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閑話3
悪魔の来訪
クローディアス・マルセル。マルセル王朝の正当なる後継者。社交界では『花園の皇太子』などと呼ばれているらしい。勿論本人は真っ青になって否定するだろうけれど。
ゲームで見たのとは印象もなにもかも全然違うんだよなあ、と、俺は広げてあった決算書を纏めて積み上げた。先ほど半泣きでクローディアスが出ていった扉を見る。
『臆病者だからね』
彼はペン先なんて彼らしい武器を俺の喉元へ突き付けながら、そう言った。正直、ペンが剣でも俺は殺せない。
何せ王宮の噴水からこの世界に降り立った際、捕まってガッツリ拷問にかけられたけれど、傷痕どころかかすり傷ひとつつかなかった。
それで神殿に預けられたってわけだ。この間クローディアスが刺されそうになった毒針も試してみたけれど、一瞬傷になったけれどやはりすぐにふさがった。勿論、毒も全く効かなかったし。
多分この国の寿命であるところの70代までは、ほぼ俺は無敵ってわけだ。多分首を落とされても、木っ端微塵にされても生きている……ターミネーターも真っ青だな。
それでも、ペンを突き付けたクローディアスの心は伝わった。そうだよなあ、俺にとってここはゲームの世界なわけだけど、クローディアスにとっては故郷であり友達も親もここにいるわけなんだよなあ。
16やそこらで友達が戦地に送られて、のほほんと戦略ゲームだからって言われたら、そりゃキレるよな……
「エリーゼは何を言ったんですか?」
言っとくが俺の言うことぐらいであの意外とプライドの高いクローディアスが泣くわけはない。大体こういうときは、愛しのエリーゼちゃんがかかわっているのだ。
彼女はいかにもファンタジー物に出てくるお姫様っていう風貌の、小柄で可憐なのにバーンと出るとこ出てキュッと引っ込むとこ引っ込んだ美少女で、宰相の娘というだけあって仕事のできる才女だが、お約束どおり残念美少女だ。もっとはっきりいうと腐女子ってやつ。
だけどクローディアスは、彼女にカップリングされそうになるたびギャーギャーと騒いで否定する。わかる、わかるよ、好きな子に『お前みたいなのはホモにでもなってろ』って言われたら俺も泣くわ。
「あの、わたし……」
エリーゼがなにか言いかけたとき、突然バーンと扉が開かれ、甲冑をきたいかつい近衛兵がふたり入ってきた。
生徒会室にいた俺たちは、みな驚いて扉の方を見る。
「皇太子殿下がおみえだ。マルセル子爵は御在室だろうな」
近衛兵に問われて、フィオナ書記長が
「皇太子殿下の私兵とはいえ訪問の前触れもないとは無礼ではありませんか。なにか、我々に罪咎がございますか?」
敢然と抗議した。他の生徒会役員たちもざわざわと騒ぎながら彼らを睨んだ。
そこへ靴音たかくやってきたのは皇太子本人だ。
「やあ、宰相令嬢に聖騎士どのじゃないか、怖い顔をしてどうかしたか?」
目が全く笑ってないんだよなこの男。ヴィルヘルム皇太子。ゲームでもなかなか戦略がややこしいうえに強大な軍備をもってたから、倒せなくて手こずった相手だ。
たしか、じいさんが戦国時代のサムライとか、そんな感じだってきいたような。だからか、見た目欧米人なのに黒い髪黒い目で、どこかアジアンな雰囲気を醸している。この人見てるとハリウッド映画に出てるイケメン俳優を思い出すんだよなあ。
「クローディアス会長はいましがた出てゆかれましたよ、ご友人が戦地に赴かれたとかで、随分憔悴しておられた様子でした……学籍にある十代の騎士がなぜ戦地に?」
俺はちょっと意地悪い質問をしたくなって皇太子に微笑み返した。
おっと、と皇太子は片手をあげ、
「これは不死の聖騎士殿におかれてはどうやらお怒りのご様子だ。これ以上ご不興を買う前に退出させていただくよ」
そう言って皇太子は踵をかえす。俺はそれをおいかけて廊下へでた。
「ヴィルヘルム皇太子、あなたが警戒すべきは16の子供じゃない、首を落としても死なない神殿の聖騎士でしょう。なぜクローディアス・マルセルに執心なさるのですか?」
無礼者、と近衛兵は俺に剣をむけたが皇太子は構わん、とそれを下ろさせ、
「戦場では弱いものからたたけ、と祖父から教わったんだよ聖騎士殿」
にい、と皇太子は唇をひきあげた。
「そのサブロウ王の故国である私の故郷では、『窮鼠猫を噛む』といいます、弱いものであるからこそ、あまりいたぶるような真似はしないほうがいいですよ」
俺の言葉に、ふむ、と皇太子は首をかしげ、
「成る程な、では一撃で仕留めることにするよ」
と、それこそ猫のように目を細めて嗤ったのだった。
ううん、かえって火に油を注いでしまった、かな?
