美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ

さら

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第11話 失敗と励まし

 翌朝、私はリディアに誘われて村の作業を手伝うことになった。緑の丘に広がる畑は朝露に濡れ、光を反射してきらきらと輝いている。農夫たちはもう畑に出ていて、鍬を振るい、牛を操り、忙しそうに動いていた。私の胸は期待と不安で高鳴っていた。少しでも役に立ちたい、その思いだけで足を進めていた。

「お嬢様、こちらをお願いします。今日は収穫した野菜を仕分ける作業です」

 リディアが指差した籠の中には、土のついた大きな芋やキャベツが山のように積まれていた。私は袖をまくり、気合を入れて取りかかる。だが、慣れない作業は思った以上に難しかった。

 籠を持ち上げようとした瞬間、バランスを崩して足を滑らせてしまう。

「きゃっ!」

 籠が傾き、中身の芋が土の上にばらばらと転がっていった。周囲の農夫たちが驚いて振り返り、私は真っ赤になって慌てて拾い集めた。

「ご、ごめんなさい! 私、やりますから……!」

 必死に手を伸ばすものの、芋はころころと転がり続ける。指先に土がつき、髪にまで泥が跳ねる。

 その様子を見た子供たちが笑い声を上げた。

「お嬢様、ドジだー!」

 無邪気な声に胸がちくりと痛む。王都で無能と言われた記憶が蘇り、涙がこぼれそうになる。私は必死に下を向き、土だらけの芋を掴んだ。

 そのとき、背後から影が差した。

「君のせいではない」

 低く落ち着いた声。振り返れば、アルフォンスが立っていた。彼は片膝をついて芋を拾い上げ、淡々と籠に戻していく。

「力仕事は慣れていなければ難しい。誰だって最初は失敗する」

「で、でも……私、また役に立てなくて……」

「違う。挑戦したこと自体に意味がある。できないからといって、価値がないわけではない」

 真剣な眼差しに見つめられ、胸の奥が熱くなる。周りの農夫たちも気まずそうに頭を下げ、子供たちも笑うのをやめて駆け寄ってきた。

「ごめんなさい! でもお嬢様、一生懸命だったよ!」

「うん、僕たちも手伝う!」

 小さな手が芋を拾い集め、泥だらけになりながら籠へ戻していく。その姿に涙がにじみ、私は慌てて袖で拭った。

「君は人を動かした。失敗を笑われても、その後に人が寄り添ったのは君の人柄ゆえだ」

 アルフォンスの言葉はまっすぐに心へ届いた。王都で浴びた冷たい嘲笑とはまるで違う。ここでは、失敗しても誰かが支えてくれる。

「……ありがとうございます」

 震える声でそう告げると、アルフォンスはわずかに口元を緩めた。

「今日のことを恥じるな。君はもう、この領地の一員だ」

 その言葉に胸がいっぱいになり、呼吸が乱れる。私は深く頷き、籠を抱きしめるように持ち上げた。重さは変わらないはずなのに、不思議と軽く感じた。

 夕暮れ、作業を終えて館へ戻る頃、空は茜色に染まっていた。風に揺れる畑を振り返りながら、私は心の中で小さく呟いた。

「私……ここで生きていけるかもしれない」

 そのつぶやきは静かに夜風に溶け、明日の希望へと変わっていった。


第12話 季節の祭り

 数日後、村は朝から賑やかな声に包まれていた。広場の中央には大きな木の柱が立てられ、色とりどりの布が巻き付けられて風に揺れている。香ばしい匂いが漂い、焼きたての肉や甘い蜜菓子を売る屋台が並んでいた。子供たちは手作りの仮面をつけて駆け回り、笛や太鼓の音が絶え間なく響く。今日はこの土地の収穫を祝う祭りの日だと聞いて、私は胸を高鳴らせていた。

「お嬢様、こちらです!」

 リディアが笑顔で手を振る。彼女も今日は祭り用の鮮やかな赤いスカーフを巻き、普段より一層華やかに見えた。私は借り物の薄緑のドレスに袖を通していた。胸元に刺繍が施され、裾が軽やかに揺れる。普段は地味な自分が、少しだけ特別になれた気がして、頬が熱くなった。

 広場を歩くと、村人たちが次々に声をかけてくる。

「お嬢様も祭りに来てくださったのですね!」
「まあ、緑のドレスがよくお似合いで」

 温かい言葉に、思わず笑顔がこぼれる。こんなふうに歓迎されるのは初めてで、胸がじんとした。

 屋台の前で足を止めると、焼き立ての蜂蜜菓子が山積みになっていた。甘い匂いに惹かれて見つめていると、店主の老婆が差し出してくる。

「お嬢様、ひとつどうぞ。領主様に救われた私たちの感謝です」

「そんな……でも、いただきます」

 口に入れると、外はさくりと香ばしく、中から濃厚な蜂蜜が溶け出した。思わず目を細める。周囲の笑い声に混じって、自分も本当にこの村の一員になれたのだと感じた。

 やがて広場の中央で踊りが始まった。太鼓の音に合わせて若者たちが円を描き、手を取り合って軽やかに舞う。観客の中からも次々と人が引っ張り出され、笑いながら踊りの輪に加わっていった。

