公爵家令嬢と婚約者の憂鬱なる往復書簡

秋

13通目 パルマローザより

親愛なるグリード様へ

誤解が誤解を生んでいるみたいです。わたくし、泣いてなどおりません。

はっきりさせておかなければなりませんが、まず、母は亡くなっていません。元気いっぱいです。むしろ先ほどいただいた手紙を見せたところ、
「あなたがちゃんと説明しないから！」
と、怒り狂って父を追いかけ回したほどです。

歳がいってからで恥ずかしいと言っていた父ですから、どのように話したのかおよそ想像に難くないのですが、母の具合が悪かったのはひとえに私に弟が生まれたからでございます。

ご心配には及びません。

母のお産につきあって、領地であるメルケレンに帰っておりましたが、いつの間にか４週も経っていたのですね。赤ちゃんに夢中になっているあいだに季節がかわってしまいました。

弟、ルーベルはとても可愛いです。生まれたばかりのときは寝てばかりであまり表情もなく、乳母に抱かれてばかりでしたが、最近はわたくしや母が話しかけると笑うようになりました。何度か抱かせていただきましたが、あんなに可愛い赤ちゃんは世界のどこへ行っても見つからないのじゃないかしら？


さて、おにいさま…ラウレス皇太子殿下についてですが、こうなってしまっては秘密をうちあけなければなりませんね。

おにいさまには現在、わたくしではない思う方がいらっしゃいます。先日おみえになったのは、そのことで父と話をしたからです。

けして口外せぬよう父に言われておりましたが、ハッキリ申します。おにいさまは私の母に20年あまり横恋慕しておいでです。

私と遊ぶとかこつけて、母に珍しい花や高価な宝石を持ってきたことも一度二度ではありません。正直、母は迷惑しております。あのかたが落ち込んだのは、ルーベルが生まれたことで両親…エリアス公爵夫妻が上手くいっていると知り、がっかりしたからでまちがいありません。

自業自得もよいところです。できればそろそろ諦めていただけたら幸いです。

まあ、皇太子という絶対的な権力をお持ちなのに、父に圧力をかけたり嫌がらせをしたりしない、公正明大なおにいさまのことは嫌いではありません。
義兄として、皇太子様としては、尊敬しておりますよ。


さて、誤解はとけましたでしょうか？証拠が必要であれば、いますぐおにいさまに確認してください。

私はグリード様に嫌われているというのはわかっておりました。そうでなくては、こうも婚約破棄したいと言わないですものね。

ですが、おにいさまに私をおしつけようだなんて。
私、少し怒っております。


                                  パルマローザ