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Show must go on
3
「……行ってみよう」
「いいの?」
「うん、もしまだ寝てたら出直そう」
遠慮がちに頷いた翠は、そわそわと落ち着かない様子。そりゃそうだ、血が繋がった息子がいるって、ついさっき聞かされたばかりなんだから。
カラスの行水のように手短にシャワーを浴びた僕たちは、ドキドキしながら隣の家の前に立っていた。気持ちを落ち着かせるみたいに深く息を吐き出せば、並んで立つ翠が僕の手を握ってくれる。
――ピンポーン。
震えないように力を込めた指でインターホンを押せば、少しの間の後、「はーい」と柔らかな声が聞こえてくると同時にドタバタと駆けてくる音がした。
「春崎です。すみません、朝早くに……」
『陽くん、ちょっと待ってね』
そう言って通話が切れると同時に、目の前のドアを叩く音。ギョッとして目を見開きながら「玲……?」と声をかければ、「はいはい、玲くん、今開けるからね」とおじいさんの声が聞こえてくる。
ガチャリと鍵を開ける音がしてドアが開いた瞬間、勢いよく飛び出してきた小さな姿。翠の手を離し、僕の足にぎゅうっとしがみついて離れようとしない玲の頭を撫でながら、その場にしゃがみこむ。
「玲」
「…………」
「ごめんね、寂しい思いさせて」
顔を俯かせたままの玲に謝れば、ゆっくりと顔を上げる。泣いているのかと思っていた。けれど、その愛らしい瞳に涙をいっぱい浮かべているのに、それを流したらだめだと言わんばかりに顔を顰めて堪えている。
「まま……」
震える声で呼ばれた瞬間に、ぎゅっとその小さな体を抱きしめると、じんわりと肩が濡れる感覚がした。もう離れたくないと、必死にしがみついてくるその姿に心が痛む。
僕はこの子にどれだけの我慢をさせてきたのだろう。自分を責めたくなる気持ちでいっぱいだけど、今は玲と話がしたい。
「玲、お家に帰ろう」
「うん……」
「すみません、ありがとうございました。また改めてお礼に伺います」
「あら、いいのよ。玲くん、かわいいもの」
「いつでも遊びに来ていいからね」
抱き上げた腕の中で、玲がばいばいと小さく手を振る。老夫婦は微笑みながら手を振り返してくれた。ぺこりとお辞儀をしてから、我が家に戻る。
「まま、」
「ん?」
「……ぱぱ?」
「えっ」
「っ、」
リビングのソファに玲を下ろして、何から話そうと悩んでいると、先に玲が口を開いた。思ってもいなかった言葉に二人揃って息を飲む。僕が狼狽えている間に、翠がさっと玲の前に膝をついた。
「はじめまして、玲くん。深山翠です。昨日から分かってたの?」
「……うん」
「昨日?」
「会った時に呼ばれたんだ、『ぱぱ』って。その時は訳が分からなかったけど、今なら理解できる」
そんなことがあったなんて、知らなかった。驚きに目を丸くする僕の隣で、優しい瞳で玲を見つめる翠。こうして並んでいるところを見ると、やっぱり瓜二つだ。
「いいの?」
「うん、もしまだ寝てたら出直そう」
遠慮がちに頷いた翠は、そわそわと落ち着かない様子。そりゃそうだ、血が繋がった息子がいるって、ついさっき聞かされたばかりなんだから。
カラスの行水のように手短にシャワーを浴びた僕たちは、ドキドキしながら隣の家の前に立っていた。気持ちを落ち着かせるみたいに深く息を吐き出せば、並んで立つ翠が僕の手を握ってくれる。
――ピンポーン。
震えないように力を込めた指でインターホンを押せば、少しの間の後、「はーい」と柔らかな声が聞こえてくると同時にドタバタと駆けてくる音がした。
「春崎です。すみません、朝早くに……」
『陽くん、ちょっと待ってね』
そう言って通話が切れると同時に、目の前のドアを叩く音。ギョッとして目を見開きながら「玲……?」と声をかければ、「はいはい、玲くん、今開けるからね」とおじいさんの声が聞こえてくる。
ガチャリと鍵を開ける音がしてドアが開いた瞬間、勢いよく飛び出してきた小さな姿。翠の手を離し、僕の足にぎゅうっとしがみついて離れようとしない玲の頭を撫でながら、その場にしゃがみこむ。
「玲」
「…………」
「ごめんね、寂しい思いさせて」
顔を俯かせたままの玲に謝れば、ゆっくりと顔を上げる。泣いているのかと思っていた。けれど、その愛らしい瞳に涙をいっぱい浮かべているのに、それを流したらだめだと言わんばかりに顔を顰めて堪えている。
「まま……」
震える声で呼ばれた瞬間に、ぎゅっとその小さな体を抱きしめると、じんわりと肩が濡れる感覚がした。もう離れたくないと、必死にしがみついてくるその姿に心が痛む。
僕はこの子にどれだけの我慢をさせてきたのだろう。自分を責めたくなる気持ちでいっぱいだけど、今は玲と話がしたい。
「玲、お家に帰ろう」
「うん……」
「すみません、ありがとうございました。また改めてお礼に伺います」
「あら、いいのよ。玲くん、かわいいもの」
「いつでも遊びに来ていいからね」
抱き上げた腕の中で、玲がばいばいと小さく手を振る。老夫婦は微笑みながら手を振り返してくれた。ぺこりとお辞儀をしてから、我が家に戻る。
「まま、」
「ん?」
「……ぱぱ?」
「えっ」
「っ、」
リビングのソファに玲を下ろして、何から話そうと悩んでいると、先に玲が口を開いた。思ってもいなかった言葉に二人揃って息を飲む。僕が狼狽えている間に、翠がさっと玲の前に膝をついた。
「はじめまして、玲くん。深山翠です。昨日から分かってたの?」
「……うん」
「昨日?」
「会った時に呼ばれたんだ、『ぱぱ』って。その時は訳が分からなかったけど、今なら理解できる」
そんなことがあったなんて、知らなかった。驚きに目を丸くする僕の隣で、優しい瞳で玲を見つめる翠。こうして並んでいるところを見ると、やっぱり瓜二つだ。
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