「お嬢様もいかがですか?」

 リディアが背中を押す。私は慌てて手を振った。

「む、無理よ! 私、踊りなんて……」

 そのとき、低い声が耳元に届いた。

「なら、私が導こう」

 振り返るとアルフォンスが立っていた。普段の鎧ではなく、祭り用の黒い上着に身を包んでいる。肩口に金の刺繍が光り、精悍な顔立ちが一層際立って見えた。

「わ、私、本当に踊れませんから……!」

「心配はいらん。足を預ければいい」

 差し出された手を前に、胸がどくんと鳴る。周囲の視線も気になったが、彼のまっすぐな眼差しに抗えず、私は恐る恐るその手を取った。

 音楽に合わせて歩みを進めると、最初は足がもつれそうになった。だがアルフォンスが腰を支え、ゆっくりと動きを導いてくれる。彼の大きな手の温かさに包まれると、不思議と体が軽くなっていく。

「そう、その調子だ」

「……本当に、踊れてるみたい」

 私の言葉にアルフォンスがわずかに口元を緩めた。その笑顔は、これまでで一番柔らかく見えた。

 太鼓の音が高まり、輪が広がっていく。気づけば私も自然に笑っていた。王都で味わった孤独や屈辱は遠い昔のことのようで、今はただ音楽と笑い声に身を委ねていた。

 踊りが終わると、大きな拍手が広場を包んだ。息を弾ませながらアルフォンスの手を放すと、彼は静かに囁いた。

「君の笑顔は、この村の宝になる」

 胸が熱くなり、言葉が出てこなかった。顔を上げると、夜空には無数の星が瞬いている。祭りの光と星の輝きが重なり合い、世界が夢のように美しかった。

「……ありがとうございます」

 ようやく絞り出した声は小さかったけれど、確かに彼に届いた気がした。

 祭りの喧噪が続く中、私は心の奥で静かに思った。

「この場所が、私の新しい居場所なんだ」

 その確信は星空の下で強く根を張り、胸の奥に消えない光を残した。



第13話 さりげない距離感

 祭りの余韻がまだ残る翌朝、私は館の庭に出ていた。夜通し飾られていた布や花は片付けられ、庭師たちが手際よく整えている。爽やかな朝の風が頬を撫で、草花の香りが混じる空気を吸い込むと、まだ少し浮き立つ心が静かに落ち着いていった。

 私は昨日のことを思い返す。あの踊りのとき、アルフォンスに手を取られた瞬間の温かさ、導かれる安心感、そして自然に笑ってしまった自分。あれは偶然の一瞬だったはずなのに、何度も思い出しては胸が高鳴ってしまう。

「朝から考え込んでいるようだな」

 声に驚いて振り返ると、アルフォンスが庭の小径に立っていた。黒い上着の袖をまくり、片手には分厚い本を持っている。祭りの華やかさとは違い、今日は領主としての落ち着いた雰囲気を漂わせていた。

「い、いえ。庭があまりに綺麗で……」

「この庭は母が生前、手ずから世話をしていた。花を絶やすなと遺言のように言われたから、今も欠かさず手入れをしている」

 そう語る彼の表情は、どこか遠い記憶を見つめるように優しかった。私は胸の奥に温かさと切なさを同時に抱き、しばらく言葉を失った。

 アルフォンスは本を差し出した。

「これは領地の古い記録だ。昨日の市場で君が興味を示していたから、見せてやろうと思ってな」

「ありがとうございます……!」

 革の表紙を開くと、羊皮紙に手書きの文字や絵がびっしりと書かれていた。村の祭りや昔話、農作物の記録まで残されていて、読み進めるうちに時間を忘れてしまう。

「すごい……本当に細かく書かれているんですね」

「民の暮らしを知ることは、領主にとって何より大事だ。だが君のように外から来た者が読むと、新しい視点が得られるかもしれない」

 その言葉に胸が熱くなる。役立たずと切り捨てられた自分が、ここでは「新しい視点」を持つ存在として必要とされている。

 本を閉じたとき、ふとアルフォンスとの距離が近いことに気づいた。手を伸ばせば触れてしまうほどの距離。心臓が早鐘を打ち、頬が熱くなる。

「あの……」

 思わず声を上げかけた瞬間、アルフォンスはすっと一歩退いた。表情は変わらず穏やかだが、その仕草に私の胸はひやりとした。

「無理に読もうとせず、少しずつでいい。疲れただろう、部屋で休むといい」

「……はい」

 優しい気遣いなのに、どうしてか少し寂しく感じる。さりげなく距離を取られたように思えて、胸の奥がくすぐったく切なくなった。

 部屋へ戻る途中、私は小さく息を吐いた。王城で蔑まれたときには決して味わわなかった感情が、今は次々と胸に押し寄せてくる。安らぎと、戸惑いと、ほんの少しの甘やかな痛み。