ゲームで見たのとは印象もなにもかも全然違うんだよなあ、と、俺は広げてあった決算書を纏めて積み上げた。先ほど半泣きでクローディアスが出ていった扉を見る。
『臆病者だからね』
彼はペン先なんて彼らしい武器を俺の喉元へ突き付けながら、そう言った。正直、ペンが剣でも俺は殺せない。
何せ王宮の噴水からこの世界に降り立った際、捕まってガッツリ拷問にかけられたけれど、傷痕どころかかすり傷ひとつつかなかった。
それで神殿に預けられたってわけだ。この間クローディアスが刺されそうになった毒針も試してみたけれど、一瞬傷になったけれどやはりすぐにふさがった。勿論、毒も全く効かなかったし。
多分この国の寿命であるところの70代までは、ほぼ俺は無敵ってわけだ。多分首を落とされても、木っ端微塵にされても生きている……ターミネーターも真っ青だな。
それでも、ペンを突き付けたクローディアスの心は伝わった。そうだよなあ、俺にとってここはゲームの世界なわけだけど、クローディアスにとっては故郷であり友達も親もここにいるわけなんだよなあ。
16やそこらで友達が戦地に送られて、のほほんと戦略ゲームだからって言われたら、そりゃキレるよな……
「エリーゼは何を言ったんですか?」
言っとくが俺の言うことぐらいであの意外とプライドの高いクローディアスが泣くわけはない。大体こういうときは、愛しのエリーゼちゃんがかかわっているのだ。
彼女はいかにもファンタジー物に出てくるお姫様っていう風貌の、小柄で可憐なのにバーンと出るとこ出てキュッと引っ込むとこ引っ込んだ美少女で、宰相の娘というだけあって仕事のできる才女だが、お約束どおり残念美少女だ。もっとはっきりいうと腐女子ってやつ。
だけどクローディアスは、彼女にカップリングされそうになるたびギャーギャーと騒いで否定する。わかる、わかるよ、好きな子に『お前みたいなのはホモにでもなってろ』って言われたら俺も泣くわ。
「あの、わたし……」
エリーゼがなにか言いかけたとき、突然バーンと扉が開かれ、甲冑をきたいかつい近衛兵がふたり入ってきた。
生徒会室にいた俺たちは、みな驚いて扉の方を見る。
「皇太子殿下がおみえだ。マルセル子爵は御在室だろうな」
近衛兵に問われて、フィオナ書記長が
「皇太子殿下の私兵とはいえ訪問の前触れもないとは無礼ではありませんか。なにか、我々に罪咎がございますか?」
敢然と抗議した。他の生徒会役員たちもざわざわと騒ぎながら彼らを睨んだ。
そこへ靴音たかくやってきたのは皇太子本人だ。
「やあ、宰相令嬢に聖騎士どのじゃないか、怖い顔をしてどうかしたか?」
目が全く笑ってないんだよなこの男。ヴィルヘルム皇太子。ゲームでもなかなか戦略がややこしいうえに強大な軍備をもってたから、倒せなくて手こずった相手だ。
たしか、じいさんが戦国時代のサムライとか、そんな感じだってきいたような。だからか、見た目欧米人なのに黒い髪黒い目で、どこかアジアンな雰囲気を醸している。この人見てるとハリウッド映画に出てるイケメン俳優を思い出すんだよなあ。
「クローディアス会長はいましがた出てゆかれましたよ、ご友人が戦地に赴かれたとかで、随分憔悴しておられた様子でした……学籍にある十代の騎士がなぜ戦地に?」
俺はちょっと意地悪い質問をしたくなって皇太子に微笑み返した。
おっと、と皇太子は片手をあげ、
「これは不死の聖騎士殿におかれてはどうやらお怒りのご様子だ。これ以上ご不興を買う前に退出させていただくよ」
そう言って皇太子は踵をかえす。俺はそれをおいかけて廊下へでた。
「ヴィルヘルム皇太子、あなたが警戒すべきは16の子供じゃない、首を落としても死なない神殿の聖騎士でしょう。なぜクローディアス・マルセルに執心なさるのですか?」
無礼者、と近衛兵は俺に剣をむけたが皇太子は構わん、とそれを下ろさせ、
「戦場では弱いものからたたけ、と祖父から教わったんだよ聖騎士殿」
にい、と皇太子は唇をひきあげた。
「そのサブロウ王の故国である私の故郷では、『窮鼠猫を噛む』といいます、弱いものであるからこそ、あまりいたぶるような真似はしないほうがいいですよ」
俺の言葉に、ふむ、と皇太子は首をかしげ、
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と、それこそ猫のように目を細めて嗤ったのだった。
ううん、かえって火に油を注いでしまった、かな?
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