王妃教育の謎~婚約破棄?大歓迎です!

柚屋志宇

文字の大きさ
1 / 11

01話 王妃教育の地獄

「モンフォール公爵令嬢フェリシア、貴様との婚約を破棄する!」

 王太子であるルシアン王子殿下は、きりっとした表情で高らかに宣言しました。

「王妃教育を投げ出すような女は、王太子妃にふさわしくない!」

「はい、殿下。おっしゃる通りでございます。婚約破棄、承りました」

 私は優雅に微笑んでそう答えながら、心の中で快哉を叫んでいました。

(やりましたわああぁぁぁ! 婚約破棄ですわあぁぁ!)

 そう、私、婚約破棄したかったのです。
 王妃教育があまりにも酷かったので……。


 ◆


 ――王妃教育。

 それは、とても過酷で長い苦行でした。

 ああ、この言い方では、王妃教育の風評被害ですわね。
 王妃教育全般について貶める意図はございません。

 この国の、現王妃による王妃教育が、とても酷いものだったのです。


 ◆


 私、モンフォール公爵の娘フェリシアは、十三歳のときにこの国の王太子であるルシアン王子殿下の婚約者に決まりました。
 王太子妃となることが決まった私は、王妃教育を受けることになりました。

(なーんだ、こんなの簡単ですわ)

 王妃教育は最初は簡単でした。

 私は王家が用意した一流の講師たちに、宮廷作法や歴史や公用語などを習いました。
 それらは、すでに家で家庭教師に習っていたので、ほとんど復習のようなものでした。

「フェリシア様は大変ご優秀ですな」
「王太子妃にふさわしい」
「さすがは公爵家のご令嬢です」

 講師たちは口々に、私を褒め称えました。
 私は講師たち全員にお墨付きをもらい、王妃教育の基礎課程を終えました。

 ええ、基礎課程、だったらしいです。
 ここからが地獄でした。

「基礎が終わったら、次は、実践的なことを学んでもらいます」

 基礎課程が終わった後、王妃様の直々の「実践的な」王妃教育が始まりました。

 そして三年が経過した今でも、私は王妃様から直々に王妃教育を受けています。


 ◆


「フェリシア、今日中にこの課題を終わらせなさい」

 その日の王妃教育でも、王妃様は厳しい表情で私に言いました。

「はい」

 私は今日の課題に取り掛かりました。

 昨年、私は王立貴族学院に入学しました。
 学生となってからは、王宮に頻繁に通うことができなくなりました。
 一週間のうち五日間は学院に通わなければならないからです。

 そのため王妃教育は、週に一度となりました。
 私は週のうち五日間は学院に通い、一日は王妃教育のために王宮に通い、残りの一日を休日とする生活をこの一年間続けていました。

(今日はそれほど難しくないわね。今日中に書き上げられそう)

 学院に入学して週に一度しか王宮に行けなくなると、課題を「今日中に」と言われることが増えました。
 もしその日のうちに課題が終わらなければ、翌日も王宮に来なければなりません。
 そうなると一週間のうち一日だけの休日も王妃教育でつぶれることになります。
 ですから私は、当日中に課題を終わらせるために頑張ります。

(ガイヤール辺境伯領は、野生種だったブルーベリーを改良したのよね)

 ガイヤール辺境伯をもてなす晩餐会を想定して、その席で王妃としてガイヤール辺境伯にどんな言葉を掛ければ良いか。
 それを考えて、文章に書くのが今日の課題です。

 私は文章を綴り始めました。

(ガイヤール辺境伯には軍事についてねぎらいの言葉を掛けるのは当然として。ガイヤール産のブルーベリーに絡めて、ガイヤール辺境伯領の農業技術も称えましょう)

 今日の課題は晩餐会を想定した場合の王妃の言葉ですが。
 内政や外交などの政治問題も出題されます。

 先月は、水害のあったラルベル公爵領を復興するにはどうすれば良いかという問題が出題され、私は当日に回答を作成できず、休日をつぶされることになりました。

 私はその問いに、堤防の建設を国費で援助して推進するという回答を提出しました。
 堤防の建設という事業を起こせば、職を失った人々を作業員として雇用することができて現地の貧困対策になりますし、堤防は未来の水害を防いでくれます。

「お昼になったら様子を見にくるわ」

 私が今日の課題に取り組みはじめると、王妃様はそう言いさっさと退室してしまいました。
 いつものことです。

 王妃様の直々の指導による王妃教育といっても。
 王妃様は私に課題を言い渡し、私が仕上げた課題を受け取り、「まあ良いでしょう」と素っ気ない感想を言うだけです。

 この国の現王妃による王妃教育とは。
 何の成果も実感できず、いつ終わるとも知れないもの。
 現在地も目的地もわからないままひたすら暗闇を歩いているような、あるいはザルで水をすくっているような地獄でした。

 ですがある日、ついに……。
 私は、王妃教育の謎の実態をつかんだのです!

