31 / 41
俺にしとけばいいのに
2
しおりを挟む「君はこの世で一番大切なものって何だと思う?」
「んー、人によって違うだろうから分かんないな」
「つまらない答えをどうもありがとう」
「何よ、墨田。モテないからって僻んでるんじゃないよ」
チャームポイントの眼鏡をキラリと光らせて、墨田が厭らしく笑う。いかにも悪役だろうという皮肉な笑い方に三枝ファンからブーイングが上がった。しかし、既に役に入り込んでいる墨田には全く効果なし。
「君たちは甘い! この世は金! 金が物を言うんだよ!」
……いや、怖ぇよ。普段大人しいのに、スイッチ入ったら人変わりすぎだろ。ヒステリックに叫ぶ墨田にクラス中がドン引きしている。
文化祭の出し物決めで「金」を連呼する奴なんて、どこの高校を探したって他にいない。桃ちゃん先生もいるんだから、せめて「青春したい」とか「やりがいがある」とか、建前だけでも取り繕えよ。
「ふふ、私たちが出てきたから演劇をやるって、皆さん思っていたでしょう。いいえ、このクラスに演劇をやらせるなんてもったいない」
「えー、頼の王子様姿見たかったのに」
紅野さんの言葉にざわめきが起きる。こんなに二人がノリノリだから、学年に三枠しか許可されていない演劇を取りに行くのかと正直思っていた。
何にも決まっていないのに、劇の定番、おとぎ話に出てくる王子役を誰が担当するかなんて、それだけはもう話し合いをせずとも既に決まっている。生まれた時から王子様を約束された男、三枝頼。始まる前から期待していたのに、と残念がる女子たちの声が耳に入ったのか、墨田はふんと鼻で笑う。
「王子様だぁ? 馬鹿馬鹿しい。演劇なんて金にならないだろう。拍手だけじゃ、腹は膨れないんだよ」
「あいつ、本当に演劇部の部長なんだよな」
「ねぇ、桃ちゃん先生、墨田を廊下につまみ出して」
「まぁまぁ、最後まで聞いてあげよう」
ヒール役に徹することにしたのか、入り込んでしまって役が抜けないのか。墨田の発言がどんどんエスカレートしていくのを、馬鹿だなぁと思いながら見ていた。アレに関わるのは嫌だけど、鑑賞用として見ている分にはどうでもいい。こっちに迷惑が飛んでこなければ、何だっていいのだ。
「さっき、三枝頼の王子様姿が見れなくて残念って言いましたよね?」
「うん、言ったけど……、え、何、怖い」
紅野さんの目がバキバキで、真正面から見つめ合って恐怖を感じるのも無理はない。あんなの、俺だって怖い。
「もちろん私だって王子様を捨てがたい気持ちは分かります! でも皆さん、去年既にご覧になったでしょう? 眠り姫を口付けで起こす三枝頼の王子様を……!」
「そうだよ、最高だったからまた見たいって言ってるんじゃん」
「……執事姿はどうですか?」
「え?」
「執事?」
三枝に対する迸る情熱が彼女を駆り立てるのだろうか。凄まじい熱意にこっちが焼けてしまいそう。
去年は三枝の存在なんて気にも止めていなかったから、王子様役を既にやっていたなんて知らなかった。ちょっと見たかったなって、残念な気持ちが湧いてくるけれど、もう過去には戻れない。
すると、紅野さんがぼそりと言った言葉に教室がざわつく。ずっと話のネタにされている三枝はとっくの昔に興味を失ったのか、顔を伏せて寝る体勢に入っていた。
0
あなたにおすすめの小説
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
【完結】恋した君は別の誰かが好きだから
花村 ネズリ
BL
本編は完結しました。後日、おまけ&アフターストーリー随筆予定。
青春BLカップ31位。
BETありがとうございました。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
俺が好きになった人は、別の誰かが好きだからーー。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
二つの視点から見た、片思い恋愛模様。
じれきゅん
ギャップ攻め
【完】君に届かない声
未希かずは(Miki)
BL
内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。
ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。
すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。
執着囲い込み☓健気。ハピエンです。
僕のために、忘れていて
ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────
彼の理想に
いちみやりょう
BL
あの人が見つめる先はいつも、優しそうに、幸せそうに笑う人だった。
人は違ってもそれだけは変わらなかった。
だから俺は、幸せそうに笑う努力をした。
優しくする努力をした。
本当はそんな人間なんかじゃないのに。
俺はあの人の恋人になりたい。
だけど、そんなことノンケのあの人に頼めないから。
心は冗談の中に隠して、少しでもあの人に近づけるようにって笑った。ずっとずっと。そうしてきた。
目線の先には。僕の好きな人は誰を見ている?
綾波絢斗
BL
東雲桜花大学附属第一高等学園の三年生の高瀬陸(たかせりく)と一ノ瀬湊(いちのせみなと)は幼稚舎の頃からの幼馴染。
湊は陸にひそかに想いを寄せているけれど、陸はいつも違う人を見ている。
そして、陸は相手が自分に好意を寄せると途端に興味を失う。
その性格を知っている僕は自分の想いを秘めたまま陸の傍にいようとするが、陸が恋している姿を見ていることに耐えられなく陸から離れる決意をした。
先輩のことが好きなのに、
未希かずは(Miki)
BL
生徒会長・鷹取要(たかとりかなめ)に憧れる上川陽汰(かみかわはるた)。密かに募る想いが通じて無事、恋人に。二人だけの秘密の恋は甘くて幸せ。だけど、少しずつ要との距離が開いていく。
何で? 先輩は僕のこと嫌いになったの?
切なさと純粋さが交錯する、青春の恋物語。
《美形✕平凡》のすれ違いの恋になります。
要(高3)生徒会長。スパダリだけど……。
陽汰(高2)書記。泣き虫だけど一生懸命。
夏目秋良(高2)副会長。陽汰の幼馴染。
5/30日に少しだけ順番を変えたりしました。内容は変わっていませんが、読み途中の方にはご迷惑をおかけしました。
《完結》僕が天使になるまで
MITARASI_
BL
命が尽きると知った遥は、恋人・翔太には秘密を抱えたまま「別れ」を選ぶ。
それは翔太の未来を守るため――。
料理のレシピ、小さなメモ、親友に託した願い。
遥が残した“天使の贈り物”の数々は、翔太の心を深く揺さぶり、やがて彼を未来へと導いていく。
涙と希望が交差する、切なくも温かい愛の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる