34 / 41
俺にしとけばいいのに
5
しおりを挟む「……くるちゃんは女子と約束してるんだ」
「何でそうなるんだよ」
「…………絵上さんと、付き合ってるんでしょ」
口にするのも嫌だと言いたげな苦々しい表情で、三枝が俺を睨むように見据える。その圧が強すぎて、蛇に睨まれた蛙のようにぴくりとも動けない。
突然出てきた名前に驚くと同時に、なぜ彼女が名指しされているのか分からなくて眉根を寄せる。博愛主義な三枝が、特定の女子に対してこんなに敵意剥き出しなのも珍しい。
「言ってることが意味分かんないんだけど」
「はぐらかさなくても知ってるから」
「は?」
「だって、……泣くほど、好きなんでしょ」
「泣くほど……?」
聞いたこともないほどの低い声。責めるように言われるけれど、その内容に全く身に覚えがなくて困惑している間に、三枝は淡々と話を続ける。
「絵上さんに呼び出された日、教室に戻ってきて泣いてたじゃん」
「な、んで、それ……」
お前、あの時起きてたのかよ。寝ていると思っていたのに、バレていたことが恥ずかしい。それと同時に、あの日の涙の理由を誤解されていることが悔しかった。
違うんだ、三枝。あれはお前のことを思って、この恋にさよならするって決心した証だったんだよ。
そう言ってしまえたらよかったのに、それだけは絶対に許されない。何て答えようか悩んでいるうちに、更に誤解を深めた三枝が口を開く。
「俺のことを避けるようになったのも、絵上さんが理由?」
「ちがう」
「だったら、どうして……?」
「それは言えない。けど、……俺が好きなのは、絵上さんじゃない」
「その言い方だと、他に好きな人がいるって聞こえるけど」
「ああ、そうだよ」
ほとんど売り言葉に買い言葉だった。まさか俺が肯定するとは思っていなかったのか、目を丸くした三枝はその言葉をゆっくりと噛み砕き、何かを諦めたように力なく笑った。
「……くるちゃんはその子と文化祭回りたいんだ」
「そんなこと、考えてもなかった」
「え?」
「こんな気持ち、早く捨ててしまいたいって思ってたから」
「好きなのに?」
「好きだから、相手を困らせたくない」
「…………」
「俺なんかが好きになったら駄目な人だから」
そんなことまで言うつもりはなかったのに、勝手に口が動いていた。何でお前の方が泣きそうなんだよと、そう言ってしまいたいぐらい、随分と酷い顔をしている三枝に失敗したなと後悔ばかりが募る。
「諦めるって決めたから、この話はもう忘れろよ」
きっと、何と声をかければいいのか分からないのだろう。力なく笑いかけたところで、何も言葉を発さなくなった三枝に「戻るぞ」と声をかける。以前とは立場が逆転しているのが、なんだかおかしかった。
「 」
先に歩き出すと、後ろから声が聞こえた気がして振り返る。校舎の周りを走っている外練中の女子バレー部の声が邪魔をして、何を言ったかまでは聞き取れなかった。下を向いた三枝の表情はよく見えない。
「何か言った?」
「……ううん」
「そ」
少し悩んで首を横に振る三枝に、そういうことにしておいてやろうと素直に受け入れる。藪をつついて蛇を出すなんて趣味は持っていなかった。
「ねぇ、くるちゃん。やっぱり駄目?」
「何が?」
パッと顔を上げて、俺の隣に並んだ三枝が強請るように見つめながら聞いてくる。
「文化祭、一緒に回ろうよ」
「……しかたないな」
「ふふ、ありがとう」
その顔に俺が弱いって分かってやってるなら、相当策士だよ。けれど、分かっていて丸め込まれてしまう俺も大概だ。断れない俺が悪い。
大袈裟にため息を吐き出してやれやれ感を演出してみるけれど、そんなことをしている自分が馬鹿に思えるぐらい素直に喜ぶものだから、ほんの少し恥ずかしくなった。
嬉しそうに笑う三枝を見ていると、釣られて頬が緩む。だって、心の奥底ではじんわりと喜びが湧き上がってきているから。また一緒にいられるんだという事実が、今は何よりも嬉しいから。でも、それを三枝にだけは悟られてはいけない。
平静を装いながら、文化祭の日が早く来ないかなと密かに待ち遠しくしていた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】恋した君は別の誰かが好きだから
海月 ぴけ
BL
本編は完結しました。後日、おまけ&アフターストーリー随筆予定。
青春BLカップ31位。
BETありがとうございました。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
俺が好きになった人は、別の誰かが好きだからーー。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
二つの視点から見た、片思い恋愛模様。
じれきゅん
ギャップ攻め
インフルエンサー
うた
BL
イケメン同級生の大衡は、なぜか俺にだけ異様なほど塩対応をする。修学旅行でも大衡と同じ班になってしまって憂鬱な俺だったが、大衡の正体がSNSフォロワー5万人超えの憧れのインフルエンサーだと気づいてしまい……。
※pixivにも投稿しています
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
僕のために、忘れていて
ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────
はじまりの朝
さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。
ある出来事をきっかけに離れてしまう。
中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。
これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。
✳『番外編〜はじまりの裏側で』
『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。
先輩のことが好きなのに、
未希かずは(Miki)
BL
生徒会長・鷹取要(たかとりかなめ)に憧れる上川陽汰(かみかわはるた)。密かに募る想いが通じて無事、恋人に。二人だけの秘密の恋は甘くて幸せ。だけど、少しずつ要との距離が開いていく。
何で? 先輩は僕のこと嫌いになったの?
切なさと純粋さが交錯する、青春の恋物語。
《美形✕平凡》のすれ違いの恋になります。
要(高3)生徒会長。スパダリだけど……。
陽汰(高2)書記。泣き虫だけど一生懸命。
夏目秋良(高2)副会長。陽汰の幼馴染。
5/30日に少しだけ順番を変えたりしました。内容は変わっていませんが、読み途中の方にはご迷惑をおかけしました。
【完】君に届かない声
未希かずは(Miki)
BL
内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。
ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。
すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。
執着囲い込み☓健気。ハピエンです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる