神さまに捧ぐ歌 〜推しからの溺愛は地雷です〜【完】

新羽梅衣

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癒えない古疵

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 漣弦の話をしよう。
 彼は、紛うことなき原石だった。
 
 彼の才能は磨けば磨くほど輝きを増すはずなのに、本人はそんなことには無頓着。ただ自分が楽しければいいという快楽主義者。

 だけど選ばれし者の運命か、何をやっても上手くいくし、周囲の注目を集めてしまう。それが少し窮屈なときもあるんだよと、彼は眉を下げて笑っていた。
 
 確かに自分の通う高校という狭い世界だけではなく、近隣の高校でも彼を知らないひとはいないだろうというぐらい有名だった。

 着崩した制服、派手なピアス、整った容姿。大人びているのに、どこか破天荒。
 そんな姿を鮮明に覚えている。

 先輩は所謂問題児というもので、よく先生に呼び出しを食らってはけろりとしているところを見ていた。

 ちっぽけな世界のくだらないルールに縛られるようなひとじゃなかった。先輩はいつだって僕なんかとは比べものにならないほど、広い世界を見ていた。

 関わることなんてなさそうな僕らの線が交わったのは、部活がきっかけ。

 律に恋に落ちてからずっと音楽を始めてみたいと思っていた。だけど中学には女子ばかりの吹奏楽部しかなくて、入部しようという気持ちにもなれなかった。

 だから、高校に入ったら軽音楽部に入る。それを楽しみにしていたんだ。


 桜が散り始めた頃、部活見学の時期がやってきた。

 奏は小学生の頃からやっているサッカーを続けていたから、僕はひとりで緊張で震え上がりながら軽音楽部の部室の前に佇んでいた。

 昨日までは確かに存在していた勇気やワクワクなんて、どこかに消えてしまった。閉ざされたドアを開けることがこんなに億劫だなんて。どうしようと躊躇っていれば、背後から声をかけられる。


 「入んないの?」


 ぐるりとぎこちなく振り向けば、訝しげにこちらを見ている派手な男がひとり。

 ほんの少しだけ、今より少し尖っていた頃の律に雰囲気が似ていると思った。


 「……すみません」
 「いや、別に怒ってないけど。入部希望者?」
 「一応……」
 「ふーん。じゃあ、おいでよ」


 ガラガラ、僕が躊躇っていたドアを遠慮なく開ける。そのまま手を引かれて、僕は知らない世界に飛び込んだ。

 引っ込み思案な僕は入部してもうまく周りに馴染めなくて、孤立することが多かった。そんなときに救いの手を差し伸べてくれるのはいつも弦先輩で、何度助けられたか分からないほど。
 
 自然と弦先輩との距離は縮まって、第一印象で感じた怖さはすぐになくなっていた。先輩も初対面のときから放っておいたらまずい、鈍臭い奴だと思ったのか、事ある毎に僕に構うようになった。

 見た目も考え方も、何もかも全くの正反対。
 だけど、一緒にいると心が落ち着く。
 不思議な関係のようにも思えた。
 
 派手な先輩と地味な僕は周りから見ても異質の組み合わせだったようで、先生から時々心配の声をかけられていた。

 首を振って否定する僕、怠そうに返事する先輩。
 そんな僕らを疑いの目で見ていた先生は、今思えばやっぱり間違っていなかったのかもしれない。

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