陣借り 華の雷蔵

卯三郎

文字の大きさ
上 下
1 / 1

陣借り 華の雷蔵

しおりを挟む
戦国乱世

群雄割拠が戦に明け暮れた時代は、

秀吉により日ノ本はほぼ平定され、戦の時代は終わりつつあった。


天正15年 10月 九州 豊前国(現在の九州北部)


中津藩 現藩主黒田家と旧藩主宇都宮家が戦を始める。

初戦で勝利を収めた宇都宮軍だが大軍で勝る黒田軍がじりじりと追いつめて行く、至る所でせめぎあう両軍。

丘の上で戦況を眺める武将達


茂みに隠れる大小の影二つ

小さい影「雷蔵様、戦目付様がいらっしゃいました。出るなら今です」

大きい影がぬくっと立ち上がる。

この者、十文字槍を持ち身の丈6尺(約180Cm)の大男。敵兵を睨みつける。


この大男、深紅の鎧を身にまとい、背中に大きな蓮の花の付いた枝を挿し、その上にはためく旗指物には「お借りそうろう」の文字。


大男「やあ、やあ、鎮西(九州)には男はおらんと見える!」

宇都宮家足軽(以下足軽)「何だあの仁王像みたいな男は」

大男の後ろから小さい男が顔を出す。

小さい男「やあ、やあ、よく聞け!彼こそは数々の戦場で負け知らず。とった首級200あまり!」

宇都宮足軽たち「お~っ」

大男「(おい、勘助そんなにとってないぞ)」

勘助「(大丈夫ですよ、誰も知らないですから)参じた戦では負け知らず!」

宇都宮足軽「おお」

大男「(おいおい、初陣は負け戦だったぞ)」

勘助「(大丈夫ですって)かの太閤秀吉殿下より、天下無双の武士(ものもふ)言わしめた、華の雷蔵!」

宇都宮足軽「何、秀吉だと!」「ゆるせん」

勘助「(まだ、名乗りが途中なのに、なぜか怒り出しましたね)」

大男「(まあ良い)誰でもよい、ワシとひと勝負いたそうではないか!」


宇都宮足軽の中から大きな声と共に大男と同じ背丈の武者が進んで来た。

武者「あい解った。お相手いたそう」

宇都宮足軽「おお、村上様じゃ、槍の村上様じゃ」

沸き起こる宇都宮足軽衆

武者「我は、宇都宮家家臣、槍大将 村上太郎兵!」


大男「(やっと歯ごたえのある奴が出て来たな)我は、この戦に園もゆかりもござらぬが、手柄のために黒田の陣を拝借している。神田雷蔵でござる。勘助下がっておれ」

槍を頭の上で大きく回しながら雷蔵ににじり寄る

村上「いざ、いざ尋常に勝負」

バチン!バチン!

お互いの槍が激しくぶつかる。その槍の風圧は他の者を寄せ付けない。


村上「(こやつ出来る)」


雷蔵の攻撃に徐々に後退する村上


宇都宮足軽「村上様が危ない、誰か種子島を」

種子島(火縄銃)を抱えた鉄砲足軽二人が駆け寄る。

村上「皆の者手出し無用」

グサッ!!

村上の脇の下に雷蔵の槍が突き刺さる

宇都宮足軽「村上様」

宇都宮足軽「撃てー」

パン パン

村上を盾にして避ける雷蔵

雷蔵「武士の勝負を何と心得る!」

村上に刺さった槍を引き抜き足軽衆を睨みつける。


宇都宮足軽「槍の村上様が」


雷蔵、倒れてる村上に対し

背中に挿した蓮の花より花びらを取り村上の口に押し込む、

懐の数珠を取り出し手を合わせ念仏を唱える。


宇都宮足軽「あやつ何者ぞ」

宇都宮足軽「聞いた事がある。あらゆる戦場に現れては、鬼のような強さで首を取りまくる。 華の雷蔵」

宇都宮足軽「何故、口の中に花びらを入れるのだ」

宇都宮足軽「馬鹿か、あれほど強いと首級を五~六は取るだろう。それを全部持って戦えないだろう。だから横取りされないように目印に花びらを口に入れて後で首を回収するって」

