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大きな猿

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「けっこう急な山道だな。道も狭いし、こりゃ大変だぞ」
ぶつくさと文句を言う亘を無視して鈴はさっさと登り始めた。
「ちょっと気になるな。忍びが伏せるには格好の道だ」
「そうだな。でも近道だからな。それに目立たない。上策だろう」
遼次と十郎は言葉を交わしつつ、辺りの気配をそれとなく探った。
「遼次、鈴の後ろに行ってくれ。俺は姫の側につく」
十郎は遅れ気味の雪姫に歩調を合わせ、側に寄り添った。
「あれ? 今、木が揺れた。何かいる。十郎、気をつけて」
姫が指差す先を十郎は見たが、今の十郎の視力では確認できなかった。
(耳に頼ろう。……そうだな。怪しい音だ。枝がきしんでいる)
「猿がいるね。大きいのがいるよ」
振り返った鈴が一同に告げた。
「そうだな。人と同じくらい大きい猿がいるな。気配でわかるぜ」
遼次が懐に手を入れると同時に風を切り裂く音がした。
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