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番外編 翠のご両親に挨拶に行く日の話
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何度も何度も鏡の前で自分の姿を確認する。寝癖は大丈夫、ネクタイだって歪んでない。だけど不安は消えなくて、これで本当に大丈夫かなって体を捩って確認していれば、後ろからぎゅっと抱き締められる。
「翠、」
「準備できた?」
「……うん、でもこれでいいのかなって不安で」
「見せて」
ひらりと体を離されて、翠が僕の格好を確認する。けれど、僕に合わせてスーツを選んでくれた翠がかっこよくて直視できない。下を向いたままくるりと一周すれば、額にキスが降ってきた。
「珍しいね、おでこ出してるの」
「ちょっとでもしっかり見えるようにしたくて。悪足掻きかもしれないんだけど。……変かな」
「ううん、新鮮でかわいい」
そう言って翠がまたキスをひとつ。すぐに顔が赤く染まってマイナスポイントなのに、「大丈夫、百点満点だよ」と翠は笑う。
緊張しすぎて手と足が一緒に出ちゃいそう。普段と何も変わらない翠は、玲の服を着せ替えながら鼻歌までしちゃってご機嫌だ。
「どこいくのー?」
「今日はね、パパのお家に行くんだよ」
「おうち?」
「ばーばとじーじが玲に会いたいってさ」
そう、僕がどうしてこんなに緊張しているかって、これから翠のご両親のところに挨拶に行くからだ。運命の番に出会えることを夢見ていた翠が、ずっと憧れ続けたご両親。何も秀でたところなんて持っていない、こんな僕が番でがっかりさせないだろうかって、不安がぐるぐる頭の中を回っている。
「まま?」
「陽、準備できた?」
「う、うん……」
玲もいるんだし、と無理やり作った笑顔を向けると、真剣な表情をした翠が僕の頬を撫でる。
「やっぱりやめる?」
「えっ、」
「母さんが会わせろってうるさいだけだし、陽がこんなになるぐらいなら、」
「会う、会うよ」
「でも、」
「無理してるんじゃないよ。ただ、好きな人を産んでくれたご両親に嫌われないかなって不安なだけ」
どうせなら好かれたいって、そんな下心を持った自分が醜いと思う。少しでも良く見られたい。受け入れてもらいたい。僕がもっとちゃんとした人間だったらよかったのに。翠のご両親にとっての僕は、黙って産んだ孫を二年間も会わせなかった最低なヤツだ。第一印象が最悪だって分かっているから、怖いんだ。
「大丈夫だよ、陽のことを傷付けるようなことを言ったら縁切るし」
「またそんなこと言って」
「本気なんだけどなぁ」
あまりにも過激すぎる冗談に思わず笑ってしまう。これは後から知ったことだけど、僕はその発言を冗談としか捉えていなかったのに対し、翠はめちゃくちゃ本気だったらしい。
「うん、覚悟できた。行こう」
「ありがとう、俺の両親のために」
「お礼を言うのはこっちだよ。ありがと、紹介してもらえて嬉しい」
今や全国民が翠に番がいることを知っているけれど、それが僕だって知る人は全然いない。翠の番だって紹介してもらえることがすごく嬉しいのは本当だから。緊張は治まらないけれど、頑張れ、僕。
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