美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ

さら

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第4話 絶望と偶然の出会い

 灰色の雲が垂れこめた午後、私は城下町をさまよっていた。銀貨は減っていくばかりで、宿代を払えるのもあと数日。市場のざわめきや笑い声が、どこか遠い世界の音に思えてならなかった。

「……もう、限界かもしれない」

 小声でつぶやいて、広場の片隅に腰を下ろす。石畳の冷たさがじかに伝わってきて、心の奥にまで沁みてくる。人々は忙しなく行き交い、誰一人として私に気づくことはない。私は召喚されたはずなのに、ここでは存在しないも同然だ。

 そのとき、馬の蹄の音が近づいてきた。振り返ると、深い青のマントを纏った騎士たちが列をなし、豪奢な馬車を護衛していた。馬車の扉には銀色の紋章が輝き、威厳を放っている。私は思わず立ち上がったが、足がもつれて転びそうになった。

「おい、そこの娘。大丈夫か?」

 低く落ち着いた声が響いた。馬車の扉が開き、中から現れたのは長身の男性だった。漆黒の髪を後ろで束ね、鋭い目元ながらもどこか穏やかさを漂わせている。その姿は、兵士や商人とはまるで違う雰囲気を纏っていた。

「えっと……はい、すみません」

 慌てて頭を下げる。けれど足元はふらつき、危うく再び倒れそうになる。

「顔色が悪いな。城下の者ではなさそうだ」

 男の視線は鋭く、しかし決して冷たくなかった。私は迷った末、昨日からの出来事をぽつりぽつりと語り始めた。召喚されたこと、魔力ゼロと告げられたこと、無能扱いされ王城を追い出されたこと。話しているうちに声が震え、涙がにじみそうになる。

「なるほど……王都は相変わらずだな」

 男は小さくため息をついた。その声音には同情だけでなく、どこか達観した響きがあった。

「私はアルフォンス・フォン・ヴァルター。この辺境を治める伯爵だ」

「へ、辺境伯様……!」

 思わず背筋を伸ばす。庶民である私が、領主と直接言葉を交わしているなど信じられなかった。

「君に帰る場所がないのなら、しばらく私の領地に来るといい。王都の冷たさに晒されるよりは、ずっとましだろう」

「えっ……でも、私なんて何もできませんし……」

「何もできない人間などいない。君にしかできないことも、きっとある」

 その言葉は胸の奥に静かに響き、冷たい石畳に座り込んでいた心を温める焚き火のようだった。

 馬車に乗せてもらうと、柔らかなクッションに体が沈み込む。揺れる車輪の音に混じって、外の景色が流れていく。私は銀貨の小袋を握りしめながら、ちらりと隣に座る辺境伯を見た。横顔は精悍で、静かな力強さを感じさせる。

「本当に……私なんかが一緒に行ってもいいのでしょうか」

「君がどう生きるかは、君自身が決めることだ。私が手を差し伸べるのは、そのきっかけに過ぎない」

 その言葉に、胸の奥がじんと熱くなる。王都で浴びた冷たい視線とは正反対の、まっすぐで誠実な眼差し。私は小さくうなずき、心の奥にかすかな希望の灯を感じた。

 馬車はやがて街道へと出た。遠くには緑の丘陵が広がり、沈みゆく夕日が空を朱に染めている。私はその景色を眺めながら、心の中で静かに呟いた。

「……行ってみよう。新しい場所へ」

 その決意は小さな声だったけれど、確かに私自身の意志で生まれたものだった。
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