雨乞いのカミサマ

澪花

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帰郷

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ガタン ゴトン
鉄の塊はレールを滑り、目的地へと向かう。
今私が向かっているのは、幼い頃に何度か訪れていた
祖父母が住んでいる村ーー雨杜村あまとむらだ。
小学生の頃は休みの度に訪れていた
祖父母の家だが
中学に上がり中々時間がとれず、
すっかり疎遠になってしまっていた。
それは働きだしてからも続き、
ようやく仕事が一通り落ち着いたので、
祖父母への報告も兼ねて村へ行くことにしたのだ。

窓の外を見ると、
外はしとしとと雨が降っていた。
傘は……。
探してみたが持っていないようだった。
祖父母の家に行くまでにずぶ濡れになることは間違いない。
ーーどこからか琴の音色が聞こえる
私を呼んでいるのは一体誰なの?

琴の音が気になりながらもとりあえず祖父母宅に向かった。
久しぶりに会う祖父母は
記憶よりも随分老けていたが、
迎えてくれた温かい笑みは変わっていなかった。
懐かしい気持ちでいっぱいになりながら、
先程聞こえてきた琴の音について祖父母に尋ねることにした。

「おじいちゃんは、この村で琴の音色を聞いたことはある?」

「いいや、聞いたことないな。…それがどうかしたのかい?」

「…そっか。ううん、なんでもない。」

「……ああ!琴と言えばこの村では神様の神器だと言われておるな。なんでも、失った記憶を取り戻せるらしい。どこにあるか誰も知らんがな。」

「神様の神器、か。」

失った記憶を取り戻せる神器。
もしそれが本当なら、私はあの写真に写っていた人物を思い出せるだろうか。
そうは言っても神器なんて大層なもの簡単に探し出せるものでもない。
それに勝手に使っては罰当たりだろう。
しかし、あの琴の音は何処かで聞いたことがあるような……。
不思議に思いながらも祖母がひいてくれた布団に横になった。
まあ、しばらくの間滞在するんだし性急に解決を図らなくともいいだろう。
体は思っていたよりも長旅で疲労していたようだ。
すぐにやってきた睡魔に抗うことなく琴音は眠った。

◇◆◇◆◇

彼女がこの村に帰ってきた。
やめておけば良いのに、何も知らずにのこのこと帰ってきた。
今自分がどの立場にいるのか知らないで…。

満月の夜、月明かりに照らされた1人の青年が
唐傘をくるくる回しながらすやすやと眠る琴音を見下ろしている。

「全てを思い出せ琴音。そして、この村の裏の顔を見るが良い。
心配するな、僕も君の記憶探しを手伝ってやるから。」

この村の連中が過去に何をしたのか…
それを知ってしまえばここの村人の見方も変わるだろう。

「でも、僕は雨の日しか手伝えない。
僕はもう、そういう神様になってしまったんだ」

雨の日以外は人の目には映らない。
それが、雨乞いの神様にされた僕の宿命だ。

◆◇◆◇◆

次の日、琴音が目を覚ますと、
昨日の雨が嘘のように晴れ渡っていた。
澄んだ青空に澄んだ空気、朝日によって照らされる山の緑…。
都会ではまず体感できないことに思わず笑みがこぼれる。

「ほんとに懐かしいなあ…自然ってこんなにも癒しをくれるんだね」

朝食を食べたあと、琴の音について調べるため
村を散策することにした。
この村のどこかから聞こえてるのは確かだ。
だが、その場所が分からなかった。
私は近くの村人に、琴のことを聞いてみることにした。

「すみません、この村にある失った記憶を取り戻せる神器のことは御存知ですか?」

「ああ、知ってるよ。唐笠様の神器だろう?」

「唐笠様?」

「自分の命を犠牲にして雨乞いを成功させた神様だよ。ここでは唐笠様は、雨乞いの神様として皆に知られているんだ。」

「唐笠様って、どんな人なんですか?」

「さあね、唐笠様の正体は誰も知らないよ。
雨が止んだら見えなくなるし、おまけに記憶も消えるからね。」

「記憶も、消える?」

私は手元にあった写真を取り出した。
その写真には田園を背景にして二人の青年が写っている。
そのうちの右側の青年に目がいく。

「この人、もしかして…。」

そう呟いた途端、
写真の青年の表情に変化があった。

「今、笑って…」

その瞬間、持っていた写真が突然変わった。
この写真は、私に何を伝えようとしているのだろうか…。

「雨、に神社?」

何か意味があるはずだ。
何故雨の日に神社の前で写真を撮る必要があるのか。
ーー唐傘様は雨が止んだら見えなくなる
つまり雨が降っているときにはその姿が見えるということになる。
成程、ということはやはり…

「この人が、唐傘様…??」

断言はできないはずなのに、なぜだかそう確信していた。
とはいえ今日は晴れだ。
今神社に行ったところでなにもできない。

「……近いうちに雨降るかな?」

とにかく雨が降るのを祈るしかなかった。

翌朝、起きると空は雨空だった。
しとしとと雨が降って、地面には水鏡が沢山出来ている。
まずい、私は傘を持っていない。
祖父の傘を借りようかと思ったが、
玄関の前に昨日まで無かったはずの赤い唐笠を見つけた。
かなり古そうだがどこも壊れてない。
それこそ値打ちのある骨董品みたいな感じで、
玄関の傘入れに立ててあった。

「おじいちゃんの傘かな?」

そう思った私は、祖父に聞いてみることにした。

「おじいちゃん、この唐笠どこで買ったの?」

「唐笠?そんなもの買っとらんが」

「そっか…誰かの忘れ物なのかなあ?」

「だとしたら困っとるじゃろうな。持ち主を探して届けてあげなさい。」

「そうだね、行ってくる」

私が唐笠を手に取ると…

「どうぞ、僕を使って」

「え?」

どこからか声が聞こえたので、
周りを見渡してみたが、
それらしき声を出した主は見つけられなかった。

「ここだよ、ここ」

次は今私が手に取っている赤い唐笠から聞こえた。

「さっきの声はあなた?」

「そうだよ、琴音。さあ、真実を探しに行こう」

「何で私の名前を知って…」

「そんなことは些末な事さ。
君は神器の音が聞こえているんだろう?
君が知りたい答えは全てその琴が教えてくれるよ。」

「私の、知りたいこと…」

行ってみる価値はある。
私は唐傘を手に取って家を出た。
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