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Show must go on
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顔を上げて、ゆっくりと会場全体を見回した翠がカメラをまっすぐに見つめる。あまりにも真剣な瞳に、まるで僕を見つめているかのようだと錯覚してしまう。
『俺はずっと運命の番に憧れて、自分だけの唯一を探していました。芸能界に入ったのも、その方が見つかる可能性が高いと思ったからです』
「翠……」
『でも、皆さんもご存知の通り、運命に出会えるのはほんの数パーセントの限られた人だけです。何年探したって、見つからないものは見つからない。正直、運命の番っていうのはただの夢物語で、もう駄目なのかなぁって諦めかけていました』
本来ならば、ライブの感想やファンへの感謝を伝える最後の挨拶の時間だったはず。これまでの公演とは違う内容にファンが動揺しているのが、画面越しでも伝わってくる。
『今からおよそ二年前のことです。偶然入ったコンビニで、今まで感じたことのない衝撃を受けました。赤い糸を辿って、この人だって、すぐに直感しました』
「っ……」
『俺が不甲斐なくて、皆さんに報告するのが遅くなってしまってごめんなさい。いきなりの報告で悲しませたり、混乱させてしまう形になってごめんなさい』
謝るべきは僕だって同じなのに。ステージに立って、何もかも全てを一身に受け止めようとする翠の姿に涙が滲む。
『……運命の番に、巡り会えました。俺にとって、一生傍にいてほしい最愛の人です。一生をかけて幸せにしたい。そんな相手との子どもがいることも分かりました』
少し緊張したように翠が告白すると、会場中が息を飲んだ。会場だけじゃない。カメラの向こう側、僕にも届くように話していると分かって、胸の奥が切なく鳴った。翠と同じぐらい、僕も緊張している。
『……アイドルっていうのは、どうしようもなくずるい生きものです。皆さんの前に立つと、改めてそれを実感します。皆さんの日常に、ほんの少しでも笑顔や幸せをプラスするのがアイドルの使命だと、存在意義だと思っています』
そこで話を区切った翠が小さく息を吐き出した。今日の翠は何を言うのか読めない。そんな空気がファンの間に広がって、広い会場がシーンと静まり返っている。
『でも、自分の活動を振り返ってみると、あまりにもアイドルとしての覚悟や自覚が足りていなかったなと、今になって思います。全てを投げ打ってでも守りたい人ができたあの日、このまま辞めてもいいやと投げやりになった自分がいます。自暴自棄だったのもあるかもしれません。……今回のツアーでこれまで行けていなかった地方に行って、改めてファンの皆さんからの愛をたくさん感じました。けれど、こんなにたくさんの愛をいただいているのに、俺は何も返せていない。中途半端な気持ちのまま、アイドルとして活動を続けてもいいのか。それは皆さんに対して失礼なんじゃないか。そう思わされる日々でした。アイドル失格だなと、今回のツアーを通してその気持ちが強くなりました』
僕は、アイドルとしてのsuiを知らない。どんな気持ちでアイドルを続けていたのかも分からない。それでも、その瞳にきらりと輝く雫を見て、ぐっと胸に来るものがあった。
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