「私……アルフォンス様のことを、どう思ってるんだろう」

 窓から差し込む朝の光が床に揺れ、私は自分の心を持て余しながら部屋へと歩いていった。


第14話 嵐の夜

 その日は朝から空が重たく沈んでいた。低く垂れこめた雲は鉛のように分厚く、昼を過ぎても光を遮っていた。村人たちは皆早めに家へ引き上げ、家畜小屋の扉を固く閉じていた。夕刻になると風が唸りを上げ、やがて雷鳴が地を揺らす。館の窓に叩きつける雨粒は、まるで誰かが拳で扉を打ち破ろうとしているかのように激しかった。

 私は自室の窓辺に立ち、嵐に震える庭を見下ろしていた。昨日までの穏やかな風景は、すっかり別物に変わっていた。木々は大きくしなり、枝が折れる音が絶えず響く。

「……大丈夫、大丈夫よ」

 自分に言い聞かせても、胸は早鐘のように鳴り続ける。日本で台風の夜を過ごしたことはあったけれど、こんなに激しい嵐は初めてだった。

 そのとき、廊下から駆け足の音が響いた。扉が軽く叩かれ、リディアの声が飛び込んでくる。

「お嬢様! 村の家の屋根が飛ばされたそうです! 避難してきた人々を館に受け入れることになりました!」

「そんな……怪我人は?」

「まだわかりませんが、かなりの人数だと……。アルフォンス様が対応に出ています!」

 胸の奥がぎゅっと縮む。居ても立ってもいられず、私は廊下に飛び出した。

 大広間には、既に村人たちが避難してきていた。びしょ濡れの衣服から水が滴り、幼い子供は泣き声を上げている。老人は震える手で杖を握り、若い母親は必死に子を抱きしめていた。私は人の波に圧倒されながらも、思わず声を張り上げる。

「毛布を……毛布を持ってきて! 子供たちを先に温めないと!」

 侍女たちが慌てて倉庫に走り、私は濡れた子供の肩に毛布を掛けてやる。小さな体がぶるぶる震えていて、胸が締め付けられた。

「大丈夫よ、怖くないから。ここは安全だからね」

 子供の背を撫でながら言葉をかけると、泣き声が少しずつ弱まり、代わりにしゃくり上げが漏れる。母親が涙ぐみながら頭を下げた。

「ありがとうございます……お嬢様」

「いえ……私にできることなら」

 その一言が胸に深く響いた。“役立たず”と言われた自分に、できることがある。そう思えただけで、心が少し強くなる。

 やがて大広間にアルフォンスが戻ってきた。黒い外套は雨に濡れ、肩から滴が落ちている。それでも背筋はまっすぐで、鋭い眼差しには揺るぎがなかった。

「被害は広がっているが、全員ここに収容できそうだ。火を焚いて食事を配れ」

 短い指示が飛ぶと、使用人たちは迅速に動き出す。その姿に村人たちの不安が少し和らいでいくのがわかった。アルフォンスの存在は、まさにこの土地の支柱なのだと実感する。

 彼は私の姿に気づき、少し眉を寄せた。

「君もここにいたのか。危険だから部屋で休んでいろと言ったはずだ」

「……でも、私にもできることがあるはずです。せめて子供たちを安心させるくらいは」

 強い口調で返したつもりはなかったが、声は震えていた。それでもアルフォンスはしばし私を見つめ、やがて静かに頷いた。

「わかった。だが無理はするな」

 その言葉に胸が温かくなり、私は毛布を追加で運ぶ手を強くした。

 嵐は夜更けになっても収まらなかった。だが、大広間の中には不思議な安らぎがあった。火の明かりが人々の顔を照らし、子供たちは毛布に包まれて眠り始めていた。母親たちが小声で感謝を告げ、老人たちが祈りを捧げる。

