7 / 9
07話 感動の婚約破棄
しおりを挟む
その日、私がいつも通りに王立貴族学院に登校すると。
「フェリシア!」
廊下で、ルシアン殿下が私を呼び止めました。
ルシアン殿下の顔を見るのは、半年ぶりくらいでしょうか。
「あら殿下、ごきげんよう」
私はそうご挨拶をしましたが。
ルシアン殿下は、敵を見るような目で私を睨みつけました。
「モンフォール公爵令嬢フェリシア、貴様との婚約を破棄する!」
ルシアン王子殿下は、きりっとした表情で高らかに宣言しました。
「王妃教育を投げ出すような女は、王太子妃にふさわしくない!」
「はい、殿下。おっしゃる通りでございます」
私は優雅に微笑んで、ルシアン殿下のお気持ちを有難く頂戴いたしました。
「婚約破棄、承りました」
そして心の中で快哉を叫んでいました。
(やりましたわああぁぁぁ! 婚約破棄ですわあぁぁ!)
人生たまには良いこともあるものですね!
ああ、神様はいらっしゃったのだわ!
「では、御前を失礼いたします」
私は天にも昇る心地で、その場を立ち去ろうとしましたが……。
「待て、フェリシア! 他に言うことはないのか!」
「ございません」
私は清々しい気持ちでそう答えました。
周囲に集まっていたご令嬢たちに、険のある視線を向けられてしまいましたけれど。
ええ、廊下で言い合いをしている私とルシアン殿下の周囲には、ちょっとした人だかりができておりました。
ルシアン殿下が大声を出していらっしゃいますからね。
通りがかった生徒たちは、足を止めて、私たちのやりとりを見物しているのです。
「フェリシア、貴様には人の心がないのか! 貴様の我儘のせいで母上は臥せってしまわれたのだぞ! 謝罪の一つくらいしたらどうだ!」
「王妃様がですか?」
「そうだ!」
「私は関係ありません」
「なんだと!」
「私はここ一か月ほど王妃様にお会いしていません。私に会っていないのに、私の我儘のせいでご病気になられたとは、あまりにもおかしな話です」
「貴様が王妃教育に来ないせいで、母上はご心労で倒れたのだ!」
私はルシアン殿下ににっこりと微笑みを返しました。
「体を壊したのは私のほうです。三年におよぶ過酷な王妃教育のせいで私は体を壊したのです。王宮には理由をご連絡いたしましたが、体調不良を我儘だとおっしゃいますの?」
「貴様は学校には来ているではないか!」
「学校は気楽ですもの。ラルベル公爵領の復興案を一日で作成しろ、できなければ休日返上で明日も来い、だなんて、学校はそんな無茶な予定を組みませんもの。王妃教育と違って」
「は? 何を言っている?」
「私はもう、王妃様やルシアン殿下のお手柄になるような台本を書かされるだけの王妃教育には二度とまいりません、と、申し上げているのです」
「ラルベル公爵領の復興案を貴様が考えたと言うのか?! あれは母上が……」
ルシアン殿下はそこまで言うと、はっと気付いたような顔で言葉を切りました。
なるほど。
王妃様が自分が考えたような素振りで、ルシアン殿下に入れ知恵していたのですね。
「ともあれ、私は体を壊してしまいましたので。王妃様とルシアン殿下のお手柄にするための台本を書かされるだけの王妃教育には二度と行くことができません」
王妃教育の内容は大事な部分ですので、もう一度言いました。
「私はこのように病弱ですので王太子妃にふさわしくありません。婚約破棄、承りました」
私は淑女の笑みを浮かべました。
「それでは、ごきげんよう」
「ま、待て! フェリシア!」
ルシアン殿下がまだ何か言っていましたが、私は踵を返してその場を離れました。
「ルシアン殿下……!」
歩き出した私の背後で、ラルベル公爵令嬢セリーヌ様がルシアン殿下を気遣っている声が聞こえました。
「殿下、大丈夫でございますか。フェリシア様はなんて傲慢で虚栄心の強いお方なのでしょう」
「ああ、セリーヌ、ありがとう。君はいつも優しいな」
あら、まあ。
もしやルシアン殿下を略奪してくださる篤志家のご令嬢とは、セリーヌ様のことだったのかしら。
篤志家のセリーヌ様、お頑張りあそばせぇ!
あら、でも……。
セリーヌ様がユベール様と婚約解消する以前から、篤志家のご令嬢がルシアン殿下と親密な関係だという噂はありましたよね。
(……)
細かいことを考えるのはやめましょう。
結果良ければ、全て良しですわ!
