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三章 ダンジョンの元凶
33話 大敗
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緑色の四角が奴を覆うと、今度は緑色のマントをつけた鎧を身につけていた。マントは風もないのに一人でに靡いている。
手に大きい斧を持っており、先程までの力量から判断して、あれの一撃をまともにくらったら間違いなく致命傷になるだろう。
「ほら! 吹き飛べぇ!」
奴は非常に楽しそうにしながら、手を田所さんの方に突き出す。すると突然とてつもない突風が発生する。
それは田所さんの方に一方的に向けられたもので、彼は吹き飛ばされまいとその場に踏ん張る。
「隙ありだ……!!」
急に奴が突風を消したかと思ったら、今度は奴自身の背後に風を発生させ、追い風の勢いを使って信じられない速度で一瞬で田所さんの元まで行く。
彼の元に辿り着いた瞬間に斧を振り上げ、それを目にも留まらぬスピードで振り下ろす。
咄嗟に銃で防御するが、それでもかなりの衝撃が襲い彼は小さく声を漏らす。
「トドメだ……!!」
奴は赤色の形態に戻り、デッキケースから一枚のカードを取り出し液晶部分の前にかざす。液晶部分が青白く光るとカードは消え、ベルトから機械音声が流れる。
[必殺 フレイムラッシュ]
奴の拳に火が点り、田所さんに向かって何度も拳を放つ。その高速の連撃は彼を宙に浮かし、それでもなお奴は殴り続ける。
[必殺 ナイトスラッシュ]
[必殺 ガトリングスプラッシュ]
彼への攻撃を止めるべく風斗さんと峰山さんが奴に必殺技を放つ。流石にこれには奴も攻撃を一旦止め応じるしかなく、迫る剣と弾丸に対応することとなる。
だがその二つの必殺技さえ奴の障害にはなりえなかった。
奴はまず片手で剣を完璧に受け止め、空いた方の拳で矢を全て叩き落とす。
「うぁぁぁぁ!!」
僕は少しは回復した体に鞭を打ち、奴に向かって駆け出す。勝てないことは目に見えてはいた。しかしそれでも立ち上がらない理由にはならなかった。僕はヒーローなのだから。
僕は決意と信念を抱き奴に飛び蹴りを放つが、奴に回し蹴りのカウンターをくらわされてしまい、再び地面を転がってしまう。
田所さんは先程の必殺技でボロボロ。立つのがやっとだ。峰山さんは最後の力を使い果たしてしまったのか壁にめり込んだまま動かなくなる。
そして今剣を奪われた風斗さんの顔面に拳が叩き込まれ彼も気を失ってしまった。
「まだ自分は……やれ……るぜ?」
田所さんは震える手で銃を構えるが、彼はもう明らかに戦っていい状態ではなかった。そんなことお構いなしに奴はまた拳を突き出そうとする。
このままじゃ田所さんが殺されしまう! 二人はもう動けない。なら、僕が立たないと、動かないと……!!
目の前の潰えそうな命を前に、僕はそれを助けるべく悲鳴を上げる体を動かす。どれだけ痛くても僕には関係なかった。ここで動けなければヒーロー失格だから。
ヒーローの義務を果たせないのなら、ヒーローになれないのなら、僕は生き方が分からないから。それ以外の存在意義を見出せないから。
だから僕は常人なら狂気とも思えてしまう精神力で痛みに耐え立ち上がる。
「どいつもこいつも足をプルプルさせやがって。子鹿かよ」
僕のことなんて気にも留めず奴は拳を田所さんに放とうとする。
「やめろっ!!」
僕はまるで自分の命の危機が迫ったかのように必死になり叫ぶ。その叫びは自分の想像していたよりも大きく、辺りを揺らし奴は手を止める。
「何だ……今の声?」
奴はどういうわけか僕の声に何か感じるところがあったらしく、興味を田所さんから僕へと移す。
「今の声、聞き覚えがあるような……懐かしいような……何だ? 生人とかいう名前だったよな? お前は一体何者なんだ?」
奴はこちらに質問を投げかけてくるが、僕は答えてやることはできなかった。そんな心理的余裕はなかった。
今ここで戦わないと、立ち向かわないとヒーローじゃなくなる。僕が僕じゃなくなってしまう。嫌だ。嫌だ。あの時に戻りたくない。僕はヒーローだ。ヒーローなんだ!!
「あぁぁぁぁ!!」
途端に景色が大きく歪み、視界の中に透明な何かが蠢く。それは人間の目に寄生する虫が蠢いているようで、非常に不快だったがそんなこと気にしてはいられない。
僕は痛みを忘れ奴にズカズカと踏み寄る。僕自身は軽いパニック状態になっていて気づいていなかったが、踏み込んだ地面が大きく割れ、僕の歩いた道はまるで巨大な恐竜でも通ったかのようになる。
「何か面白くなってきたな。お手並み拝見といこうか!!」
奴はこちらに向かって軽いジャブを繰り出してくる。僕はその攻撃を完全に見切り躱し、奴の眼前まで接近する。
まるで自分の体が自分のものではないみたいに軽く、信じられないほど素早く動けた。
そして強く握りしめた拳を奴に叩き込む。メリメリと鈍い音を立てて奴の腹にめり込み、奴は吹き飛び背後の壁に叩きつけられる。
「うぐっ……や、やるじゃねぇか」
ダメージこそ与えられたものの、その一撃は決定打にならなかった。
「何でこんな急に強くなったのかは分からないが、面白い! 楽しくなってきた!」
奴が先程殴られたことも忘れたように声を昂らせてこちらに迫って来ようとする。
しかしその空気を壊すかのようにピピピと電子音がこの空間に響き渡る。
「はぁ!? 今かよ!!」
その音の主は奴が持っていたランストだった。アラームのような音は奴がランストを弄ると消える。
「ちっ……別にこれで最後ってわけじゃねーし、また今度戦えばいいか」
奴は僕に背を見せ、門の方へと歩いて行く。
「待て……どこに……うっ!!」
僕は奴を追いかけようとするが、忘れていた痛みが全身を襲い、その場にへたり込んでしまう。更に変身すらも保てなくなり生身に戻ってしまう。
上手く声も出せず、僕は遠のく意識の中で唸ることしかできなかった。
「待てよ……テメェ一体何者なんだ!」
唯一少しは動ける田所さんが最後に情報を得ようと話しかける。
「オレ? まぁ名前くらいは言っといてやるか。オレはキュリア。次もまた遊んでくれよな。じゃあな!」
奴はそう言いこれ以上は何も答えず門を潜り消えていくのだった。
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