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しおりを挟む魔王と勇者の戦いというのは、ここ千年ぽっちで始まったようなことではない。
言い伝えに拠れば創世の頃より続く『循環の儀』に近く、魔王と勇者が殺したり殺されたりすることで世界のエネルギーである魔力《マナ》が循環していき、そのために勇者も魔王も産まれるのだ、と言われている。
勿論、『儀』などと言われたって魔族にも人族にも生活があるし、命だってかかっているから本気でやり合っている。
争い合うのだから当然のように禍根は生まれるし、定められた運命なんかで決着がついたりもしない。
ただ、やはり『儀』としての場は整えられている、と感じることは多々あった。
どうしても勇者が連れ歩ける人員に制限がかけられているように思えることだとか、魔王城は魔王が死ぬと必ず多少なりとも崩壊し、その地に力を還すことだとか、勇者が生まれると十数年の間は海域の境界が強化され、魔族側からの渡航に制限がかかるとか、何代か魔王が勝ち続けると勇者側に強大な力を持つものが現れる、とかな。
ただ、どれもこれも憶測の域を出ないし、それを『神の思し召し』だなんて言うつもりもない。
全てが予想通りなら、『功績点』なんて作る必要も無い気がするからだ。神様ですら俺達の行動を予測できないから、神様に良い方向に働いた者にわざわざ点をつけてやるんだと思うし。
だから多分、神様もこの事態は予測していなかっただろう。
【ズィロ隊! 下がれ! ヨゼフ様を援護せよ!】
【ウェル隊はヘレナ様の補助! 負傷した者を障壁内へ! 通過時に周囲の警戒を怠るな!】
【アリシア殿下! 申し訳ありません、此方の魔導師を優先して治癒を……!】
最終防衛ラインとなった海岸線では、王国直属の第一騎士団から第七騎士団までが勢揃いし、勇者一行と共にグロムの街を守っている。建築職人のおやっさん達も微力ながら後方で防御壁の維持に努めているみたいだ。
大混戦を繰り広げている海岸線から遠く離れ、画家のお姉さん宅の近くにそびえ立つ飾り同然の時計塔の頂上。『望遠視』の魔法で視界を広げた俺は、到底魔族と人族の争いには見えない様相を呈している海岸線を覗いている。
元来、魔族というのは襲い来る人族を迎え撃つ戦闘スタイルになることが多い。
低級の魔族であれば地の恩恵を受けることが少ない為に人族大陸《ミュステン》に渡り、人の血肉を得ることで力を得ようとするが、高位の魔族はそう簡単には己の地を離れない。単純に、その方が有利だからだ。
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