「フェリシア!」
廊下で、ルシアン殿下が私を呼び止めました。
ルシアン殿下の顔を見るのは、半年ぶりくらいでしょうか。
「あら殿下、ごきげんよう」
私はそうご挨拶をしましたが。
ルシアン殿下は、敵を見るような目で私を睨みつけました。
「モンフォール公爵令嬢フェリシア、貴様との婚約を破棄する!」
ルシアン王子殿下は、きりっとした表情で高らかに宣言しました。
「王妃教育を投げ出すような女は、王太子妃にふさわしくない!」
「はい、殿下。おっしゃる通りでございます」
私は優雅に微笑んで、ルシアン殿下のお気持ちを有難く頂戴いたしました。
「婚約破棄、承りました」
そして心の中で快哉を叫んでいました。
(やりましたわああぁぁぁ! 婚約破棄ですわあぁぁ!)
人生たまには良いこともあるものですね!
ああ、神様はいらっしゃったのだわ!
「では、御前を失礼いたします」
私は天にも昇る心地で、その場を立ち去ろうとしましたが……。
「待て、フェリシア! 他に言うことはないのか!」
「ございません」
私は清々しい気持ちでそう答えました。
周囲に集まっていたご令嬢たちに、険のある視線を向けられてしまいましたけれど。
ええ、廊下で言い合いをしている私とルシアン殿下の周囲には、ちょっとした人だかりができておりました。
ルシアン殿下が大声を出していらっしゃいますからね。
通りがかった生徒たちは、足を止めて、私たちのやりとりを見物しているのです。
「フェリシア、貴様には人の心がないのか! 貴様の我儘のせいで母上は臥せってしまわれたのだぞ! 謝罪の一つくらいしたらどうだ!」
「王妃様がですか?」
「そうだ!」
「私は関係ありません」
「なんだと!」
「私はここ一か月ほど王妃様にお会いしていません。私に会っていないのに、私の我儘のせいでご病気になられたとは、あまりにもおかしな話です」
「貴様が王妃教育に来ないせいで、母上はご心労で倒れたのだ!」
私はルシアン殿下ににっこりと微笑みを返しました。
「体を壊したのは私のほうです。三年におよぶ過酷な王妃教育のせいで私は体を壊したのです。王宮には理由をご連絡いたしましたが、体調不良を我儘だとおっしゃいますの?」
「貴様は学校には来ているではないか!」
「学校は気楽ですもの。ラルベル公爵領の復興案を一日で作成しろ、できなければ休日返上で明日も来い、だなんて、学校はそんな無茶な予定を組みませんもの。王妃教育と違って」
「は? 何を言っている?」
「私はもう、王妃様やルシアン殿下のお手柄になるような台本を書かされるだけの王妃教育には二度とまいりません、と、申し上げているのです」
「ラルベル公爵領の復興案を貴様が考えたと言うのか?! あれは母上が……」
ルシアン殿下はそこまで言うと、はっと気付いたような顔で言葉を切りました。
なるほど。
王妃様が自分が考えたような素振りで、ルシアン殿下に入れ知恵していたのですね。
「ともあれ、私は体を壊してしまいましたので。王妃様とルシアン殿下のお手柄にするための台本を書かされるだけの王妃教育には二度と行くことができません」
王妃教育の内容は大事な部分ですので、もう一度言いました。
「私はこのように病弱ですので王太子妃にふさわしくありません。婚約破棄、承りました」
私は淑女の笑みを浮かべました。
「それでは、ごきげんよう」
「ま、待て! フェリシア!」
ルシアン殿下がまだ何か言っていましたが、私は踵を返してその場を離れました。
「ルシアン殿下……!」
歩き出した私の背後で、ラルベル公爵令嬢セリーヌ様がルシアン殿下を気遣っている声が聞こえました。
「殿下、大丈夫でございますか。フェリシア様はなんて傲慢で虚栄心の強いお方なのでしょう」
「ああ、セリーヌ、ありがとう。君はいつも優しいな」
あら、まあ。
もしやルシアン殿下を略奪してくださる篤志家のご令嬢とは、セリーヌ様のことだったのかしら。
篤志家のセリーヌ様、お頑張りあそばせぇ!
あら、でも……。
セリーヌ様がユベール様と婚約解消する以前から、篤志家のご令嬢がルシアン殿下と親密な関係だという噂はありましたよね。
(……)
細かいことを考えるのはやめましょう。
結果良ければ、全て良しですわ!
