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第2章
2-15 深淵より現れた白銀
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ガシャンッ ガシャンッ
甲冑の人物の足音は、無音になった空間によく響いた。薄暗く、闇に溶けそうな路地に映える白銀の甲冑を全身に身に纏い、甲冑の人物は深き深淵より現れる。
そして甲冑の人物は、甲冑の色とは正反対の、漆黒の負のオーラを放ち、歩みを進めた。
まるで物語の魔王の様な気迫に、三人は圧倒されてしまい言葉を失う。三人は甲冑の人物の動向を、ただ黙って見つめていることしかできなかったのだ。
そして、甲冑の人物は驚く三人を無視し、一直線に桜の切れて飛んでいった右足へ向かい、拾い上げた。そして、桜に向かって無造作に足を投げつけたのだ。
「ッ!? おわっ!? え、私の右足!?」
突然の出来事に、桜は更に目を丸くし、驚きの声を上げる。しかし、なんとかその足を受け止める事が出来た。
甲冑の人物は、桜が足を受け止めたのを確認すると、空の方へ向いて、パチンッ、と指を鳴らす。すると、空に纏わりついていた重力がなくなり、苦痛から解放された。
ようやく自由になった空は、悔しさで顔を歪め、甲冑の人物を睨みながら、立ち上がる。
「く……ッ! この……ッ! 新手……ッ!?」
しかし、甲冑の人物は質問に答える事なく、ただ空を無言で見つめるのみだった。
そして、今まで空と桜の戦いを傍観していたナイトメアは、口を大きく開け、驚いたように声を上げる。
「うっそでしょ……。まさか覚醒したての空ちゃんの身に起こるなんて……」
しかし、空と桜は甲冑の人物に釘付けになっていたので、ナイトメアの声が二人に届くことはなかった。
そんな三人の反応を甲冑の人物は無視し、無言で右手を掲げる。すると、その上空が裂け、楕円形の暗闇が出現し始めた。そして、音もなく暗闇から紫電の光を放つ、漆黒の槍が現れたのだ。漆黒の槍は、ゆっくりと甲冑の人物の右手に落ちてきて、その手に収まる。漆黒の槍はなんとも禍々しいオーラを放っており、空は本能的に、身震いした。
同じ漆黒の武器でも、空の大鎌の漆黒は『海』を思わせるような無限に広がる青の漆黒色。対して甲冑の人物の槍の漆黒は、さしずめ『無』を連想させるような、全てを消し去る恐ろしさを持った紫電の漆黒だった。
空は自身の武器との差に気付き、自分では決して敵わない、と本能的に悟った。しかし、それでも後に引くという選択肢はなく、きつく大鎌を握り直す。
だが桜は、甲冑の人物の能力を見て、なんとなく雪月の影を操っている能力と似ているなぁ。と、まるで緊張感のないことを考えていた。
突然現れた手強そうな新手に、空は歯噛みしながらも、体制を立て直す。そして、甲冑の人物へ大きく大鎌を振り、先制攻撃を仕掛けた。
「誰だろうと、邪魔する奴は容赦しないッ! そこをどけぇぇぇぇッ!」
空は自身の恐怖心を消すように、わざと大声を出して、甲冑の人物へ突進した。しかし、甲冑の人物はそれをいとも容易く槍で受止め、さらに強い力で弾き返したのだ。空は寸でのところでバランスを保ち、少し後退して甲冑の人物を睨む。
「っち。この程度じゃ、やっぱだめか。なら、数打てば当たる作戦ッ! 喰らえッ! 『判決の刻』ッ!」
そう言い、空は鎌をぐっと握り直すと、再び空間を切り裂く。すると、闇よりも暗い底から、それよりも深い、闇色の刃が、無数に生成された。
「これが私の全力攻撃ッ! 躱せるものなら、やってみろッ!」
空が一振り、大鎌を振りぬく。するとそれらが一斉に、まるで生きているかのように甲冑の人物へと襲い掛かる。だが────。
「────ッ!? う、嘘……ッ!?」
空の渾身の攻撃を、甲冑の人物は槍を一振りしただけで、全て消し飛ばしてしまったのだ。
そのあまりの圧倒的な力の差に、空は愕然とした。
桜はその光景を見て、思わず二人の間に割って入ろうと、残った左足だけで、全速力で駆け寄る。まぁ、片足だけなので、駆ける、というより、ジャンプして近寄った。
