【完結】何故ですか? 彼にだけ『溺愛』スキルが効きません!

ひじり

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【76】効かない その二

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「その表情、いいね! 驚いてくれたようで何よりだよ」

 気付くと、ロックは汗を掻いていた。
 ここに来るまでの間、それこそアレクやその母、そして元冒険仲間の三兄弟と対峙したときでさえも、余裕を持っていたというのに……。

 わたしの場合、『心眼』を持たず、魔力の差を理解できるほど強くないのが幸いしたかもしれない。

「これはね、僕が死人に与えた魔力を回収しているのさ」
「魔力の回収……!?」

 だから、アレクを殺したのか。
 ギルデオルの台詞から察するに、死人を操る力というのは、ギルデオルが自身の魔力を分け与えることで可能とするものらしい。

 そしてその魔力を全て回収した結果、ギルデオルは本来の力を取り戻した。

 過去にロックが対峙したギルデオルと比べても、その差は明らかなのだろう。
 誰よりも強い英雄のロックが、その場から動けなくなっているのだから。

「改めまして、これが本当の僕、アヴィ・レ・ギルデオル伯爵さ」

 自己紹介をしながら、ギルデオルは首を垂れる。
 魔人というのは人間と似た仕草を取るのが好きなのか、それとも元々そういう生き物なのか、わたしには分からない。

 でも、一つだけ言えることがある。
 スキルを持っているのは、ロックだけではないということだ。

「ロック」
「っ、……メル」

 どれほどの感情が流れ込もうとも、ロックは『心眼』を閉じようとはしない。
 それが唯一の手段だと知っているから。

 でも、何も一人で無理をする必要はない。
 ロックの隣にはわたしがいる。それがロックの心を解すと信じている。

「わたしに任せて」

 だからわたしは、ロックよりも一歩前に出る。
 そして、ギルデオルの目を見た。

「ああそうそう、さっきから気になってたんだけどさ、きみはいったい誰なのかな?」
「わたしの名前はメル・メロール。モルドーラン王国の元英雄、ロック・クオールの一番弟子よ」

 魔人を相手に、わたしは名乗りを上げる。

「なるほど? 彼の弟子とはなかなか興味深い話だね」

 こんなときだからこそ、わたしのスキルが役に立つ。『溺愛』を利用することで、ロックを手助けすることができる。
 それが、わたしは嬉しかった。

「もう、人間と敵対するのを止めなさい」

 言葉に力を乗せて、わたしは言い放つ。
 これがわたしの戦い方だ。すると、

「あぁ、実に不思議な気分だ……。何故かな、僕はきみを可愛がりたくてたまらない……だから、きみの言うことはなんでも聞いてあげたくなるよ」

 くつくつと笑いながらも、ギルデオルはその場に膝をつく。
 そして頭を下げると、手の甲をメルへと差し出した。それは服従の証なのだろう。

「そう言ってもらえると、わたしも嬉しいわ」

 これこそが、わたしの持つスキル『溺愛』の力だ。
 たとえ相手が魔物であろうとも、そしてギルデオルのような魔人が相手だとしても、この世に生を受けた者であれば、一切関係ない。

 何人たりとも、『溺愛』の効果を逃れることはできない。
 強制的にわたしを溺愛したくなる。

 初めてかもしれない。
 戦闘の中でロックの役に立つことができたのは……。

 わたしは、更に一歩前へと出る。
 ギルデオルの手を取るために。

 そのとき、横目にロックが動いたような気がした。
 手を伸ばし、わたしを止めようとしているような……。

 でも、間に合わなかった。

「あっ」

 瞬き一つの時間差で、わたしの体は二つに引き裂かれていた。
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