宇都宮足軽「だから 華の雷蔵か」


ドラが響く「ドーン、ドーン」


宇都宮軍「引け、引けー」

戦は黒田軍優勢、敗走を始める宇都宮軍

遠くで黒田軍より勝鬨が上がる。

「えい、えい」「おー」


夕暮れ迫る戦場

至るところに屍が転がっている。

黒田軍の足軽や武者狩りになった百姓達が屍を漁っている。


雷蔵「勘助!勘助!」


黒田足軽壱「おいこれは宇都宮家、槍の村上じゃないか」

黒田足軽弐「この首を、戦目付殿に持って行けば大手柄じゃ」

黒田足軽参「速く首を落とせ」

黒田足軽壱「まて、口に花びらが」

黒田足軽弐「華の雷蔵の首級だ」

黒田足軽参「なぬ、口から花びらをかき出せば」

足軽参、口の中の花びらを取り出そうとする。

黒田足軽参「う~ん、食いしばって取れないな」

黒田足軽壱「お、おい、後ろ、後ろ」

黒田足軽参「うるさいな、お前らも手伝えよ」

黒田足軽弐「後ろ、後ろ」


雷蔵「おい、誰の首級を狙っているのかな」


振り向くと鬼の形相の雷蔵が睨みつける。

腰を抜かす足軽参

黒田足軽参「す、すみません、知らずに、知らずに」

雷蔵「去ぬ」

足早に逃げて行く足軽達。


雷蔵「勘助!勘助!何処にいった!」


屍の中に旗指物には「お借りそうろう」の文字を背負った

脇槍(従者)勘助が流れ弾に当たり討ち死にしている。


雷蔵「勘助。お前が逝ってどうする」

手を合わせる雷蔵、短刀で髷を切り取る。

雷蔵「ふう~さて、首級を集めるか」

腰に四つの首級、槍に陣羽織で包んだ首級一つを括りつける。

雷蔵「四、五。さすがに首級が五は重いな、勘助が居てくれれば」

遠くでホラ貝の音が響く「ヴオ~ッ」

雷蔵「急がねば、戦目付殿が帰ってしまうわ」

茂みの中に分け入る雷蔵


雷蔵「う~む、道に迷ってしまったか、ふう、しかし重いの」

ガサッ!草むらの中に人影が動く

雷蔵「誰じゃ!」

ビクッと止まる人影、槍に付いていた陣羽織の首級を左手に抱える

雷蔵「そこだ!」

右手持った槍を人影に向けて投げつける。

雷蔵、槍が刺さった所に来る。

槍の刺さった先に泥だらけ足軽が腰砕けで座り込んでいる。

雷蔵「何だ、足軽か、旗指しも無いのか、お前は宇都宮家か」

足軽、口を開くが恐怖で声が出ない

雷蔵「黒田家か」

足軽、小さくうなずく

雷蔵「本当か、まあどっちでも良い、これより黒田家本陣に手柄報告しに行く為のその案内とこの首級を持て、ただとは言わん褒美次第で賃金を出そうぞ」


足軽を睨みつける雷蔵、顔や体中泥だらけの足軽

雷蔵「お主、名は何て申す」

足軽「・・・・・」

足軽小刻みに震えている。

雷蔵怒鳴る

雷蔵「おい!」

足軽「はひっ!」

雷蔵「しゃべれるではないか、名は何て申す」

足軽「ご、五郎左(ごろうざ)」

雷蔵「百姓か」

五郎左「へっ、へい」

雷蔵「土地の者か」

五郎左「へい」

雷蔵「それにしても汚いな、溝にでも落ちたか」

五郎左「へい」

雷蔵「まあ良い、この首級を持て、黒田家本陣まで案内せい」

五郎左「へい」

雷蔵「へいしか、言えないのか、ほら持て」

雷蔵の腰より五つぶらさげている首級が入った首袋を五郎左に渡す。