「空ッ! だいじょう────ッ!?」
ドンッ
────しかし、それが叶うことは無かった。桜が空と甲冑の人物の元へ行こうとすると、まるで見えない壁でもあるかのように、弾かれたのだ。何度試しても結果は変わらず、桜は歯噛みする。結局、桜は先程通り二人の戦いを遠目に見ることしかできなかった。
とにかく自分にもできることはないかと、桜は頭をフル回転させ、打開策を模索する。
まず、二人の戦いをよく観察しよう。後は……そうだ。さっき投げられた右足。もしかしたら頑張ればくっつくかもしれないし……元の位置に押し付けてみよう。
と、桜は馬鹿……というよりも突拍子もなさすぎることを混ぜながら思考した。そして何故か右足を元の位置に押し付けながら、二人の戦いを観察することにした。……傍目から見れば普通にサイコパス的行動であることは、彼女の思考では思い至らなかったのだ。
桜は二人をじっくり観察し、その戦いぶりを目に焼き付けた。しかし、最初から見ている通り、甲冑の人物が空を圧倒しているくらいしか、桜にわかることはなかった。
空は何とか一撃を与えようと、何回も何回も刃を振るう。しかし、相変わらず甲冑の人物は軽やかな動きで槍を扱い、空の攻撃を受け流していた。
というか、何故甲冑の人物は受け身のみなのだろうか? 槍を出しておいて攻撃しないなんて……。まるで、空の動きを『観察』しているようだな。と、桜は自身の右足をくっつけてみながら、そう考えていた。
それにしても空。大人しそうな性格のわりに、やる時はやるんだなぁ。私と同じ脳筋タイプの異能みたいだし。
そう、桜は緊迫した状態であるにもかかわらず、かなり呑気な考えをし始めた。
────その時。唐突に桜の右足に変化が訪れた。
暇つぶしに行っていた、意味のないはずだった行為。右足を元の位置へ押し付けるという行為が実を結んだのか。なんと桜の切れた右足が、ゆっくりと桜へと同化していったのだ。
くっつけばいいなー、とは思っていたが、まさか本当にくっつくとは思わず、桜は驚愕する。そして、いつの間にか腹の傷も無くなりかけていることに、桜は今更ながら気づいた。
あまりの唐突な出来事に、桜は今まで考えていた思考を全て放棄するほど、困惑する。
しかし、桜の驚きを他所に、空と甲冑の人物はなおも戦闘を続けていた。
「……んのッ! なんなのさッ! 攻撃する気もないくせに、私の前に立ちはだかるなぁぁぁぁッ!」
空の大声に、桜は我に返り二人の方を再び見やる。すると、そこには疲労がピークに達し、息を切らせて苦しそうにする空の姿があった。その姿から、空が劣勢なのは火を見るより明らかであり、そろそろ決着が着いてしまう……っ! と、桜は思う。
空は何度も大鎌を振り続けて攻撃しているが、甲冑の人物にはまるで効いていない。そのせいで、一方的な攻撃をしている空は、徐々に疲弊していく。その度に何故か彼女の力は跳ね上がっているように見えたが、それでも甲冑の人物には遠く及ばない。
正直、甲冑の人物が本気を出せば、空を一撃で倒すことだってできるだろうに。なのに、どうしてこんなに時間をかけるのだろう? ……まるで、私が回復する時間を稼いでいるような……。と、桜は突拍子もないことを考えた。まぁ、単に桜が、そうであればいいな。と、軽い気持ちで考えていただけなのだが。
しかし実際、先程も甲冑の人物は桜の右足を投げて来たが、それ以降こちらを視界に写すことはなかった。桜の存在は認識しているはずなのに。なので、自分の為に、なんてうぬぼれてもいいではないか。と、桜は誰に言い訳するでもなく、そう考えていた。
桜がそんなことを考えていると、唐突に事態は動く。今まで防戦一方だった甲冑の人物が、唐突に槍を横に大きく振り、空を壁へ叩きつけたのだ。
「──なッ!? ぐあぁッ!」
為す術もなく吹き飛ばされた空は、苦痛に顔を歪め、叫ぶ。そして恐らく、体のどこかの骨が折れたのだろうか、空は息を荒くし、立ち上がる気配はなかった。
「ッ!? 空ッ!」
