天地壊拓~地球滅亡後の地下世界で出会ったのは、全てを可能にする奇跡の宝石でした~

熱き冒険者

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第一章 憧れへの挑戦

第3話 何のために

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「本当にすいませんでした!!!」
「いいっていいって!そんな謝る事じゃねえよ」

 大通りにロビンの謝罪が響く。オブジェクトの力を使って法を犯してしまったロビンは、ライデンに自分の無意識下の行動を反省して頭を下げた。ところが深々と下げられたその頭を、ライデンは笑いながらポンポンと叩いた。

「確かに街中でのオブジェクトの使用は禁じられているが、君の攻撃は人命救助のための止むを得ない手段だった。警察には俺からも説得しとくから気にすんなって!」

 たった一撃で、ライデンは地中から出現した全てのタイトゥンワームを真っ二つに両断した。今は到着した救急隊が、道路にぶち撒けられたタイトゥンワームの肉塊を処理しているところである。腕を軽く怪我したレハトは、負傷者として手当てを受けながらその様子を傍で眺めていた。

「そもそも君がいなければ、あの少女は今頃死んでいたかもしれない。君は1人の命を救ったんだ。自分をもっと誇るべきだ」
「いや、そんな事は…」

 否定をするロビンであったが、ライデンの言う通り、ロビンがいなければあの少女がどうなっていたかは分からない。結果はどうであれ1人の命を救うことが出来たのに変わりはない。
 そんな2人のやり取りを見ていたレハトは、ふと同じように負傷していたはずの少女がいない事に気づいた。不思議に思いつつ辺りをキョロキョロ見渡していると、ライデン達に近づいて来る1人の男の姿が目に入った。

「ボルティア総隊長、彼がオブジェクトを?」
「あぁ、リトか。そうだ、この子だ」

 ライデンに声を掛けながら歩いてきたのは、全身真っ白のスーツを着た金髪ショートのハンサムな男性だった。高身長且つスラリとしたモデル体型で、胸には警察の紋章のバッジが光っている。少々チャラそうにも見える顔つきの彼は警察手帳を取り出し、レハトとロビンに身分証明を行った。

「僕の名前はリト・シニング。ユーサリア市警の警視だ。話はボルティア総隊長から聞いたけど、取り敢えず君達の名前を教えてもらおうか」

 そう言われ、2人も身分を明かす。納得した顔で頷いたリト警視は、顔に僅かな笑みを浮かべつつ口を開いた。

「知っての通り、街中での戦闘用オブジェクトの使用は原則として違法となっている。それは単純に、悪用されて民間人に被害が出るのを防ぐ為だ。だが今回のケースは人命救助が目的であり、現にそれによって被害を抑えられたのも事実。よって今回の君達の行動は不問とする」
「ほ、本当ですか⁉」
「…だが、それでも一般人、ましてや君たちのような学生がオブジェクトの力を街角で扱うのは危険だ。これからはなるべく避難を最優先にして、我々警察か、或いはトレイルブレイザーが駆け付けるのを待っていてほしい」

 煌びやかで不真面目さすら感じさせる姿とは裏腹に、思いのほかしっかりとした言葉遣いで2人を諭すリト警視。2人が安堵の笑みを浮かべるのを見て、ライデンもその姿を見守るように腰に手を当てた。

「「ありがとうございます!!」」

 2人は同時に頭を下げて感謝の言葉を述べる。警察に誘導される他の受験生達からの視線を一点に受けながら、2人はこの瞬間の喜びを分かち合ったのだった。


 それから数十分経ち、気づけば時刻は9時手前を指していた。試験の時間がすぐそこまで近づいたせいか、ここを歩いていた受験生の姿はいつの間にか消え、残っていたのは後処理を行う警察とレハト達だけである。治療も終わり、そろそろ試験会場に行こうと腰を上げたその時、隣に立っていたロビンがどこか遠くを眺めていた事に気づく。

「おい、速く行くぞ」
「ごめん、ちょっと待ってて」

 突然そう断ると、ロビンはどこかに向かって走って行った。その先にいたのは、後処理の手伝いをするライデンである。何事かと気になったレハトは、ロビンに気づかれないようにその後を付け、物陰に隠れた。

「ライデンさん!」
「ん?何だ?」

 何か言いたげにもじもじとするロビンの姿を見て、ライデンは不思議そうな顔をした。しばしの躊躇いの後、深呼吸を一度挟んでロビンはゆっくりと口を開いた。

「初対面の人にこんな事言うのは変なんですけど、トレイルブレイザーの隊長であるあなただからこそ、どうしても聞いてほしい話があるんです」

 ロビンはあからさまに緊張しつつも、自分の言葉を一つ一つ噛み締める様にして丁寧に言葉を紡いだ。その様子を見ていたレハトは、ロビンのどこか深刻そうなオーラを感知して思わず唾を飲み込む。

「実は僕、トレイルブレイザーになるのが怖いんです」

 突然の告白だった。幼馴染のレハトでさえも、そんな弱音はロビンの口から一度も聞いたことが無かった。自分の本音を吐露し、弱気な姿勢で語るその少年の背中は、酷く頼りなく感じた。

「僕は生まれつき体が弱いですし、オブジェクトも大して性能がいいわけではありません。臆病でビビりで、クリーチャーなんて化け物たちと戦う度胸も勇気もありません。さっきの行動も勝手に手が動いただけで、僕はずっと委縮してしまっていました。なのに、人々を守る為に戦っていくだなんてとても…」

