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夢の舞台へ
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しおりを挟むジョッキについた水滴がテーブルを濡らす。
大学近くの居酒屋で行われている親睦会。
貸し切られた座敷の隅で気配を消した僕は、ちびちびとハイボールを飲みながら枝豆を黙々と食べることに専念している。それが今の僕に課せられた唯一の仕事だった。
ゼミ生みんなの親睦を深める会だからと、席順をくじで決めることになるなんて思ってもいなかった。
居酒屋に到着して早々、ほら引いてと差し出されたくじの入った箱を前にして、僕の顔がサーッと絶望に染まったことは想像に容易いだろう。
こういう時、大抵僕はハズレくじをひく。
嫌な予感は当たるもので、奏とは離れた席になってしまった。
「大丈夫か?」
「…………なんとか」
心配そうな表情を隠そうともせず、奏が尋ねてくる。
たぶん、こいつ、今ここで僕が無理だって言ったら、幹事の宇田に相談して席を変えてもらうんだろうな。
そうなることが目に見えて予想できたから、ギギギと首を横に振った。
奏も僕に構ってばかりじゃなく、たまには他の人とも交流するべきだと思ったから。
産まれてからずっと、奏が隣にいた。
だけど、いつまでも奏に面倒を見てもらうわけにはいかない。
僕も奏も、いい加減外の世界を知るべきだ。
今日はその第一歩を踏み出すいい機会なんだ。
そう思ったのはいいものの、現状は違う。
今すぐにでもこの地獄から逃げ出したい、あるのはその一心だった。
氷が溶けきって薄くなったハイボールを、また少し喉奥に流し込む。
正直ぬるくなってしまって味も美味しくはないけれど、会話下手で手持ち無沙汰な僕の大事な武器だった。
「ねぇねぇ、吉良くんもさ、二次会行くよね」
「え、僕?」
そんな時、斜め向かいに座っていた女子が突然声をかけてきた。
女子と話すこと自体久しぶりで、素っ頓狂な声を出してしまって頬を染める僕をからかいもせず、彼女は柔らかく微笑んだ。
「この後予定ないなら、せっかくだし行こうよ」
「うん……」
その笑顔があまりにも眩しすぎた。
断ることに気が引けて、僕は視線を外しながらぎこちなく了承の意を示すことしかできなかった。
本当はさっさと帰る予定だったのに……。
いつもなら奏の助け舟がやってきただろうけれど、今回ばかりは運が悪かった。
あまり量は食べていないのに、なんだか無性に胃の中が重たくなった気がした。
「行くの?」
「……行くよ」
「珍しいじゃん」
「…………」
永遠かのように思われた親睦会がようやくお開きになり、店を出て真っ先に向かうは奏の隣。
まさか僕が二次会に行くとは思ってもいなかったらしい。そりゃあ奏も驚くよな、僕自身が一番驚いてるんだから。
「羽目を外しすぎないように、特に宇田」
「何で俺だけ名指し!?」
二次会には教授は参加しないらしく、生徒に釘を刺すと駅の方に向かっていった。その後ろ姿を僕は羨ましく眺めていた。
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