そんな空の衰弱ぶりに、桜は彼女へ駆け寄ろうと走る。しかし、やはり目に見えない障害のせいで、空に近づくことは出来なかった。その事実に再び桜は歯噛みし、甲冑の人物を睨む。
この人が私にとって味方だろうが、敵だろうが、空を傷つけたことに変わりはない。そんな思いで、強く、敵意をもって甲冑の人物を睨んだのだ。
甲冑の人物は、空が倒れたのを見届け、桜の敵意の視線に気づいてか、桜に視線を向ける。その視線に、今度は自分の番か! と、桜は思わず身構える。
しかし、甲冑の人物は桜を一瞬見つめると、くるりと踵を返したのだ。そして、目の前の空間を槍で水平に裂く。すると、現れたときと同じような楕円形の闇が出来上がり、その深淵へと足を踏み入れ、姿を消して行った。
予想外の事態に困惑し、硬直していた桜だったが、空の呻き声を聞き、彼女に視線を移す。空はこんなにもダメージを負っているというのに、まだ意識があるようで、立ち上がろうとしていたのだ。そんな空を見て、桜は再び急いで彼女に駆け寄ろうと、復活した両足で駆ける。どうやら、今度は特に何の障害もなく空に近づけるようだった。
────そして、空に後数歩で近づける、と桜が思った次の瞬間。
ドスリッ
突然、桜の背後から一本の日本刀がひとりでに飛び出し、桜の腹を突き刺したのだ。
「────ぇ……?」
桜が刺された、と気づいた瞬間、今度は膝裏に、強い蹴りを喰らう。そのせいで桜はバランスを崩し、前のめりに地面へ倒れ、思い切り顔面を殴打した。
「ッ! いったいなぁッ! 誰ッ!?」
あまりの一方的な攻撃に怒り、桜が立ち上がって反撃しようと、足に力を入れる。しかし、桜が立ち上がろうとした瞬間、何故か日本刀の重力が急激に増したのだ。そして、日本刀はそのままアスファルトを突き抜け、地面へと突き刺さった。そのせいで桜は地面に縫い付けられ、身動きが取れなくなってしまったのだ。
「ぐぅッ! くっそ……ッ! ほんとにいい加減に……。────ッ!? な、なんでッ!?」
桜は苦痛に顔を歪めながら、首だけを背後へ向ける。すると、そこには意外な人物がいたのだ。
────そこには、死んだと言われていた戸倉柊夜が、無表情で桜を見下ろしていた。
甲冑の人物の足音は、無音になった空間によく響いた。薄暗く、闇に溶けそうな路地に映える白銀の甲冑を全身に身に纏い、甲冑の人物は深き深淵より現れる。
そして甲冑の人物は、甲冑の色とは正反対の、漆黒の負のオーラを放ち、歩みを進めた。
まるで物語の魔王の様な気迫に、三人は圧倒されてしまい言葉を失う。三人は甲冑の人物の動向を、ただ黙って見つめていることしかできなかったのだ。
そして、甲冑の人物は驚く三人を無視し、一直線に桜の切れて飛んでいった右足へ向かい、拾い上げた。そして、桜に向かって無造作に足を投げつけたのだ。
「ッ!? おわっ!? え、私の右足!?」
突然の出来事に、桜は更に目を丸くし、驚きの声を上げる。しかし、なんとかその足を受け止める事が出来た。
甲冑の人物は、桜が足を受け止めたのを確認すると、空の方へ向いて、パチンッ、と指を鳴らす。すると、空に纏わりついていた重力がなくなり、苦痛から解放された。
ようやく自由になった空は、悔しさで顔を歪め、甲冑の人物を睨みながら、立ち上がる。
「く……ッ! この……ッ! 新手……ッ!?」
しかし、甲冑の人物は質問に答える事なく、ただ空を無言で見つめるのみだった。
そして、今まで空と桜の戦いを傍観していたナイトメアは、口を大きく開け、驚いたように声を上げる。
「うっそでしょ……。まさか覚醒したての空ちゃんの身に起こるなんて……」
しかし、空と桜は甲冑の人物に釘付けになっていたので、ナイトメアの声が二人に届くことはなかった。
そんな三人の反応を甲冑の人物は無視し、無言で右手を掲げる。すると、その上空が裂け、楕円形の暗闇が出現し始めた。そして、音もなく暗闇から紫電の光を放つ、漆黒の槍が現れたのだ。漆黒の槍は、ゆっくりと甲冑の人物の右手に落ちてきて、その手に収まる。漆黒の槍はなんとも禍々しいオーラを放っており、空は本能的に、身震いした。
