カードで戦うダンジョン配信者、社長令嬢と出会う。〜どんなダンジョンでもクリアする天才配信者の無双ストーリー〜

ニゲル

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八章 ボク

95話 受け継ぐヒーローの意思

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「それでこれはどういう状況だ?」

 わたくしは今DOの待機室で風斗さんに後頭部に包帯を巻いてもらっている。今は病院で適切な治療を受けている暇はない。一刻を争う事態だ。

「生人さんが過度なストレスに耐えきれずに発狂しながら窓から飛び降りてどこかに……」

 あれから目を覚ました指揮官や連絡を受けた智成さんが彼を捜索してくれているが、未だに彼が見つかったという報告はない。
 
「アタシもSNSとかで近所の情報を調べてみてるけど、生人くんの情報はまだないよ」

 椎葉さんもファンに情報提供を求めてみたり、近場に住んでいるアイドル活動の関係者などに聞いてみたりと奮闘しているがあまり効果はないらしい。

「……俺も探しにいく。お前らはここにいろ」
「え? 真太郎さんだけで? いつ美咲やキュリアが来るか分からないんだし……」
「俺だけで十分だ。お前らはここに居ろ。それと何かあったらすぐに俺に連絡してくれ」

 風斗さんは強引に話を切り上げここを出て生人さんの捜索へと向かう。

「わたくしは生人さんの力になれなかった……どうして……」

 傲慢な考えかもしれないが、生人さんにとってわたくしは大きな存在だと思っていた。それは逆も然りだからだ。
 だけどわたくしは彼に何もしてあげられなかった。彼にとって自分はちっぽけな存在だったのだろうか?

「き、きっと大丈夫だよ! みんなの力を合わせればきっと……」

 椎葉さんは元気づけようとしてくれるが、その声には希望への疑問が乗せられている。彼女もきっと精神的に辛いのだろう。

「すみません。じっとしていることはできません!」
「えっ!? ちょっと寧々ちゃん!?」

 わたくしは彼を助けるために、困っている者を見捨てず手を伸ばし助けるために風斗さんの後を追いかけ生人さんを探しに向かう。

「生人さん!! 生人さん!! わたくしなら大丈夫です!! だからお願いですから戻ってきてください!!」

 かれこれ一時間は探し続け日が沈みかけてくる。そんな時にわたくしのランストがアラームを鳴らす。
 指揮官からだ。わたくしはそれを素早く取り出し起動させる。

「生人さんが見つかったのですか!?」
「い、いやそれは分からないが……風斗が何故か変身しているんだ。すぐに向かってくれ!」

 送られてきた場所はここから近い人気の少ない橋の下だ。
 状況はイマイチ飲み込めなかったが、生人さんにまた会えるのならと変身して足を急がせる。


☆☆☆


 数分もすればその場所まで辿り着くが、着くなり怒声と水飛沫が飛び散る音が橋の下から聞こえてくる。

「風斗さん!? 一体何があっ……何をしてるんですかっ!?」

 わたくしが風斗さんと同じように怒声を上げるのも仕方ない。彼の持つ剣には血がこびりついており、彼の前には血まみれで骨も剥き出しになっている生人さんが横たわっている。
 本来なら気を失い、下手をすればショック死してしまう程の怪我だ。

「サタンを始末しようとしてるんだ。いつも通りな!」

 彼は生人さんの顔に剣を突き立て貫通させる。血ととろりとした肉が辺りに飛び散る。

「やめてください! 生人さんが死んでしま……」

 もう間に合わないかもしれない。それでも風斗さんの腕を掴み攻撃を止める。
 だがその心配は杞憂だったみたいだ。生人さんの傷は肉を焼くような音を立てながら段々と治っていく。
 
「さっきから何度も斬り刻んでるが、この化け物はいくらでも治るんだ! このままじゃ殺せない……」
「待ってください……何度もって、あなた一体どれだけ生人さんを!?」

 地面に付着する血の量は夥しく、常人なら十数回は死んでいてもおかしくない。

「田所先輩の仇を……そして妹の、愛花の仇を今ここで取るんだ……邪魔をするな!!」

 狂気と憎しみに呑まれてしまった彼に突き飛ばされ、わたくしの制止を振り払い再び生人さんに剣を向ける。
 生人さんは怯えを表すように過呼吸になっており、消え入りそうな声で悲鳴を上げる。今までの誰でも助けにいく頼りがいのある彼からは想像できない姿だ。
 
「それでも……わたくしは!!」

 立ち上がり風斗さんの背中に飛び蹴りをぶつけ剣先を生人さんから逸らす。

「どういうつもりだ!? そいつは世界を滅ぼそうとしている、人間が大量虐殺された原因を作った悪魔なんだぞ!?」
「それでも! わたくしは……田所さんの意思を尊重します。彼は生人さんに幸せになってほしいと願っていました……一人の人間として扱っていました!!」
「何を言いたい?」

 拳を握り締め、物怖じせずに言葉を紡いでいく。彼に出会う前の自分なら怖気付いてこの状況で面を向かって我を通すことはできなかっただろう。
 でも今の自分は違う。彼と出会えたから、助けてもらったから昔とは違う選択ができる。切り離し別れるのではなく、寄り添い手を取り合う道を。

「恐怖に呑まれて排他し続けた先にあるのは破滅だけです。わたくしは生人さんを、ヒーローである彼を助けます。
 そして彼が過去に何か罪を犯したというのなら! それ以上の人を助けさせて罪を償わせます!」

 生人さん……あなたのヒーローへの道はこんなところで終わるようなものではないはずです。ですから、わたくしが繋いでみせます。
 
「彼がもしまた間違いを犯しそうになったらその時は……わたくしが責任を持って打ち倒します。ですから……退いてください」

 腕に付いているマンティスの鎌を逆手剣のように構える。

「なら戦うしかないな……これは俺が決めた道だ。退いてもらおうか」

 今度は剣先をわたくしの方に向け、明確な殺意をぶつけてくる。先程まで仲間だった人間にそれらのものを向けられ、緊張と暗く重たい空気が辺りを駆け巡るのであった。
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