 その光景を見ながら、私は静かに思う。

「私はここで、生きる力を見つけられる」

 王都では与えられなかった役割を、この嵐の夜にようやく手にした気がした。

 ふと、肩に温かな布が掛けられた。振り返るとアルフォンスが立っていて、自分の外套をそっと私にかけていた。

「冷えるだろう。……よくやってくれた」

「いえ……私なんて、ただ毛布を運んだだけで」

「人を安心させることは、それ以上に難しい」

 彼の眼差しは優しく、私の胸を深く揺さぶった。嵐の轟音の中で、その声だけは不思議と静かに響いた。

 私は何も言えず、ただ小さく頷いた。

 外の嵐はまだ続いていたが、心の中には確かな灯がともっていた。それは風にも雨にも消されない、小さな光だった。



第15話 二人きりの対話

 嵐の夜から一日が過ぎ、村も館も少しずつ落ち着きを取り戻していた。屋根を直すために男たちが声を掛け合い、女たちは保存食を分け合い、子供たちはもう笑顔を取り戻している。あの恐ろしい夜を共に乗り越えたことで、人々の絆は一層強くなったようだった。私はその光景を窓から眺め、胸の奥に静かな誇りを抱いていた。何もできないと思っていた自分が、あの夜は確かに役に立てたのだから。

 夕暮れが迫るころ、執事のクラウスが私の部屋を訪れた。

「お嬢様、アルフォンス様がお呼びです。暖炉の間にて」

「わかりました……」

 胸がどくんと鳴る。彼に呼ばれると、どうしても心が落ち着かない。嬉しいような、不安なような、言葉にならない気持ちを抱えながら、私は足を進めた。

 暖炉の間に入ると、橙色の火が静かに揺れていた。分厚い絨毯の上に大きな椅子が二つ向かい合って置かれ、その片方にアルフォンスが腰掛けていた。彼はワインを傾けていたが、私が入るとすぐにグラスを置いた。

「来てくれたか」

「はい……」

 促されて向かいの椅子に座る。火のはぜる音だけが響き、しばし沈黙が流れた。私は落ち着かず、膝の上で手を組んだ。

「昨夜の君の働き、皆が感謝していた。子供たちを安心させ、母親たちを励ました。……私も感謝している」

「そんな……私はただ、必死で」

「必死に動ける者は貴重だ。恐怖に凍りつく者も多い中で、君は人々の前に立っていた」

 その言葉に、胸がじんわりと熱くなる。王都では一度も与えられなかった評価が、ここでは素直に与えられる。その差に涙がこぼれそうだった。

 アルフォンスは暖炉の火を見つめながら、低い声で続けた。

「私は長くこの地を治めてきたが……時に孤独を覚える。領主は人に弱さを見せられない。冷徹な辺境伯と呼ばれてきたゆえに、なおさらだ」

 彼の横顔は火に照らされ、陰影が浮かび上がっていた。その瞳には寂しさが宿っているように見え、私は思わず口を開いた。

「……でも、皆さんはアルフォンス様を慕っています。昨日だって、あの姿を見て安心していました」

「それでも、人は領主という立場しか見ない。私自身を見てくれる者は少ない」

 静かな告白に、胸が締めつけられる。

 気づけば私は、無意識に言葉を口にしていた。

「……私は見ています」

 アルフォンスがわずかに目を見開き、こちらを見つめた。火の揺らめきがその瞳に映り、私の心臓は早鐘のように鳴る。引き返すことはできないと悟り、私は震える声で続けた。

「領主としてではなく……ひとりの人として。優しいところも、時に寂しそうに見えるところも。全部、ちゃんと見ています」

 沈黙が落ちた。火の音が大きく響く。アルフォンスはゆっくりと息を吐き、深く椅子にもたれた。

「……そうか。君にそう言われると、不思議と心が軽くなる」

 その声はどこか安堵に満ちていた。私は顔が熱くなるのを感じながら、視線を落とした。

「君は、王都で無能と呼ばれたと言ったな。だが私は、君の中に強さを見ている。自分では気づいていないかもしれないが……君は人を支える力を持っている」

「……そんなふうに言ってくださるのは、アルフォンス様だけです」

「ならば、これからは私が証明しよう。君が無能ではなく、この地に必要な存在だということを」

 彼のまっすぐな言葉に胸が震える。涙がこぼれそうになり、慌てて瞬きを繰り返した。

 しばしの沈黙のあと、アルフォンスは立ち上がり、暖炉の火に薪をくべた。火が勢いを増し、部屋はさらに温かさを増す。

「遅くなったな。今日は休むといい」

「……はい」

 立ち上がった私の肩に、彼の大きな手がそっと触れた。わずかな一瞬だったが、その温もりは深く心に残った。

 部屋を出るとき、私は小さく息を吐いた。胸の鼓動はまだ速いままだった。けれど、不思議と不安はなかった。ただ、確かな温もりだけが心を満たしていた。

「……アルフォンス様」

 誰にも聞こえない声でその名を呟きながら、私は長い廊下を歩いていった。


第16話 村の子供たちと遊ぶ主人公に、辺境伯が優しい眼差しを向ける

 春の陽射しが柔らかく丘を照らす午後、私はリディアに誘われて村を訪れていた。前日の雨で畑の土はしっとりと湿り、芽吹いたばかりの若葉が鮮やかに輝いている。村の広場では子供たちが駆け回り、棒切れで剣ごっこをしたり、泥団子を並べたりと元気いっぱいだった。私が姿を見せると、一斉に「お嬢様だ!」と声が上がり、ちいさな足音がぱたぱたと近づいてくる。

