昔猫を飼っていたことがありまして」
『……そうなんですか?』
「まだ神殿仕えになる前の話ですがね。可愛い子でしたよ、白猫だったのですが、お尻の所に人の顔みたいに見える黒い毛が混じっていまして、眺めるたびに面白くて笑っていたものです」
教会の扉を開けたモニカさんは、俺を抱えたままゆっくりと祭壇へ歩み出す。夜の教会には灯りになるようなものは一つも無いが、足下を照らすほどの月明かりが視界を助けてくれていた。
「実を言うと、私は大分猫が好きなのです」
『それは……なんとなく感じてました』
「ですから、アレルスマイアー様が来世に猫を選んだ時はとても嬉しかったんですよ。この世に幸せな――幸せになると決まっている猫がまた一匹増えたわけですから」
モニカさんはにっこりと微笑むと、古びた祭壇に俺を乗せた。首を傾げる俺の前で、彼女の周りに月明かりの煌めきが集まっていく。
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