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向こう側の景色
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しおりを挟む数十分車を走らせて、たどり着いたのは小綺麗な一軒家。どうやらハウススタジオらしく、スタッフさんらしき人が何人か出入りしている。
近くの駐車場に車を停めて、楠木さんの元に向かう。ひとつだけ、どうしても確認しておきたいことがあった。
「すみません、あの、こんな時に聞くのもなと思ったんですけど……」
「ん? 何でも聞いてください」
「あの、律をスカウトしたのって、楠木さんですか……?」
尻すぼみになっていく僕の声を聞いた楠木さんは、きらりと瞳を瞬かせて嬉しそうに笑った。
「はい、そうですよ。律さんをスカウトできたことは、僕の人生における一番の手柄だと思います」
そこにあるのは、純粋な喜びと誇り。
この人もまた、プロなのだ。
かっこいい。
将来、僕もこんな風に誇れる仕事がしたい。
そう、思った。
そして、同時に心の中のオタクが感動のあまり咽び泣く。律をスカウトしてくれてありがとう、と。
楠木さんがいなければ、律に出会えなかったかもしれない。もはや命の恩人のようなものだ。
「律をスカウトしてくれてありがとうございます……」
「ふは、吉良くん面白いね」
深々と頭を下げれば笑われてしまった。だけど堅苦しい口調が砕けて、なんだか距離が縮まった気がする。
「律さんを見つけたときにビビっと来たんだ。雷に打たれたようなって比喩がまさに当てはまった瞬間だったね。沢山の人がいる中で浮いて見えたよ。あの時の衝撃はずっと忘れられないなぁ」
「…………」
「顔だけじゃなくてオーラがあったんだよね。正直声をかけるのも気が引けたんだけど、ここで引いたら後悔すると思って」
懐かしそうに話す楠木さんの言葉はどれも宝物で、脳のレコーダーに記録することに必死で何も言えなかった。感動しすぎて言葉が出なかったというのもあるけれど……。
「結果、こうしてスターになっちゃうんだからすごいよね。あの時の自分を褒めてあげたいぐらい」
「僕からしたら、楠木さんも歴史に残る方ですよ」
真面目くさった顔で言えば、また楠木さんは噴き出した。意外とツボが浅いのかもしれない。
そんな会話をしながらスタジオに入れば、和やかな空気で撮影が行われていた。
「今回のコンセプトが『ありのまま』なんだ。多分吉良くんにも協力してもらうことがあると思うんだけど、よろしくお願いします」
「はい?」
協力できることなんてないと思うけど。
首を捻っていれば、背後から鋭い声が飛んできて、するりと長い手に捕らわれる。
振り向かなくても、誰か分かる。
でも、この場の主役にバックハグされている状況が理解できない。
せめて酸素だけでもと呼吸しようにも、嗅いだことのある香りが鼻腔を擽る。一気に体温が上昇して、鼓動が速くなった。
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