「お嬢様、こっち来て! 一緒に遊んで!」
「ねえねえ、縄跳び見て! 昨日より上手になったんだよ!」

 両手を引っ張られ、私は思わず笑ってしまった。日本にいたころ、こんなふうに子供たちと触れ合う機会はなかった。会社と家を往復するだけの日々では、こんな無邪気な笑顔を向けられることなど想像もできなかった。

「じゃあ、順番にね。まずは縄跳びを見せてもらおうかな」

 私はしゃがみ込み、子供たちの輪に混ざった。

 縄跳びをする少女の髪がふわりと舞い、縄が空気を切る音が軽やかに響く。十回を数えたとき、周りの子供たちから歓声が上がった。少女は胸を張って誇らしげに笑い、私に向かって「すごいでしょ!」と目を輝かせた。

「本当に上手ね。次は私にも挑戦させてくれる?」

「えっ、お嬢様が!? やってみて!」

 子供たちが歓声を上げて縄を差し出す。私は久しぶりの挑戦に緊張しつつも、縄を持って飛んでみた。最初の数回はうまくいったが、十回目でつまずいて派手に転んでしまう。

「きゃあっ!」

 土埃が舞い、私は膝を押さえて顔を赤らめた。子供たちの間に一瞬の沈黙が流れ、次の瞬間、笑い声がはじけた。

「お嬢様、ドジだー!」
「でもすごい! ちゃんと飛べてた!」

 私は照れくさく笑いながら膝についた土を払った。笑われることが不思議と嫌ではなく、むしろ輪の中に溶け込めた気がして嬉しかった。

 そのとき、広場の端から視線を感じた。振り向くと、アルフォンスが腕を組みながらこちらを見ていた。彼はいつも通り冷静な表情をしているのに、その眼差しはどこか優しさを含んでいる。

「領主様だ!」
「お父さんみたいだね!」

 子供たちが無邪気に叫ぶ。アルフォンスは軽く手を挙げて応えたが、すぐに視線を私へ戻した。その目に宿る柔らかな光に、胸が熱くなる。

 彼が私をどう見ているのか、まだ確かではない。それでも、子供たちと遊ぶ私を温かく見守るその眼差しは、間違いなく本物の優しさだった。

 私は再び子供たちに囲まれ、今度は鬼ごっこに加わった。小さな手に背中を叩かれ、必死で走り回る。笑い声と土の匂いが混じり合い、時間を忘れて夢中になった。気がつけば頬は汗で濡れ、息は上がっていたが、心は驚くほど軽かった。

「お嬢様、速い!」
「もう疲れちゃったよー!」

 子供たちが草の上にごろんと転がり、私も隣に腰を下ろす。青空が広がり、雲がゆっくりと流れていた。

 その瞬間、背後から影が落ちた。アルフォンスが近づき、私に布を差し出す。

「汗を拭け。風邪をひく」

「ありがとうございます……」

 布を受け取りながら顔を拭うと、彼の視線とぶつかった。真剣なのに、どこか穏やかな瞳。胸がどくんと鳴り、言葉を失う。

「君がここに来てから、村がずいぶん明るくなった」

 静かな声が耳に届く。その一言だけで、王都で否定され続けた過去が遠くかすんでいく気がした。

 夕暮れが近づき、子供たちは家へと帰っていった。広場に残ったのは私とアルフォンスだけ。風に揺れる草の音が心地よい沈黙を彩る。

「今日は楽しかったです」

 私がそう告げると、アルフォンスは小さく頷き、ほんの少し口元を緩めた。

「その笑顔を忘れるな。それが、この領地にとって何よりの力になる」

 私は胸の奥が熱くなるのを感じながら、静かに頷いた。

 日が傾き、空が茜色に染まる。並んで歩く帰り道で、私は心の奥で小さく呟いた。

「……私、この人の隣でなら変われるかもしれない」

 その思いは確かなものとして芽生え、夕暮れの風に溶けていった。


第17話 王都からの使者

 その日、館の門前に見慣れぬ紋章を掲げた馬車が止まった。黒地に金糸で刺繍された王家の紋章。従者たちがざわめき、村人までもが門の外に集まる。王都からの使者だとすぐにわかり、私の胸はざわりと波立った。王城を追い出されたあの日の記憶が蘇り、足が竦む。

 重厚な扉が開き、鎧を纏った騎士たちが馬車を囲む。その中心から、絹のマントを羽織った使者が現れた。整った口髭を撫で、威厳を漂わせる中年の男だ。彼は当然のように胸を張り、広間に通された。私も使用人たちに混じって控えていたが、視線を合わせる勇気はなかった。