 ロビンは自分の意思でトレイルブレイザーを志望したわけではない。3歳の時にレハトがトレイルブレイザーを志した際、ロビンも彼に憧れてそれに続いたというだけの理由だった。
 トレイルブレイザーは人の為に命を賭けて戦う仕事。そんな事はとうの昔から解っていたはずなのに、いざ本物のクリーチャーと対峙すると怖くて仕方がなかった。死ぬのはまだ怖かった。
 それに対して、この時レハトが抱いたのは微かな恐怖心であった。14年間共に同じ目標を立てて努力したにもかかわらず、ライデンの返答によっては、ずっと隣を歩いて来た親友がいなくなってしまうかもしれないという不安が、確かにレハトに芽生えていたのだ。

「なら、やらなきゃいいんじゃねぇか?」
「……っ!」

 ライデンの口から出た言葉は、レハトが恐れていた言葉そのものだった。

「知っての通り、トレイルブレイザーは命がけの仕事だ。新人隊員の約5割が、入隊1年以内に大怪我をするか、或いは死亡するとも言われている。確かに高水準の生活やら収入やらが手に入るが、自分の命と天秤にかけられる程の物でもない。戦う力も度胸もないなら大人しく諦めた方がいい」
「……そう、ですか」

 ロビンは顔を俯かせて、一言そう呟いた。後ろからではその少年の表情を見ることは出来なかった。

「———でもな」

 英雄は言葉を続ける。

「誰だって、本当は自分が一番大切だ。自分の命を守る為に逃げたり、他の人を見捨てたりするのは必ずしも悪い事じゃない。でも、だからこそ目の前で誰かが助けを求めていた時、それに伴うリスクや危険を顧みずに行動出来る事が尊いんだ。
 君達がその手に持っている武器|《オブジェクト》は、誰でも簡単に扱える強力な武器だ。人を守ることも出来るが、世の中にはこの力を悪用している人間も大勢いる。
 君達には、誰かを助ける事の出来る心とそれを実行するのに十分な力がある。その証拠がさっきの結果だ。俺はどうか、君達が持つその心で何を護りたいのか、その力を何の為にふるうのかについて考えて欲しいんだ。その答えを見つけ、自分が正しいと思う道を選んでほしい。それが俺の望む君への…いや、君“達”への願いだ」

 レハトはその言葉を聞き、再度ロビンの反応に注目した。少年の表情はやはり分からなかったが、さっきとは違って背筋をしっかりと伸ばして顔を上げていた。それだけで十分、その少年の感情が読み取れた。

「ボルティア総隊長!こちらの手伝いもお願いします!」
「ああ分かった!少し待っててくれ!」

 向こうからライデンを呼ぶ警察の声が聞こえる。快活な口調で反応したライデンはロビンから視線逸らして、その後ろに見えた人影に声を掛けた。

「そこにいるんだろ、レハト君?」
「えっ…あ、はい!」

 急に自分の名前を呼ばれて驚いたレハトは、戸惑いながらも元気よく返事をする。いつの間に見られていた事に気づいて顔を赤らめたロビンを横目に、ライデンはレハトにも質問を投げかけた。

「君もトレイルブレイザーになりたいんだろ?だったら教えてくれ。君はトレイルブレイザーになって何がしたい?」

 瞬間、戸惑いの色が見えていたレハトの顔にギラついた笑みが現れた。そんなもの、とうの昔から決まっていると言わんばかりに、少年は力強い眼差しと共に口を開いた。

「全てを護りたいです」
「……全て?」
「はい。クリーチャーから人を守るだけじゃない。人も動物も、全ての命をあらゆる脅威から護る。そうやって、誰も悲しまない世界を創る。そんなトレイルブレイザーになります」

 その言葉を聞いて、ライデンはニヤリと微笑んだ。

「随分と大きく出たな」
「絶対に実現出来ますよ。なんたって、俺がそう信じてますから」

 レハトの決意には微塵の揺らぎもなかった。心から願うあまりにも大きすぎる夢を、彼は夢だとは思っていなかった。必ず成し遂げる。むしろそれが確定した未来かのようにさえ思わせる自信だった。そうした強い意志を、ライデンはその少年から感じ取ったのだ。

「ハッハッハ!なるほど、今まで色んな奴を見てきたが、君ほど強欲な奴は初めて見たな。…だが気に入った!君がその未来を叶えるのを楽しみにしておくよ」
「ありがとうございます!」

 元気よく頭を下げながら感謝を述べるレハトを見て、ライデンは満足そうに笑った。

「さて、君達も試験があるんだろ?速く行った方がいい。また会おうな、ロビン君にレハト君!」

 ライデンは2人に別れを告げると、仕事を手伝いに現場に戻って行った。遠くへ消えていく大き過ぎる背中を眺めていると、ロビンは晴れやかに笑った。

「よし、早く試験に行こう!間に合わなかったら笑い話にもならないから!」
「おう!絶対合格するぞ!」

 2人はすぐそこに見えるトレイルブレイザーベースに向かって真っすぐ走り出した。その足取りはとても軽快で、ぶつかる風が心地良い。道沿いに生えた木々が2人を歓迎するように立ち並び、白い街灯に照らされた歩道は2人を導くように光の道を形作る。
 これから先に待つ沢山の出逢いと冒険に心を躍らせながら、少年達は胸を張って前に進むのだった。
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