五郎左、首袋を受け取るがあまりの重さに二つを落としてしまう。

転がる首袋の一つから生首が飛び出し、五郎左の足元に転がり、生首の片目を開けた鋭い眼光睨まれる。

五郎左「うあ~」

五郎左、腰を抜かしその場にへたり込む。

雷蔵「たわけ、ちゃんと持たんか!」

五郎左「わっ、わっ・・・・」

震える五郎左。

雷蔵「おい、おい、生首くらいで、腰を抜かすなよ」

雷蔵転がった生首を髪の毛で持ち上げる。

雷蔵「ハハハ、ほら見てみろ、吉兆だぞ、右目で、睨んどる。古来より右目の開眼は吉とされているかいるからな、ほらシャキッと立て」

生首を首袋に詰め、首袋五つを五郎左の腰に結び付ける。

雷蔵「なんだ、おなごみたいに細いな、ほら」

“バチン”と五郎左の背中を叩く雷蔵、よろめく五郎左。

五郎左「そ、そちらの首は・・・」

槍の先に結んでいる陣羽織で包んだ首級を指さす五郎左。

雷蔵「この首級は、きっと名のある方の首級、お主に落とされてはたまらん

ほら、さっさと歩いて道を案内しろ」

槍の背で五郎左の背中を押す雷蔵。

夕日が空を赤く染め、東の空に三日月が現れる。

雷蔵「おい、五郎左まだ着かぬか」

五郎左「もう少しでございます」

雷蔵「茂みが深くなるばかりではないか、このままだと野宿だぞ」

急に辺りが暗くなる。

雷蔵「まて、・・・五郎左、お主・・・、」

周りの気配を読む雷蔵、遠くに無数の松明の炎と“ガシャン、ガシャン”と金属を叩く音が響く。

雷蔵「落ち武者狩りか、このまま行くのも危ない、うん?」

“ゴロゴロゴロ・・”低い音が聞こえる。

雷蔵空を見上げる。一瞬ピカッと周りが明るくなり空に稲妻が走る。

“ドーン”雷の音が響き渡る。

雷蔵「これは来るな」

雨がぽつり、ぽつりと降ってくる。段々雨脚が激しくなる。

五郎左「お武家殿、この先に炭火小屋がございます」

雷蔵「お武家殿?雷蔵でよい、野宿より良いか、そこに案内せい」

五郎左「雷蔵殿、こちらです」

炭火を焼く窯の隣にある古い炭火小屋、中には囲炉裏もあり6畳ほどの広さがあった。

雷蔵「中々良いではないか、濡れずに済みそうだ、炭も、井戸も、鍋もあるのか。それにこの雨じゃ落ち武者狩りも無いだろう」

雷蔵、囲炉裏に炭と枝をくめ、火打石にて火をつける。

雷蔵「五郎左、ボーっとするな、この鍋に水を入れてこい」

慌てて鍋を持ち井戸に水をくみ行く五郎左。

雷蔵「さすがに腹が減った。五郎左、腰の物を寄こせ」

五郎左「こ、これを食べるのか」

腰にぶら下げた首袋見つめる五郎左、震えだす。

雷蔵「早く寄こせ」

五郎左「き、(鬼畜。人喰い。)」

雷蔵「何言ってるんだ。腰の芋紐を寄こせ」

五郎左「芋紐?」

雷蔵「腰に巻いてるその紐だ。この紐は芋茎(ずいき)に塗り込んだ味噌とこの干飯で、味噌粥を喰うんだ」

五郎左「味噌粥?」

雷蔵「早うそこに首袋を置いて紐をよこせ、鍋が沸くだろ、お前本当に百姓か」


激しく降り続く雨。

雷蔵「五郎左、お前は先祖代々この土地の者か」

五郎左「へい、古来より豊前中津です」

震える足軽