「辺境伯アルフォンス殿に、王都からの書状をお持ちした」

 使者は巻物を差し出し、朗々と読み上げる。

「王都にて聖女カンザキ・ミサキ殿が目覚ましい働きをなされた。祈りの力で病を癒し、人々の信頼を集めている。その功績を称え、盛大な式典が催される予定である」

 広間がざわつく。あの日、共に召喚された美咲の名前が堂々と響き渡り、私の胸はぎゅっと縮んだ。王都で聖女と称えられ、称賛される彼女。対して私は、何の力もないおまけとして追放された存在。言葉にされなくても、比較の刃は鋭く心に突き刺さる。

 使者はさらに続けた。

「聖女殿は国王の寵愛も厚く、王都の未来を担う存在として崇められている。辺境伯もいずれ式典に参列いただきたいとの仰せだ」

「承知した」

 アルフォンスの答えは簡潔で揺るぎなかった。その声を聞きながらも、私は胸の奥に冷たい影を感じていた。

 使者が去った後、私は庭の隅で一人立ち尽くした。花壇の花が風に揺れているのに、心は晴れなかった。

「美咲は……立派にやっているんだな」

 呟いた声は小さく震えていた。頭では比べる必要などないとわかっている。それでも、同じように召喚されたのに、自分は何の役にも立たず、ただ庇護されているだけ。王都の冷たい声が再び耳元で蘇る。

「無能」「役立たず」――。

 胸の奥がじわりと痛み、涙が滲んだ。

「ここにいたか」

 背後から声がして振り返ると、アルフォンスが立っていた。夕陽に照らされたその横顔は静かで、眼差しには揺るぎないものが宿っている。

「顔色が悪い。使者の言葉に惑わされたな」

「……だって、美咲は聖女として皆に称えられていて。私は何もできなくて、ただ守られているだけで……」

 言葉を絞り出すと、アルフォンスはゆっくりと近づいた。その歩みは静かだが力強く、私の心の動揺を包み込むようだった。

「君は君だ。他人と比べる必要はない。君が村人に微笑みかけただけで安心した子供がいた。裁縫で救われた者もいる。……それを無価値と言うのなら、それこそ愚かだ」

 その声は低く響き、胸の奥にまっすぐ届いた。

 私は唇を噛み、涙をこらえながら首を振った。

「でも、王都の人たちは……」

「王都は王都、この地はこの地だ。私はここで共に歩む者を見ている」

 アルフォンスの瞳が真っ直ぐに私を映す。その眼差しに包まれると、凍りついていた心が少しずつ溶けていく。

「……ありがとうございます」

 小さく呟いた声は夕暮れの風に溶け、茜色の空に消えていった。

 館に戻る道すがら、私は胸に手を当てた。不安と共に芽生えたのは、確かな温もりだった。アルフォンスの言葉が心に根を下ろし、暗い影を少しずつ追い払っていく。

「私も……ここで役に立てるはず」

 その決意は静かだが確かで、夕暮れの光の中で小さく燃えていた。



第18話 君には君の役割がある

 王都からの使者が去った翌日も、心のざわめきは簡単には消えなかった。市場に顔を出しても村人たちはいつもと変わらぬ笑顔で迎えてくれるのに、どこか申し訳ない気持ちで胸が締めつけられる。裁縫を手伝い、子供たちと遊び、農作業を見学する。そんな日々を重ねても、「聖女」と称えられる美咲の姿が脳裏に浮かび、比べてしまう自分がいた。

 夜、食事のあとに廊下を歩いていると、アルフォンスが窓辺に立っているのを見つけた。月明かりに照らされた横顔は彫刻のように静かで、眼差しは遠い景色を見つめていた。声をかけようか迷ったが、足音に気づいた彼が振り返った。

「眠れないのか」

「……はい。少し考え事をしていて」

 視線を逸らすと、彼は一歩近づき、落ち着いた声で続けた。

「王都の使者の言葉がまだ胸に残っているのだな」

「……正直に言うと、そうです。美咲は聖女として称えられているのに、私は……何もできない。皆さんに優しくしていただいているけど、本当にそれでいいのかなって」

 口に出した瞬間、胸の奥に溜めていたものが堰を切ったようにあふれた。自分でも驚くほど弱々しい声になり、目の奥が熱くなる。

「……私は、ただここに置かれているだけで」

 アルフォンスはしばし黙っていたが、やがて低い声で言った。

「君は自分を過小評価しすぎている。役に立つとは何だ? 魔力の数値か? 剣を振る腕力か? 確かにそれらは王都では重宝される。だが、この土地を支えるものはそれだけではない」