同じ漆黒の武器でも、空の大鎌の漆黒は『海』を思わせるような無限に広がる青の漆黒色。対して甲冑の人物の槍の漆黒は、さしずめ『無』を連想させるような、全てを消し去る恐ろしさを持った紫電の漆黒だった。
空は自身の武器との差に気付き、自分では決して敵わない、と本能的に悟った。しかし、それでも後に引くという選択肢はなく、きつく大鎌を握り直す。
だが桜は、甲冑の人物の能力を見て、なんとなく雪月の影を操っている能力と似ているなぁ。と、まるで緊張感のないことを考えていた。
突然現れた手強そうな新手に、空は歯噛みしながらも、体制を立て直す。そして、甲冑の人物へ大きく大鎌を振り、先制攻撃を仕掛けた。
「誰だろうと、邪魔する奴は容赦しないッ! そこをどけぇぇぇぇッ!」
空は自身の恐怖心を消すように、わざと大声を出して、甲冑の人物へ突進した。しかし、甲冑の人物はそれをいとも容易く槍で受止め、さらに強い力で弾き返したのだ。空は寸でのところでバランスを保ち、少し後退して甲冑の人物を睨む。
「っち。この程度じゃ、やっぱだめか。なら、数打てば当たる作戦ッ! 喰らえッ! 『判決の刻』ッ!」
そう言い、空は鎌をぐっと握り直すと、再び空間を切り裂く。すると、闇よりも暗い底から、それよりも深い、闇色の刃が、無数に生成された。
「これが私の全力攻撃ッ! 躱せるものなら、やってみろッ!」
空が一振り、大鎌を振りぬく。するとそれらが一斉に、まるで生きているかのように甲冑の人物へと襲い掛かる。だが────。
「────ッ!? う、嘘……ッ!?」
空の渾身の攻撃を、甲冑の人物は槍を一振りしただけで、全て消し飛ばしてしまったのだ。
そのあまりの圧倒的な力の差に、空は愕然とした。
桜はその光景を見て、思わず二人の間に割って入ろうと、残った左足だけで、全速力で駆け寄る。まぁ、片足だけなので、駆ける、というより、ジャンプして近寄った。
「空ッ! だいじょう────ッ!?」
ドンッ
────しかし、それが叶うことは無かった。桜が空と甲冑の人物の元へ行こうとすると、まるで見えない壁でもあるかのように、弾かれたのだ。何度試しても結果は変わらず、桜は歯噛みする。結局、桜は先程通り二人の戦いを遠目に見ることしかできなかった。
とにかく自分にもできることはないかと、桜は頭をフル回転させ、打開策を模索する。
まず、二人の戦いをよく観察しよう。後は……そうだ。さっき投げられた右足。もしかしたら頑張ればくっつくかもしれないし……元の位置に押し付けてみよう。
と、桜は馬鹿……というよりも突拍子もなさすぎることを混ぜながら思考した。そして何故か右足を元の位置に押し付けながら、二人の戦いを観察することにした。……傍目から見れば普通にサイコパス的行動であることは、彼女の思考では思い至らなかったのだ。
桜は二人をじっくり観察し、その戦いぶりを目に焼き付けた。しかし、最初から見ている通り、甲冑の人物が空を圧倒しているくらいしか、桜にわかることはなかった。
空は何とか一撃を与えようと、何回も何回も刃を振るう。しかし、相変わらず甲冑の人物は軽やかな動きで槍を扱い、空の攻撃を受け流していた。
というか、何故甲冑の人物は受け身のみなのだろうか? 槍を出しておいて攻撃しないなんて……。まるで、空の動きを『観察』しているようだな。と、桜は自身の右足をくっつけてみながら、そう考えていた。
それにしても空。大人しそうな性格のわりに、やる時はやるんだなぁ。私と同じ脳筋タイプの異能みたいだし。
そう、桜は緊迫した状態であるにもかかわらず、かなり呑気な考えをし始めた。
────その時。唐突に桜の右足に変化が訪れた。
暇つぶしに行っていた、意味のないはずだった行為。右足を元の位置へ押し付けるという行為が実を結んだのか。なんと桜の切れた右足が、ゆっくりと桜へと同化していったのだ。
くっつけばいいなー、とは思っていたが、まさか本当にくっつくとは思わず、桜は驚愕する。そして、いつの間にか腹の傷も無くなりかけていることに、桜は今更ながら気づいた。
