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05話 覚醒、反乱、高みの見物
「フェリシア嬢、昨日は申し訳ありませんでした」
翌日、学院で、ユベール様がわざわざ私に謝罪にいらっしゃいました。
「ご丁寧に、ありがとうございます。私は気にしておりませんので、どうかお気遣いなく」
「いや、噂のこともあります。誤解のないよう、きちんとしておきたいのです」
噂?
何でしょう?
「フェリシア嬢の良くない噂を流しているのは、セリーヌなのです。私は何度も止めたのですが、いくら言っても聞かなくて……。申し訳ありません」
「私にどんな噂があるんですの?」
「ご存知ないのですか?」
「はい。まったく」
噂は知りませんが。
そういえば私って、皆に学院では遠巻きにされているのですわ。
悪い噂があったせいなのでしょうか?
おしゃべりで時間をつぶしていられるような暇人ではありませんでしたので。
静かな環境に、これ幸いと、空き時間は全て自習に当てておりました。
「……私の口から言えるようなことではありません……」
「あら、残念」
後で知ったことですが。
私の噂とは、ルシアン殿下が私以外のご令嬢にご執心だという噂にちなんだものでした。
私のあまりの能力不足にルシアン殿下が呆れ果てているといった類のものです。
「それで……。昨日の件もあり、彼女とは婚約を解消することになりました」
「まあ……それは……。何と申し上げてよいやら……」
「セリーヌ嬢がまた何か、フェリシア嬢にご迷惑をおかけするかもしれませんが……。私はもう彼女とは無関係です。我がヴェルニエ公爵家は、モンフォール公爵家に対して他意はありません。どうぞ誤解なきようお願いいたします」
「そういうことですか。ええ、解りました」
◆
さて、王妃教育の日になりました。
「フリアデル王国の特使のおもてなしの席で、王妃として特使にどんな言葉を掛けるべきかを書きなさい」
いつものように王妃様が課題を出されました。
「解りませぇーん」
私がそう言うと、王妃様は怖いお顔をなさり、私をキッと睨みました。
「解らなければ考えなさい。今日中にできないなら明日も来てもらいますからね」
「解らないのでぇー、王妃様ぁー、教えてくださぁーい!」
「自分で考えなさい!」
「解らないのでぇー、お手本をみせてくださぁーい」
私は投げやりな態度で、王妃様に言いました。
「王妃教育っておっしゃいますけどぉ、王妃様が私に何か教えてくださったことって一度もありませんよねぇ? 私ぃ、フリアデル王国のことは解らないのでぇ、ぜひぜひ王妃様に教えていただきたいですぅ!」
「自分で考えなさい……!」
「ええー、教えてくださいませぇー、王妃様ぁー。王妃教育でしょぉ? 王妃様はぜんぶお出来になるんですよねぇ? 教えてくださいませぇー!」
「……っ!」
王妃様は怒りの形相のまま、黙りこくってしまい、わなわなと震えました。
ああ、やっぱりね。
王妃様には、解らないんですよね。
私の回答をアテにしていたんですね。
「あ、そういえばぁ、王妃様に教えていただいたこと、一つだけありましたぁ!」
私はニヤニヤ笑いをしながら言いました。
「王太子妃になるなら、ルシアン殿下より良い成績をとっていけない、でしたよねぇ? でもぉ、ルシアン殿下の成績が悪すぎてぇ、気を抜くとすぐ良い成績取っちゃいそうでぇ、難しすぎますぅ! 私ぃ、良い成績取っちゃうのでぇ、王太子妃になれませぇん!」
私はずっとその調子で、課題をやらず、イヤイヤ口調で駄々をこねました。
王妃様が「もう知りません!」とキレて出て行ったので、これ幸いと、私も帰宅しました。
翌日はもちろんお休みです。
もう王妃教育には行かないと決めました。
◆
さて、その後。
「お腹が痛ーい、これじゃ王妃教育に行けなーい!」
私は翌週から、仮病を使って王妃教育をさぼることにしました。
「フェリシア、いい加減にしなさい。一体いつまで王妃教育をさぼるつもりだ。王妃様がお怒りだぞ!」
さぼりが三回目になると、父が私を叱りつけに来ました。
「私、具合が悪いのでぇー、行けませーん」
私はベッドの上で、頭から毛布をかぶって抵抗しました。
「仮病だろう!」
「お腹が痛いですぅー」
「そんなことではルシアン王子殿下と結婚できなくなるぞ!」
「それが何か?」
「王妃になれなくなるぞ!」
「別にぃ、私はかまいませぇん」
「王妃様とルシアン殿下のご不興を買ったら、この先、我が家がどうなると思っているのだ! ルシアン殿下は王太子、次代の国王陛下なのだぞ!」
「それはどぉでしょーかぁ?」
私はかぶっていた毛布から頭を出すと、真顔で父に言いました。
「ルシアン殿下はたしかに王太子ですが、王妃様に似て、頭がとても残念なお方です。あれで本当に即位できるんですか? 貴族たちは反発するのでは?」
「それは昔の話だ。ここ二年ほどでルシアン殿下は大きく成長なさった。ルシアン殿下の政治に期待している貴族は多い」
「ラルベル公爵領の堤防とか? 織物産業の優遇政策とか? 市場の免税とか?」
「そうだ。お前も知っているのか。すべてルシアン殿下の発案だ」
「私の案です」
「はあ?」
「それらはすべて、私が、王妃様に提出した課題の回答です」
「何をふざけたことを……」
「それをこれから証明します。私がいなくなって、王妃様とルシアン殿下がどこまでやれるか……」
私は再び毛布を頭からかぶりました。
「私はベッドの上で、高みの見物をいたしますわぁ!」
翌日、学院で、ユベール様がわざわざ私に謝罪にいらっしゃいました。
「ご丁寧に、ありがとうございます。私は気にしておりませんので、どうかお気遣いなく」
「いや、噂のこともあります。誤解のないよう、きちんとしておきたいのです」
噂?