雷蔵「ほう、そう怖がるな。我は、この戦に園もゆかりもござらぬが、手柄のために黒田の陣を拝借している。神田雷蔵でござる。ほら味噌粥を喰え」

五郎左「へい」

五郎左震える手でお椀を受け取り、粥をすする。

雷蔵「お主、黒田じゃないな」

五郎左「ごほっ」せき込む

雷蔵「百姓でもないな」

黙り込む五郎左

雷蔵「図星だな、でもそのほうが好都合じゃ」

震える五郎左

雷蔵「怖がるな、お主を殺しはせん。実は首級をとったものの、誰の誰平かわからぬ、そこでお主に首実検をお願いしたい」

コクリと頷く五郎左

雷蔵「まずは、この鍋についたススを集めよ」

五郎左「何をなさるので」

雷蔵「当たり前だろう、首級の歯に塗ってお歯黒するのよ、貴族の首となれば褒美が増える」

五郎左「あの、宇都宮軍にお歯黒した武者はいません」

雷蔵「エッ、いないの、、、でも、死化粧はしておこう、五郎左、桶に水を入れてこい」

五郎左「あ、洗うのですか」

雷蔵「汚い首級よりも綺麗な首級のほうが見栄え良いだろう」

首袋より首級を取り出す雷蔵

五郎左「ヒッ」

雷蔵「いちいち怖がるな、早く洗え」

怖がりながら首級を洗う五郎左

雷蔵「血が滴るからこの米粉を塗って血止めしろ」

雷蔵米粉の入った袋を渡す。

雷蔵「特にこの若武者の首は丁寧に洗え」

雷蔵、陣羽織に包んでた首級を取り出す。

その顔を見てぎょっとする五郎左


雷蔵「さて、まずはこの4名の名と職を聞こうか」

五郎左「馬廻先鋒 安藤五左衛門殿、 足軽大将 桐井三郎殿 長柄衆頭 池辺牛一殿 槍大将 村上太郎兵殿」

雷蔵、木の札に名を書き留め、首級に括り付けていく。

雷蔵「最後にこの若武者だが、見よこの美しい顔を、しかしこの頬の痣がが、残念じゃ」

五郎左「そのお方は、、、宇都宮家 嫡男 宇都宮朝房殿、、、」


雷蔵「なんと、嫡男で有ったか、流石に宇都宮家の嫡男見事な戦いぶりで有った。俺の運が巡ってきたな」


雨も止み、蛙の声が響く

炭小屋、囲炉裏の火が小さくなる。囲炉裏を背にして寝る雷蔵、並べられた首級を前にうずくまる五郎左。


五郎左「皆、すまない。私のせいでこのように姿に・・・」

五郎左、宇都宮朝房の首級を胸に抱きしめる。涙を流す。

五郎左「許してくれ、許してくれ・・・五郎左」

キラリンと刀が光り、五郎左の首元に、

寝ていたはずの雷蔵が太刀を五郎左の首元に突き立てる。

雷蔵「お主、何やつ」

五郎左「雷蔵殿、其方は何故戦う。我々はこの地に住み、田畑を耕し民と共に生きてきた。

全て、全ては、秀吉の九州征伐。我々は秀吉と黒田と共に戦い島津を退けた」

五郎左、雷蔵を睨みつける。

五郎左「なのに、秀吉は、我らの田畑を奪い、民を奪い、この地を奪った、この仕打ち何故だ、天下人がすることか?」

五郎左大粒の涙がこぼれる。

五郎左「雷蔵殿が討ったこの者たちは、我のために犠牲になった者たち、手柄に焦った我の愚かな作戦の為に」

雷蔵「お主」

五郎左「我は宇都宮朝房、我が軍にも雷蔵殿が居れば、雷蔵殿は金で戦場を渡り歩くと聞いたが、幾ら出せば宇都宮家に来てくれる、、、、フッ、我が軍に雷蔵殿に出す金も無いが、我が城ならをくれてやろうぞ、、、」