 月明かりに照らされた彼の瞳は、真っ直ぐで揺るぎなかった。

「昨日、君が村の子供に縫ってやった人形を見た。あの子は誰よりも誇らしげに抱えていた。あれは君にしかできない役割だ」

「……でも、そんな小さなこと……」

「小さなことが人を救うのだ。嵐の夜を思い出せ。泣いていた子供を落ち着かせたのは、君の言葉だった。あのとき、私がどれだけ助けられたと思う?」

 アルフォンスの声音が少し強くなり、胸に響いた。

 私は驚きに目を見開いた。彼のような強い人でさえ、私の小さな行動を「助け」と感じていたというのか。

「君には君の役割がある。誰かの心を癒やし、寄り添う力は何よりも尊い。それを無能などと笑う者は、何もわかっていない」

 その言葉に、胸の奥で固く絡まっていた鎖が外れるような感覚があった。目からこぼれそうになる涙を必死にこらえながら、私は声を震わせた。

「……私の役割……」

「そうだ。君にしかできないことだ。私は領主として剣や策を振るうことはできる。だが、人々の心を和らげる力は持っていない。だからこそ、君の存在が必要なのだ」

 沈黙が落ちた。暖炉も蝋燭もない廊下で、ただ月光と互いの声だけが響いている。心臓の鼓動が速くなり、頬が熱くなる。

「アルフォンス様……ありがとうございます」

 やっとの思いで言葉を口にすると、彼はわずかに口元を緩めた。

「礼を言うのは私の方だ。君がここにいてくれることに、感謝している」

 その一言に胸が震え、堪えていた涙が頬を伝った。恥ずかしくて慌てて袖で拭うと、アルフォンスはそれを咎めず、ただ静かに見守ってくれた。

 長い沈黙の後、彼は背を向けて歩き出した。

「夜は冷える。部屋に戻りなさい」

「……はい」

 その背中を見送りながら、私は深く息を吐いた。胸の奥で小さな灯がともっている。私は無能ではない、ここに必要とされる存在なのだ――そう信じられるようになっていた。

 部屋に戻り、窓を開けると冷たい夜風が頬を撫でた。星々が瞬く空を見上げながら、私は胸の奥で強く呟く。

「私には、私の役割がある」

 その決意は夜空に吸い込まれ、確かな輝きとなって心に刻まれた。


第19話 領主様と仲が良いね

 翌日の市場は、朝から人で溢れていた。青空の下、色鮮やかな野菜が山積みにされ、果物の甘い匂いが漂っている。私はリディアと共に広場を歩きながら、買い物籠を両手で抱えていた。籠の中には、新鮮なトマトや香草、焼きたての黒パン。村の人々と挨拶を交わすうちに、胸の奥がじんわりと温まっていく。