あまりの唐突な出来事に、桜は今まで考えていた思考を全て放棄するほど、困惑する。
しかし、桜の驚きを他所に、空と甲冑の人物はなおも戦闘を続けていた。
「……んのッ! なんなのさッ! 攻撃する気もないくせに、私の前に立ちはだかるなぁぁぁぁッ!」
空の大声に、桜は我に返り二人の方を再び見やる。すると、そこには疲労がピークに達し、息を切らせて苦しそうにする空の姿があった。その姿から、空が劣勢なのは火を見るより明らかであり、そろそろ決着が着いてしまう……っ! と、桜は思う。
空は何度も大鎌を振り続けて攻撃しているが、甲冑の人物にはまるで効いていない。そのせいで、一方的な攻撃をしている空は、徐々に疲弊していく。その度に何故か彼女の力は跳ね上がっているように見えたが、それでも甲冑の人物には遠く及ばない。
正直、甲冑の人物が本気を出せば、空を一撃で倒すことだってできるだろうに。なのに、どうしてこんなに時間をかけるのだろう? ……まるで、私が回復する時間を稼いでいるような……。と、桜は突拍子もないことを考えた。まぁ、単に桜が、そうであればいいな。と、軽い気持ちで考えていただけなのだが。
しかし実際、先程も甲冑の人物は桜の右足を投げて来たが、それ以降こちらを視界に写すことはなかった。桜の存在は認識しているはずなのに。なので、自分の為に、なんてうぬぼれてもいいではないか。と、桜は誰に言い訳するでもなく、そう考えていた。
桜がそんなことを考えていると、唐突に事態は動く。今まで防戦一方だった甲冑の人物が、唐突に槍を横に大きく振り、空を壁へ叩きつけたのだ。
「──なッ!? ぐあぁッ!」
為す術もなく吹き飛ばされた空は、苦痛に顔を歪め、叫ぶ。そして恐らく、体のどこかの骨が折れたのだろうか、空は息を荒くし、立ち上がる気配はなかった。
「ッ!? 空ッ!」
そんな空の衰弱ぶりに、桜は彼女へ駆け寄ろうと走る。しかし、やはり目に見えない障害のせいで、空に近づくことは出来なかった。その事実に再び桜は歯噛みし、甲冑の人物を睨む。
この人が私にとって味方だろうが、敵だろうが、空を傷つけたことに変わりはない。そんな思いで、強く、敵意をもって甲冑の人物を睨んだのだ。
甲冑の人物は、空が倒れたのを見届け、桜の敵意の視線に気づいてか、桜に視線を向ける。その視線に、今度は自分の番か! と、桜は思わず身構える。
しかし、甲冑の人物は桜を一瞬見つめると、くるりと踵を返したのだ。そして、目の前の空間を槍で水平に裂く。すると、現れたときと同じような楕円形の闇が出来上がり、その深淵へと足を踏み入れ、姿を消して行った。
予想外の事態に困惑し、硬直していた桜だったが、空の呻き声を聞き、彼女に視線を移す。空はこんなにもダメージを負っているというのに、まだ意識があるようで、立ち上がろうとしていたのだ。そんな空を見て、桜は再び急いで彼女に駆け寄ろうと、復活した両足で駆ける。どうやら、今度は特に何の障害もなく空に近づけるようだった。
────そして、空に後数歩で近づける、と桜が思った次の瞬間。
ドスリッ
突然、桜の背後から一本の日本刀がひとりでに飛び出し、桜の腹を突き刺したのだ。
「────ぇ……?」
桜が刺された、と気づいた瞬間、今度は膝裏に、強い蹴りを喰らう。そのせいで桜はバランスを崩し、前のめりに地面へ倒れ、思い切り顔面を殴打した。
「ッ! いったいなぁッ! 誰ッ!?」
あまりの一方的な攻撃に怒り、桜が立ち上がって反撃しようと、足に力を入れる。しかし、桜が立ち上がろうとした瞬間、何故か日本刀の重力が急激に増したのだ。そして、日本刀はそのままアスファルトを突き抜け、地面へと突き刺さった。そのせいで桜は地面に縫い付けられ、身動きが取れなくなってしまったのだ。
「ぐぅッ! くっそ……ッ! ほんとにいい加減に……。────ッ!? な、なんでッ!?」
桜は苦痛に顔を歪めながら、首だけを背後へ向ける。すると、そこには意外な人物がいたのだ。
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