上 下
56 / 62
第6章 絶対零度

第55話 再び出会った兄妹

しおりを挟む
 サク、サク 何かを切る音が僕の耳の近くで聞こえた。

 「紫音!!」
 
 僕は意識を取り戻し、ベッドから飛び起きた。
 
 「痛っった……」

 飛び起きた瞬間、僕の全身は筋肉痛のような痛みに襲われ再びベッドに倒れた。

 「ビ、ビックリした…… 急に起きないでよ……」

 聞きなれた声がしたので倒れた状態で横を見ると、佳澄が横でリンゴを切っていた。

 「悪い…… それより、あの後みんなどうなった!!」

 「落ち着いて……」

 僕が佳澄に紫音がどうなったか質問しようとすると、ガラガラと保健室の扉が空いた。

 「案外早く目が覚めたな…… イチャイチャしてるとこ悪いが陽翔に話がある、それに今日は夜遅い、 帰って貰ってもいいか??」

 「違います」

 「それはない」

 僕と佳澄は海都に言われた瞬時、否定した。

 「仲良いじゃねぇか、まあいい とりあえず佳澄さん外に出ててくれ」

 「あ、はい わかりました」
 
 佳澄は機嫌悪そうな感じで保健室を出た。
 
(そんなに僕と仲良し扱いされたのいやだったの……)

 「からかって悪かった、まあとりあえず現状の説明をする」

 「お前も一応、悪気はあるのか……」

 海都は僕にタブレットを見せた。
 画面を見ると、黒曜石の壁が塞がっていた。

 「長くても1ヶ月かかると言われてた黒曜石の壁も修復が完了した、東部の生産工場をフル活用して貴様が紫音を止めたくらいの時間に材料を集め、組み立ても数時間いないに終わったそうだ」

 「え??」
 
 僕が横にあった時計を確認すると、夜の8時すぎ。
 紫音を止めた時が大体4時前だったから、4時間ほどしか経過していなかった。

(体感1日か2日経過してるもんだと思ってたけど、案外時間経ってないんだな……)

 

 「今回はこの間の体育祭で戦った高校や、一般人 そして如月佳澄の活躍でこの時間で作業が終わった感じだな」

 「佳澄が??」

 「ああ、図書館で街の事についてたまに見るみたいでな、外壁までの最短距離を提示してもらい作業の効率化や、作業者の夕飯なども作って貰ってな…… まったく頭があがらねぇ……」

 「そんなことまでして貰ったのになんでからかったんだよ……」

 僕が海都に言うと、海都がスライドを切り替えた。
 切り替わった画面には、軍から生徒会宛のメールがあった。

 「言葉下手で申し訳ないが、この情報は俺様達だけにしたかったからな……」

 メールには、今回の事件を経て城ヶ崎陽翔、城ヶ崎紫音、最上彩葉を3(サード)に認定し、軍の殺害対象とすると記載されていた。

 「な…… 僕と彩葉は昔からあれだけど、紫音も……」

 「ああ…… 紫音は1度しか目を覚ましていないから、どれほどあの能力を使えるのかわからんが、まさか俺様と同格とはな……」

 海都の話を聞いた感じ、紫音が無事そうで僕はほっとした。
 だが、それと同時に軍から襲われる可能性が増えたりするかもしれないといった不安も出来てしまった。

 「まあ、これはあっちが決めることだから僕達があれこれ言っても変わらないし、仕方ないか……」

 「そうだな、それにお前や紫音が3(サード)に認定されたことによって日常生活にも支障をきたすかもしれないから秘密にすべきと判断した」

 「気遣い感謝するよ、ありがとう」

 「以上だ、まあとりあえず今日は休んでおけ お前や紫音が復帰した時に、1度会議をする」

 「うん、早めに治す」
 
 海斗はそういって、荷物をまとめて保健室を出た。
 とりあえず紫音の様子を見ようと、ベッドから立ち上がった。

 「いてて…… 」

 やはり体の全身が痛み、鉛のように重く動くこともできない。

「やっぱり無理か…… でも……」

 僕はなんとか様子を見に行こうと体をゆっくりと起こして見るが、全身の痛みは動くのを阻むように襲いかかった。

 「だめだ…… 紫音の無事をこの目で見るんだ……」

 僕はベッドの上でもがきながら、体をどうにかして動かせないかと必死に試行錯誤を繰り返していると保健室のドアが開いた。

 「え??」

 ドアの方を見ると、そこには紫音が点滴を刺しながら立っていた。

 「また会えたね、お兄ちゃん」

 「うん、おかえり…… 紫音……」

 僕は涙が流れてきた。
 紫音はゆっくり歩いて、僕の寝転がっているベッドの横の椅子に腰掛けた。

 「頼りないお兄ちゃんだけど、紫音が僕で良かったって思える、そんな兄になれるように頑張るね!! 」

 「今でも誇れるし、頼りなくなんてないよ!!」

 「そう言って貰えて嬉しいよ、いてて……」

 僕は腕をあげようとすると再び痛みに襲われた。

 「大丈夫??」

 「ああ…… このくらい大丈夫……」

紫音と会話をしていると、紫音の手につけている点滴がピピピと音が鳴った。

 「そろそろ中身の液体が無くなっちゃうから戻るね、また明日、お兄ちゃんに会いに行くね~!!」

 「わかった、夜も遅い おやすみ!!」

 「うん!! おやすみ!!」

 紫音は椅子から立ち上がり、ゆっくりと1歩ずつ歩いて保健室を出た。

 「ふう…… にしても無事で良かった」

 僕はそう呟いた。
 紫音の顔を見て安心したのか、急に眠気が僕を襲った。

 (早く治るといいな…… 僕も、紫音も……)

凍てつく氷のように冷たかった枕や布団は、僕の体温で暖かくなっていて次第に眠気が強くなって眠りについた。
 
しおりを挟む

処理中です...