何でしょう?
「フェリシア嬢の良くない噂を流しているのは、セリーヌなのです。私は何度も止めたのですが、いくら言っても聞かなくて……。申し訳ありません」
「私にどんな噂があるんですの?」
「ご存知ないのですか?」
「はい。まったく」
噂は知りませんが。
そういえば私って、皆に学院では遠巻きにされているのですわ。
悪い噂があったせいなのでしょうか?
おしゃべりで時間をつぶしていられるような暇人ではありませんでしたので。
静かな環境に、これ幸いと、空き時間は全て自習に当てておりました。
「……私の口から言えるようなことではありません……」
「あら、残念」
後で知ったことですが。
私の噂とは、ルシアン殿下が私以外のご令嬢にご執心だという噂にちなんだものでした。
私のあまりの能力不足にルシアン殿下が呆れ果てているといった類のものです。
「それで……。昨日の件もあり、彼女とは婚約を解消することになりました」
「まあ……それは……。何と申し上げてよいやら……」
「セリーヌ嬢がまた何か、フェリシア嬢にご迷惑をおかけするかもしれませんが……。私はもう彼女とは無関係です。我がヴェルニエ公爵家は、モンフォール公爵家に対して他意はありません。どうぞ誤解なきようお願いいたします」
「そういうことですか。ええ、解りました」
◆
さて、王妃教育の日になりました。
「フリアデル王国の特使のおもてなしの席で、王妃として特使にどんな言葉を掛けるべきかを書きなさい」
いつものように王妃様が課題を出されました。
「解りませぇーん」
私がそう言うと、王妃様は怖いお顔をなさり、私をキッと睨みました。
「解らなければ考えなさい。今日中にできないなら明日も来てもらいますからね」
「解らないのでぇー、王妃様ぁー、教えてくださぁーい!」
「自分で考えなさい!」
「解らないのでぇー、お手本をみせてくださぁーい」
私は投げやりな態度で、王妃様に言いました。
「王妃教育っておっしゃいますけどぉ、王妃様が私に何か教えてくださったことって一度もありませんよねぇ? 私ぃ、フリアデル王国のことは解らないのでぇ、ぜひぜひ王妃様に教えていただきたいですぅ!」
「自分で考えなさい……!」
「ええー、教えてくださいませぇー、王妃様ぁー。王妃教育でしょぉ? 王妃様はぜんぶお出来になるんですよねぇ? 教えてくださいませぇー!」
「……っ!」
王妃様は怒りの形相のまま、黙りこくってしまい、わなわなと震えました。
ああ、やっぱりね。
王妃様には、解らないんですよね。
私の回答をアテにしていたんですね。
「あ、そういえばぁ、王妃様に教えていただいたこと、一つだけありましたぁ!」
私はニヤニヤ笑いをしながら言いました。
「王太子妃になるなら、ルシアン殿下より良い成績をとっていけない、でしたよねぇ? でもぉ、ルシアン殿下の成績が悪すぎてぇ、気を抜くとすぐ良い成績取っちゃいそうでぇ、難しすぎますぅ! 私ぃ、良い成績取っちゃうのでぇ、王太子妃になれませぇん!」
私はずっとその調子で、課題をやらず、イヤイヤ口調で駄々をこねました。
王妃様が「もう知りません!」とキレて出て行ったので、これ幸いと、私も帰宅しました。
翌日はもちろんお休みです。
もう王妃教育には行かないと決めました。
◆
さて、その後。
「お腹が痛ーい、これじゃ王妃教育に行けなーい!」
私は翌週から、仮病を使って王妃教育をさぼることにしました。
「フェリシア、いい加減にしなさい。一体いつまで王妃教育をさぼるつもりだ。王妃様がお怒りだぞ!」
さぼりが三回目になると、父が私を叱りつけに来ました。
「私、具合が悪いのでぇー、行けませーん」
私はベッドの上で、頭から毛布をかぶって抵抗しました。
「仮病だろう!」
「お腹が痛いですぅー」
「そんなことではルシアン王子殿下と結婚できなくなるぞ!」
「それが何か?」
「王妃になれなくなるぞ!」
「別にぃ、私はかまいませぇん」
「王妃様とルシアン殿下のご不興を買ったら、この先、我が家がどうなると思っているのだ! ルシアン殿下は王太子、次代の国王陛下なのだぞ!」
「それはどぉでしょーかぁ?」
私はかぶっていた毛布から頭を出すと、真顔で父に言いました。
「ルシアン殿下はたしかに王太子ですが、王妃様に似て、頭がとても残念なお方です。あれで本当に即位できるんですか? 貴族たちは反発するのでは?」
「それは昔の話だ。ここ二年ほどでルシアン殿下は大きく成長なさった。ルシアン殿下の政治に期待している貴族は多い」
「ラルベル公爵領の堤防とか? 織物産業の優遇政策とか? 市場の免税とか?」
「そうだ。お前も知っているのか。すべてルシアン殿下の発案だ」
「私の案です」
「はあ?」
「それらはすべて、私が、王妃様に提出した課題の回答です」
「何をふざけたことを……」
「それをこれから証明します。私がいなくなって、王妃様とルシアン殿下がどこまでやれるか……」
私は再び毛布を頭からかぶりました。
「私はベッドの上で、高みの見物をいたしますわぁ!」
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