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Love never dies.
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項の噛み跡がどうなっているのか、僕は知らない。番の証明として残っているのか。それとも、あの日確かに存在した跡は、一時的なものだったのか。確かめるのが怖くて、未だに確認できずにいる。自分は彼と何の関係もないって、改めて認識させられるのが怖かった。もう、心に深い傷を負うのは嫌だった。
ちくりと疼く項を擦りながら靴を履き、晩御飯の買い出しのため、すっかり通い慣れた近所の商店街に向かう。
好奇心旺盛な玲は気づけばふらふらとすぐにどこかへ行ってしまうから、目が離せない。手を繋いで、その小さな歩幅に合わせていると、商店街に入って四店舗目辺りで突然玲が足を止めた。何かと思って、その視線の先を追ってすぐに後悔する。
「ッ、」
「まま?」
そこは少し寂れたCDショップ。黄ばんだセロハンテープが残っているガラスに真新しいポスターが貼られていた。そこに載っている顔と文字を見て、思わず息を飲んだ。不思議そうに玲が見上げてくるけれど、それに構っていられる余裕はない。
――sui、初の全都市を巡るコンサートツアー開催決定!
国民的トップアイドル・suiがあなたの街にやってくる。数々のアリーナツアーやドームツアーを成功させてきたsuiが、なんと今年は地方の壁を越えて全国のファンの元へ。「今年は自分から最愛の皆さんに会いに行く年にしたい」と言っていたsuiが有言実行します。
そう書かれた下にずらっとツアー日程が書かれている。来月下旬から始まるツアーはほぼ休みなく組まれていて、彼の体調が心配になるほど。他の仕事は調整できたのだろうか。茨木さんは文句言ってそうだなぁと、苦笑してしまう。
まさか、そんな大きなツアーを行うなんて知らなかった僕は、もちろんこの街にもやってくると知って、湧き上がる感情を必死に落ち着かせようとすることしかできない。
……会いたい、会いたいよ、翠。
そう思いながら、ちゃっかり脳みそはこの街にやってくる日付をしっかりと記憶している。
六月十日と十一日。
何の運命か、それは奇しくも玲の誕生日の前日だった。
これだけの情報をむしろよく今まで遮断できていたと思う。今回だって、玲が反応していなければ僕はきっと気づいていなかった。やはり彼の血がそうさせたのだろうかと、愛し子を抱え上げる。
「ごめんね、もう大丈夫だから」
きゅるんとした瞳を瞬かせて、天使は首を傾げる。そうだ、この子のためにも強くあれ。
……会いたいなんて、嘘だから。
僕にはこの子がいればいい。ほら、そうだろう?
偽りで塗り潰した心は真っ黒で、二年もの間ずっと救難信号を送り続けている。この痛みに早く慣れてくれればいい。そう願い続けて、時間だけが過ぎていた。
ちくりと疼く項を擦りながら靴を履き、晩御飯の買い出しのため、すっかり通い慣れた近所の商店街に向かう。
好奇心旺盛な玲は気づけばふらふらとすぐにどこかへ行ってしまうから、目が離せない。手を繋いで、その小さな歩幅に合わせていると、商店街に入って四店舗目辺りで突然玲が足を止めた。何かと思って、その視線の先を追ってすぐに後悔する。
「ッ、」
「まま?」
そこは少し寂れたCDショップ。黄ばんだセロハンテープが残っているガラスに真新しいポスターが貼られていた。そこに載っている顔と文字を見て、思わず息を飲んだ。不思議そうに玲が見上げてくるけれど、それに構っていられる余裕はない。
――sui、初の全都市を巡るコンサートツアー開催決定!
国民的トップアイドル・suiがあなたの街にやってくる。数々のアリーナツアーやドームツアーを成功させてきたsuiが、なんと今年は地方の壁を越えて全国のファンの元へ。「今年は自分から最愛の皆さんに会いに行く年にしたい」と言っていたsuiが有言実行します。
そう書かれた下にずらっとツアー日程が書かれている。来月下旬から始まるツアーはほぼ休みなく組まれていて、彼の体調が心配になるほど。他の仕事は調整できたのだろうか。茨木さんは文句言ってそうだなぁと、苦笑してしまう。
まさか、そんな大きなツアーを行うなんて知らなかった僕は、もちろんこの街にもやってくると知って、湧き上がる感情を必死に落ち着かせようとすることしかできない。
……会いたい、会いたいよ、翠。
そう思いながら、ちゃっかり脳みそはこの街にやってくる日付をしっかりと記憶している。
六月十日と十一日。
何の運命か、それは奇しくも玲の誕生日の前日だった。
これだけの情報をむしろよく今まで遮断できていたと思う。今回だって、玲が反応していなければ僕はきっと気づいていなかった。やはり彼の血がそうさせたのだろうかと、愛し子を抱え上げる。
「ごめんね、もう大丈夫だから」
きゅるんとした瞳を瞬かせて、天使は首を傾げる。そうだ、この子のためにも強くあれ。
……会いたいなんて、嘘だから。
僕にはこの子がいればいい。ほら、そうだろう?
偽りで塗り潰した心は真っ黒で、二年もの間ずっと救難信号を送り続けている。この痛みに早く慣れてくれればいい。そう願い続けて、時間だけが過ぎていた。
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