 それは王立貴族学院の、試験の結果発表の日のことでした。

あなたにおすすめの小説

2年早めた幸せ

みやび
恋愛
「お前との婚約を破棄する為にわざわざ来てやったぞ」 麗かな春の陽気。学園の庭園が綺麗でご機嫌なお嬢様に、我が国の殿下であるバスチアン・アルジョン様がそう言い放った。 理由は殿下の恋人であるリリアーヌ様をいじめたとかなんとか…… お嬢様は全くの無実ですのでほっといて帰りましょう、、、ってお嬢様 「なら私の罰は、国外追放ですの?」 笑顔でなんてこと言ってるんですか‼︎ ーーー よくあるざま〜系に寄せたつもりのお話です。 5話で完結です。

「仲睦まじい夫婦」であるはずのわたしの夫は、わたしの葬儀で本性をあらわした

ぽんた
恋愛
サヤ・ラドフォード侯爵夫人が死んだ。その葬儀で、マッケイン王国でも「仲睦まじい夫婦」であるはずの彼女の夫が、妻を冒涜した。その聞くに堪えない本音。そんな夫の横には、夫が従妹だというレディが寄り添っている。サヤ・ラドフォードの棺の前で、夫とその従妹はサヤを断罪する。サヤは、ほんとうに彼らがいうような悪女だったのか?  ※ハッピーエンド確約。ざまぁあり。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。

父が転勤中に突如現れた継母子に婚約者も家も王家!?も乗っ取られそうになったので、屋敷ごとさよならすることにしました。どうぞご勝手に。

青の雀
恋愛
何でも欲しがり屋の自称病弱な義妹は、公爵家当主の座も王子様の婚約者も狙う。と似たような話になる予定。ちょっと、違うけど、発想は同じ。 公爵令嬢のジュリアスティは、幼い時から精霊の申し子で、聖女様ではないか?と噂があった令嬢。 父が長期出張中に、なぜか新しい後妻と連れ子の娘が転がり込んできたのだ。 そして、継母と義姉妹はやりたい放題をして、王子様からも婚約破棄されてしまいます。 3人がお出かけした隙に、屋根裏部屋に閉じ込められたジュリアスティは、精霊の手を借り、使用人と屋敷ごと家出を試みます。 長期出張中の父の赴任先に、無事着くと聖女覚醒して、他国の王子様と幸せになるという話ができれば、イイなぁと思って書き始めます。

とある断罪劇の一夜

雪菊
恋愛
公爵令嬢エカテリーナは卒業パーティーで婚約者の第二王子から婚約破棄宣言された。 しかしこれは予定通り。 学園入学時に前世の記憶を取り戻した彼女はこの世界がゲームの世界であり自分が悪役令嬢であることに気づいたのだ。 だから対策もばっちり。準備万端で断罪を迎え撃つ。 現実のものとは一切関係のない架空のお話です。 初投稿作品です。短編予定です。 誤字脱字矛盾などありましたらこっそり教えてください。

「価値がない」と言われた私、隣国では国宝扱いです

ゆっこ
恋愛
「――リディア・フェンリル。お前との婚約は、今日をもって破棄する」  高らかに響いた声は、私の心を一瞬で凍らせた。  王城の大広間。煌びやかなシャンデリアの下で、私は静かに頭を垂れていた。  婚約者である王太子エドモンド殿下が、冷たい眼差しで私を見下ろしている。 「……理由を、お聞かせいただけますか」 「理由など、簡単なことだ。お前には“何の価値もない”からだ」

あなたでなくても

月樹《つき》
恋愛
ストラルド侯爵家の三男フェラルドとアリストラ公爵家の跡取り娘ローズマリーの婚約は王命によるものだ。 王命に逆らう事は許されない。例え他に真実の愛を育む人がいたとしても…。

(完結)モブ令嬢の婚約破棄

あかる
恋愛
ヒロイン様によると、私はモブらしいです。…モブって何でしょう? 攻略対象は全てヒロイン様のものらしいです?そんな酷い設定、どんなロマンス小説にもありませんわ。 お兄様のように思っていた婚約者様はもう要りません。私は別の方と幸せを掴みます! 緩い設定なので、貴族の常識とか拘らず、さらっと読んで頂きたいです。 完結してます。適当に投稿していきます。

いちゃつきを見せつけて楽しいですか?

四季
恋愛
それなりに大きな力を持つ王国に第一王女として生まれた私ーーリルリナ・グランシェには婚約者がいた。 だが、婚約者に寄ってくる女性がいて……。