前世は魔王の俺ですが、今は気ままに猫やってる

藍槌ゆず

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 そうそう、子供と言えば、馴染みの八人家族の上から二番目、長男であるお兄さんには最近彼女が出来ていた。デート中、キスの直前にばったり出くわしてしまい、なんとも気まずい空気になってしまった訳だが。いや、彼女さんは目を閉じてたからバレなかったと思う。俺と長男くんだけが目が合ってしまい、なんか微妙な空気になっていた。
 口止めなのか、後で美味しい鳥頭熊《プディット》の前脚を頂いてしまった。いや、別に俺喋れないから、口止めも何もないんだけどな?

 末っ子ちゃんは大好きなお兄ちゃんが最近あんまり遊んでくれないから拗ねている。一番上であり長姉であるお姉さんが宥めていたが、お兄さんを取られてしまったような気持ちもあるのか、近頃ずっとむすくれている。
 まあ、お兄さんの彼女さんは子供好きな人で仲良くしたいと思っているようだから、いずれは仲良しになれるだろう。それまでは、俺の腹でも揉んで気を静めてくれ。

 日課になりつつある腹揉み――腹揉まれ?を終えた俺は、今日も中央広場のグリフォン像へと上る。やっぱり何だかんだ此処が一番寝心地が良いのだ。
 行き交う人々の喧噪を聞きながら、ゆったりと目を閉じる。

「勇者様と王女様の結婚式、素敵だったな~」
「私もあんな式挙げてみたーい」
「ドレス綺麗だったよね、あんな結婚式したいなあ」
「じゃあまず彼氏見つけないと」
「あは、確かに」

「なあ、第二広場の建設副責任者になったってホントか?」
「えっ、誰から聞いたんすか! まだ誰にも言ってねえんすけど!」
「親方だよ、昨日の飲み会で『ようやくあいつも仕事を任せられるようになってきた』なんて嬉しそうに話してたぜ」
「いやぁ~、ハハ、まあ俺の才能があればちょろいモンすよ~」
「おっ、気負って不安になってるかと思ってたが余裕と来たか。まあ、お前も大分真面目に打ち込んでるもんなぁ」
「………………」
「おいおいなんだその顔! 不安なら不安って言っとけ! みんなお前に力貸すつもりなんだからよ」
「セ、センパ~イ! よかった! 俺正直超プレッシャーで……!」
「あー、はいはい、くっつくな鬱陶しい」

「ねえねえ、今度出す新作の靴どんな感じなの?」
「アリシア様効果で白めっちゃ流行ってるからそっち系にするつもり~、デザイン画見る?」
「見して見して! やだ、めっちゃ可愛い~!」
「でしょ~?」

「最近あそこのクレープめちゃくちゃ美味しくない?」
「なんか粉変えたんだって~、ほらライバル店出来たからさ」
「あっ、知ってる! 食べ比べたいって思ってたとこ!」
「行く?」
「行くー!」

「俺この間孫が産まれてさあ、これがまた可愛いんだよなあ」
「ああ、双子なんだろ? 可愛いよなあ、孫がいるとあと百年は生きようって気になる」
「だよな。俺らもまだまだこっからだ」

「ロルはやっぱりそこがお気に入りねー、ふふ、溶けてるみたい」

 気づいた時にはすっかり熟睡していた俺が石像の上でパンケーキの上のバターみたいになっていると、道行く女性が小さく笑いながら俺の頭を撫でた。
 鼻先に小魚の乾物を差し出されて、目を閉じたまま反射的に齧り付いてしまう。半分寝たまま口を動かす俺の頭を撫でた女性は、数匹をおまけにして広場を去って行く。その背にお礼の鳴き声をあげると、ひらりと手が振られた。

 残された小魚を囓って飲み込んでから、根城にしている教会へと向かう。
 時折行き交う人達に声を掛けられ鳴き返したり、たまに撫でられたりしつつ、新しい道を見つけて気紛れに足を進める。遠く聞こえる賑やかな笑い声を聞きながら、俺は改めてこの街が好きだな、と思った。
 この街で色んな人と関わりつつ暮らしていけたなら、それが俺にとっての最上の幸福だ。

 茜色に輝いていた空が徐々に深い藍色へと染まっていく様を見上げながら、俺は己の幸福を今一度噛み締め、機嫌良く一声鳴いた。

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