雷蔵「この首級は」

朝房「我の小姓、竹ノ内五郎左。五郎左に生き延びて再起を図るよう言われたが、、、もはやこれまで我の首を持って黒田家へ向かうと良い」

朝房、雷蔵に背を向け首をだす。

朝房「さあ、とくとく首をとれ」

雷蔵、小刻みに震えだす。しゃがんでいる朝房の胸倉をつかみ上げる。

朝房「何を?」

雷蔵「あい分かった」

雷蔵、拳で朝房の顔を殴り飛ばす。

部屋の隅に転がる朝房

雷蔵「お命頂戴仕る」

雷蔵、仁王立ちで朝房を見下ろす。


早朝

黒田家本陣

戦目付たちが首注文(名簿)をつけている。

雷蔵「神田雷蔵、首級をお持ちした」

戦目付「順番じゃ、この札を持ちそこに控えておれ」

すでに4~5人首を持った武者が並んでいる。

戦目付「番号六番、番号六番」

雷蔵「俺か」

戦目付「早うまいれ、名と職を申せ」

雷蔵「神田雷蔵、陣をお借りしておる」

戦目付「なんじゃ、陣借り者か、で、首級五つで相違ないか」

雷蔵「相違ない」

戦目付、首についている木札を見て記入していく。

戦目付「な、何と宇都宮家嫡男 朝房の首級だと」

慌てだす戦前目付

戦目付「殿に、殿に報告を、雷蔵殿、至急首実検いたすので、奥の間で」

雷蔵「あい分かった」


ドス、ドスと足音を響かせて鎧姿の大男が入ってくる。黒田家大将、黒田長政である。

長政「何、宇都宮の嫡男の首をとった!でかした。誰じゃ、褒美を取らすぞ」

戦目付「殿、まずは首実検を」

長政「打ち取った者は誰じゃ」

戦目付「彼方の神田雷蔵殿でございます」

長政「神田雷蔵?どこの者じゃ」

戦目付「陣借り者でございます」

長政「雷蔵、ああ、華の雷蔵か、でかしたぞ」

戦目付「殿、首実検の準備ができました。


首実検
古来より恨みを持つ首は飛んで噛み付くと言われており

大将の廻りを鎧を着た武者が守りを固め、

首が飛びつかない距離(約5m)に離れ首の確認をする。

三方に乗せた首級を持ってくる戦目付


戦目付「宇都宮家 嫡男 宇都宮朝房の首級でございます」


長政「うーむ、真に朝房の首か?儂は2度しか会っておらぬからな、しかも、なんじゃこの公家みたいな死化粧は」

戦目付「雷蔵殿、相違ござらぬか」

雷蔵「私を疑いか、大将級の首には敬意を払い死化粧するのが習わし、殿もそれをご存じのはず」

長政「わかっおるが、ちと塗りすぎじゃ」

雷蔵「わかり申した、黒田本陣の前に私が生虜(捕虜)にした宇都宮家の家来が紐で繋がれております。そやつを連れて参れば一目りょうぜん」

長政「そやつを連れて参れ」


縄で縛り上げ「お借り候」の旗を背負わされ、口に蓮の花びらを咥えた男が引き立てられ、皆の前で転がされる。


戦目付「そやつは」

雷蔵「宇都宮家 家臣 竹ノ内五郎左、朝房の小姓だそうだ、こやつは命の代わりに身代金を払うと言うから連れてきた、私の金づるだ、丁重に扱ってくれよ」

戦目付「その者、この首級は朝房で相違ないか」

小さく頷く男

戦目付「殿、そのようでございます」

長政「う~む、竹ノ内、、、朝房に会ったときにいた小姓か、確か左頬に痣があるのが気になった覚えがある。その者の痣を調べい」

戦目付「はい」

戦目付、手ぬぐいで男の顔を拭く」

戦目付「殿、右頬に痣がございます」

長政「そうか、雷蔵でかした、褒美を取らそうぞ」

長政「えい、えい」

黒田家臣「おー」

長政「えい、えい」

黒田家臣「おー」


黒田本陣に響く勝鬨


本陣から出てくる雷蔵と男

