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卒業

その4 卒業 9

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その後、お互い何を言えばいいのかわからず僕ら2人の間に少し沈黙の時間が流れた。

僕はその間テーブルの脇に置かれたルーレット式おみくじ器の側面に描かれた星座のイラストを見るともなく眺めていた。

「刀根クンって何月生まれなん?」

久々原綾が僕と同じものを見つめながら僕に聞いた。

「7月」

僕は答えた。

「えっ!そうなん、ウチも7月生まれなんよ。7月の何日?」

「7月8日」

「嘘じゃろう?ウチと一緒じゃが!」

彼女はびっくりした様に言った。

「ホンマに?」

僕も目を見開いて思わず声を上げて聞き返した。

僕と彼女が18年前の同じ日に生まれたというのは僕にとっては本当に驚きだった。

「ウチと刀根クンが同じ日に生まれたなんて全然知らんかったわ」

まだ信じられないと言った表情で彼女は言った。

「ホンマに意外じゃなあ」

出来るだけ平静を装って僕は答えた。

そんな話をしている内にコーヒーと紅茶が運ばれて来た。

僕と彼女はそれぞれの飲み物を一口飲み人心地ついた。

「なあ、刀根クン」

紅茶のカップを置いて彼女が口を開いた。

「うん?」

「刀根クンは東京に行ってしもうたら、もうこっちの方には戻って来んのじゃろう?」

「そうじゃな、そうなるかも知れんな」

僕は一応そう答えたけれど祖父母と父の墓参り以外に、僕にはこの土地に戻って来る理由が無かったし、正直な所、ここを離れたらもうここに戻ってくるつもりも無かった。

「ウチもな音大に入って山南の方に行ってしもうたら出来る限りもうこっちの方には戻って来とうないわと思うてるんよ」

「そうなんか」

僕は答えた。

「ウチは子供の頃から、特に小学校の時に花室からこっちに引っ越して来た時から早よう大きゅうなって少しでも早く家を出て行きたいってずっとそればっかり考えとった」

彼女はそう言って視線を窓の外の方に向けた。

「そうか」

彼女がずっとそう考え続けていた事について僕にはそれ以上に言える事は何も無かった。

一つだけわかっているのは学校を卒業したら彼女は僕と同じ様にこの鷹野から出て行く事が出来るという事だった。
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