「お嬢様、今日は元気そうですね」
「昨日は領主様と夜更けまでお話なさっていたとか?」

 突然、隣の屋台の女将がにやりと笑って声をかけてきた。私は思わず足を止め、顔が熱くなる。

「そ、そんなこと……! ただ、少し話をしただけです!」

 必死に否定する私を見て、周囲の人々はどっと笑い声を上げた。

「まあまあ、照れなくてもいいのよ。領主様と並んで歩く姿、とてもお似合いでしたから」
「そうそう。まるで夫婦みたいだったぞ!」

 農夫のおじさんまで軽口を叩き、私は顔から火が出そうになった。

 リディアは横でくすくす笑い、わざと声を潜めて耳元に囁く。

「お嬢様、本当に否定なさらなくても……皆、祝福しているんですよ」

「ち、違うのよ! そんな関係じゃないし……!」

 声が裏返り、ますます笑いが広がる。私は籠を抱えたまま俯き、必死で顔を隠した。

 そのとき、広場の奥から見慣れた姿が現れた。黒い上着を羽織ったアルフォンスだ。彼が現れると、人々は自然に道を開け、尊敬の眼差しを向けた。

「領主様!」

 誰かが呼ぶ声に、彼は軽く手を挙げて応えた。そして私の姿を見つけると、迷わず近づいてくる。

「買い物は順調か?」

「は、はい……いろいろいただいて……」

 どもりながら答えると、周囲からまたくすくすと笑い声が漏れる。アルフォンスは首を傾げ、不思議そうに視線を巡らせた。

「……何かあったのか?」

「い、いえ! なんでもありません!」

 慌てて否定するが、リディアが悪戯っぽく口を挟む。

「皆さん、お嬢様と領主様がお似合いだと仰っているんです」

 その言葉に、私はついに耐えきれず真っ赤になった。両手で顔を覆い、籠ががたんと揺れる。

 一瞬の沈黙の後、アルフォンスの低い声が落ちてきた。

「……そう思うか」

 驚いて顔を上げると、彼は淡々とした表情を浮かべていたが、瞳の奥にかすかな光が宿っていた。

「私にとっても彼女は大切な存在だ。皆がそう言うのなら、光栄だ」

 広場にどよめきが走り、村人たちが口々に「やっぱり!」「お似合いだ!」と盛り上がった。私はその場に立ち尽くし、心臓が跳ね上がるのを必死で抑えた。

「ア、アルフォンス様……!」

 かろうじて名前を呼ぶと、彼はわずかに口元を緩めて私を見つめた。

 帰り道、村人たちの視線や言葉が頭から離れなかった。足並みを揃えて歩くたびに、横にいる彼の存在が大きく感じられる。

「皆、勝手なことを言って……困りますよね」

 恐る恐る口を開くと、アルフォンスは前を見たまま答えた。

「困ることはない。むしろ、悪くない」

 その一言に、胸がどくんと鳴った。言葉が出ず、私は俯いてしまう。頬が熱くなり、視界が揺れる。

 夕暮れの陽射しが二人の影を並べて伸ばし、まるで手を繋いでいるかのように見えた。私はその影を見つめながら、鼓動の速さを隠すように深く息を吐いた。

「……私、どうしたらいいの」

 心の奥で呟いた言葉は誰にも届かず、春の風にさらわれて消えていった。



第20話 料理大会

 春祭りの余韻がまだ残る村で、新たな催しが行われることになった。それは毎年恒例の「料理大会」だった。収穫を祝うだけでなく、村人たちが腕前を競い合い、互いの工夫を称え合う大切な行事だという。広場には大きな釜やかまどが並べられ、色とりどりの野菜や肉、香草が山と積まれている。炭火の香ばしい匂いと笑い声があふれ、すでに熱気でいっぱいだった。

「お嬢様もぜひ出場してください!」

 リディアの言葉に、私は驚いて目を瞬かせた。

「えっ、私が? そんな……料理なんて、家で簡単なものを作る程度で……」

「だからこそです! いつも領主様に助けられてばかりではなく、お嬢様の力を皆に見せるいい機会ですわ」

 リディアに背中を押される形で、私は参加を決めてしまった。心臓がばくばくと高鳴り、指先が震える。村人たちの前で料理を作るなんて、日本でも経験がなかった。

 割り当てられた台の上に食材が並ぶ。ジャガイモ、玉ねぎ、人参、そして大きな鍋。私は深呼吸をしてから、包丁を手に取った。

「落ち着いて……いつも通りに」

 日本で一人暮らしをしていた頃、残業帰りに作ったカレーやシチューの記憶が蘇る。異世界にはルウもスパイスもないけれど、煮込み料理なら似たようなものを作れるかもしれない。

 鍋に油を熱し、玉ねぎを炒めると、甘い香りが立ち上った。野菜を加えて煮込み、香草で風味を整える。周囲の村人が興味津々に覗き込んできた。

「お嬢様、手際がいいな」
「見たことない作り方だ」

 褒められているのか、珍しがられているのか……それでも胸の奥が少しずつ温かくなる。

 やがて料理が完成した。鍋の中では野菜がとろりと煮え、スープには旨味が溶け込んでいる。私は震える手でおたまを持ち、まずはリディアに差し出した。

「どう……かな?」

 一口含んだ彼女の目がぱっと輝く。

「美味しい! 体が温まる優しい味ですわ!」

 その声に、周囲から歓声が上がった。次々と器に盛られ、村人たちが口にするたびに笑顔が広がっていく。子供たちも夢中でスープをすくい、頬を赤くしながら「もっと!」とせがんだ。

「お嬢様の料理、最高だ!」
「こんな味、初めてだよ!」

 その反応に胸がいっぱいになり、思わず目頭が熱くなる。

 そして最後に、アルフォンスが一歩前に出た。周囲の視線が一斉に集まる。彼は器を受け取り、ゆっくりとスープを口にした。沈黙が流れる。私の心臓は今にも破裂しそうだった。

「……」

 やがて彼は目を細め、静かに息を吐いた。

「旨い」

 たった一言。しかしその声には力があり、広場にいた全員が笑顔で頷いた。アルフォンスの口元に浮かんだ柔らかな笑みを見た瞬間、胸が熱くなって堪えきれず、涙がこぼれそうになった。

「アルフォンス様が……笑ってる……」

 王都で冷徹と呼ばれた彼が、自分の作った料理で笑顔を見せている。その事実が、信じられないほど嬉しかった。

 大会が終わると、村人たちが私を囲んで口々に褒めてくれた。

「お嬢様の料理で、また一年頑張れそうだ!」
「今度レシピを教えてくださいね!」

 頬を赤らめながら頭を下げる私の横で、アルフォンスが低く告げた。

「君はもう、この地に欠かせない存在だ」

 真っ直ぐな眼差しに胸が震え、私はただ深く頷くしかなかった。

 夕暮れ、片付けが終わった広場に並んで立つ。橙色の光が二人の影を長く伸ばし、重なり合う。私は心の奥で静かに思った。

「この人の隣で、もっと強くなりたい」

 その決意は、祭りの熱気とともに胸に深く刻まれていった。
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