雷蔵「何が褒美を取らすか、武者4つに大将級1つでたったこれっぽっちか、黒田のけちめ」


あぜ道を歩く二人

雷蔵「もうよいだろう、朝房どの」

雷蔵、男の縄を解く

朝房「雷蔵殿、なぜ助けた」

雷蔵「前から、黒田家はケチと聞いていたし、お主に死なれては城持ちになれないからな



朝房「だから我を殴って痣を作ったのか」

あぜ道横にお地蔵さんの横におじいさんが座っている。

おじいさん「そこのお二人さん、話が聞こえたんじゃが、黒田ケチかね」

雷蔵「なんだいじいさん、盗み聞きはよくないぞ」

おじいさんを見てぎょっとする。朝房。

おじいさん「すまんのう、すまんのう」

雷蔵「何、いいってことよ、ここだけの話、黒田はケチだよ」

おじいさん「やはりそうか、わしもそう思ってたんじゃ」

雷蔵「話がわかるねえ、じいさん」

おじさん「あの黒田の殿様も、ケチで、猪突猛進の単純バカときた」

雷蔵「じいさんも言うね」

おじいさん、「お借り候」の旗をみる

おじさん「ほう、陣借り者か、この後はどの戦場で」

雷蔵「さあね、明日は宇都宮家、明々後日は大友家、戦のある場所あればどこでも馳せ参じ申そう」

あじいさん「そうか、そうか、ではお二人ともお達者で、ハッハッハ」

雷蔵「じいさんもな」

遠ざかるおじいさん

雷蔵「変わったじいさんだったな、どうした朝房殿、顔色が良くないぞ」

朝房「あのじいさんは、長政の父、黒田官兵衛殿」

雷蔵「エッ、秀吉に天下を取らした天才軍師」

朝房「ついに、ついに黒田官兵衛が出て来たのか」

雷蔵「天才軍師か、相手に取って不足ない。早く我が城に行って戦準備じゃ」

朝房「まだ、城をやるとは」

雷蔵「武士に二言は無いでござるぞ、朝房殿」

山道に消えて行く大小の影


宇都宮家と黒田家の戦いはまだ始まったばかりである。

続く!


大予告!

鬼の形相の黒田長政
長政「これっぽっちの砦、何故落とせない!」
家臣「殿、ここは元より宇都宮の領地、地の理がございます」
長政「うるさい、あの陣借りのせいで、おやじに嫌味を言われた。お前にわかるか!」
家臣「殿、落ち着いてください。ここは大殿(黒田官兵衛)が、来るまで」
長政「おやじが来るだと!三倍の兵を持ってただおやじを待てだと!馬を引け、これより出陣する」
家臣「と、殿」
長政「出陣じゃ~」

黒田の長政を先頭に三十騎あまりの騎馬武者が
宇都宮家が守る砦へ突っ込んで来る。

草むらから顔を出す雷蔵
雷蔵「猪突猛進。じいさんの言う通りだ」

木の橋を渡り、砦の門を蹴破り中へ突入する黒田長政と騎馬武者。
長政「蹴散らせ!」

雷蔵「今だ!」
宇都宮の足軽が大きな木槌で、木の橋の橋脚を壊す。

ゴゴーン
大きな音を立てて崩れる橋

雷蔵「術中にはまったな長政どの」
長政「くそ、雷蔵め」

雷蔵「天下黒田、恐るに足らん、首級ちょうだいつかまつる!」
長槍が長政の首に迫る。

バチン
寸前ところで雷蔵の槍か跳ねかえる。

砂煙の中から雷蔵の前に二人の大男が立ち塞がる。
大男「若、何故大殿の到着を待たない」
長政「友信」
大男「本当に長政は猪突猛進じゃ、だからオヤジどのに言われるのじゃ」
長政「うるさい、又兵衛」
後藤「お主か、陣借り屋か」
雷蔵「そう、陣借りの神田雷蔵と申す。貴殿方」
後藤「黒田家家臣、後藤又兵衛」
母里「同じく黒田家家臣 母里友信」
雷蔵「ほう、あの黒田二十四騎、これはおもしろくなってきた!」

次回ですお楽しみに!




しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...