37
あなたにおすすめの小説
出て行けと言ったものの、本当に出て行かれるとは思っていなかった旦那様
睡蓮
恋愛
ジーク伯爵は、溺愛する自身の妹レイアと共謀する形で、婚約者であるユフィーナの事を追放することを決めた。ただその理由は、ユフィーナが婚約破棄を素直に受け入れることはないであろうと油断していたためだった。しかしユフィーナは二人の予想を裏切り、婚約破棄を受け入れるそぶりを見せる。予想外の行動をとられたことで焦りの色を隠せない二人は、ユフィーナを呼び戻すべく様々な手段を講じるのであったが…。
白い結婚なので無効にします。持参金は全額回収いたします
鷹 綾
恋愛
「白い結婚」であることを理由に、夫から離縁を突きつけられた公爵夫人エリシア。
だが彼女は泣かなかった。
なぜなら――その結婚は、最初から“成立していなかった”から。
教会法に基づき婚姻無効を申請。持参金を全額回収し、彼女が選んだ新たな居場所は修道院だった。
それは逃避ではない。
男の支配から離れ、国家の外側に立つという戦略的選択。
やがて彼女は修道院長として、教育制度の整備、女性領主の育成、商業と医療の再編に関わり、王と王妃を外から支える存在となる。
王冠を欲さず、しかし王冠に影響を与える――白の領域。
一方、かつての夫は地位を失い、制度の中で静かに贖罪の道を歩む。
これは、愛を巡る物語ではない。
「選ばなかった未来」を守り続けた一人の女性の物語。
白は弱さではない。
白は、均衡を保つ力。
白い結婚から始まる、静かなリーガル・リベンジと国家再編の物語。
【完結】君の世界に僕はいない…
春野オカリナ
恋愛
アウトゥーラは、「永遠の楽園」と呼ばれる修道院で、ある薬を飲んだ。
それを飲むと心の苦しみから解き放たれると言われる秘薬──。
薬の名は……。
『忘却の滴』
一週間後、目覚めたアウトゥーラにはある変化が現れた。
それは、自分を苦しめた人物の存在を全て消し去っていたのだ。
父親、継母、異母妹そして婚約者の存在さえも……。
彼女の目には彼らが映らない。声も聞こえない。存在さえもきれいさっぱりと忘れられていた。
婚約破棄を伝えられて居るのは帝国の皇女様ですが…国は大丈夫でしょうか【完結】
繭
恋愛
卒業式の最中、王子が隣国皇帝陛下の娘で有る皇女に婚約破棄を突き付けると言う、前代未聞の所業が行われ阿鼻叫喚の事態に陥り、卒業式どころでは無くなる事から物語は始まる。
果たして王子の国は無事に国を維持できるのか?
【完結済】婚約破棄から始まる物語~真実の愛と言う茶番で、私の至福のティータイムを邪魔しないでくださいな
をち。「もう我慢なんて」書籍発売中
恋愛
約束の時間に遅れ、さらには腕に女性を貼り付けて登場したアレックス殿下。
彼は悪びれることすらなく、ドヤ顔でこう仰いました。
「レティシア。君との婚約は破棄させてもらう」
婚約者の義務としての定例のお茶会。まずは遅れたことに謝罪するのが筋なのでは?
1時間も待たせたあげく、開口一番それですか? しかも腕に他の女を張り付けて?
うーん……おバカさんなのかしら?
婚約破棄の正当な理由はあるのですか?
1話完結です。
定番の婚約破棄から始まるザマァを書いてみました。
お姫様は死に、魔女様は目覚めた
悠十
恋愛
とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。
しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。
そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして……
「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」
姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。
「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」
魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……
全てから捨てられた伯爵令嬢は。
毒島醜女
恋愛
姉ルヴィが「あんたの婚約者、寝取ったから!」と職場に押し込んできたユークレース・エーデルシュタイン。
更に職場のお局には強引にクビを言い渡されてしまう。
結婚する気がなかったとは言え、これからどうすればいいのかと途方に暮れる彼女の前に帝国人の迷子の子供が現れる。
彼を助けたことで、薄幸なユークレースの人生は大きく変わり始める。
通常の王国語は「」
帝国語=外国語は『』
【完結】え?今になって婚約破棄ですか?私は構いませんが大丈夫ですか?
ゆうぎり
恋愛
カリンは幼少期からの婚約者オリバーに学園で婚約破棄されました。
卒業3か月前の事です。
卒業後すぐの結婚予定で、既に招待状も出し終わり済みです。
もちろんその場で受け入れましたよ。一向に構いません。
カリンはずっと婚約解消を願っていましたから。
でも大丈夫ですか?
婚約破棄したのなら既に他人。迷惑だけはかけないで下さいね。
※ゆるゆる設定です
※軽い感じで読み流して下さい
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる