1 / 1
歩き煙草
しおりを挟む
目の前の男性が右手に煙草を持って歩いている。その煙草はなかなか口に運ばれることなく腰のあたりで手とともに揺れている。僕は揺れる火種を見ながら彼の後ろを歩く。彼の歩く速度が遅いものだから彼を追い抜くことにして彼の右側を通る。彼の振る舞いは想像する限り最悪なものだ。右手に煙草を持って狭い道の左側を歩くものだから、彼を追い抜く人は揺れている煙草の近くを通らなくてはいけない。僕はまさに彼の隣を通る瞬間、もういっそ煙草に手があたってやけどすればいいなあなんて思いながら、何事もなく彼を通り過ぎていった。
家についてソファーに横になる。ポケットから電子タバコをとりだして加熱すると、手の中でブルッと震えた。その振動を合図に横になりながら煙を吸って床と平行に吐きだす。自身の口から出ていった煙は最初はまだ地面と平行に進むのだけれど、少し進むとテーブルの近くで霧散した。
タバコを三本吸い終わったところで玄関からガチャガチャと音が聞こえてくる。僕は体を起こしてタバコをポケットに戻す。
玄関まで行っておかえりと声をかける。彼女は顔を上げて僕にただいまと言う。彼女は一通り仕事の愚痴をこぼすと、少し苛つきを表に出してぼくの方に向いた。
「電子タバコを吸うときも外で吸ってって言ったよね」
ぼくはばれるとは思っていなかったものだから少し動揺したが、今日はどうも強気でいられる。彼女の声でぼくが反省をすることはないけれど、ごめんと形式上の謝罪をした。
ぼくは彼女と交わした約束を破ったけれど清々しいような気持ちでいた。いままでが真面目に行き過ぎたのかもしれない。歩き煙草をしているやつにくらべれば、家の中での約束事を破るなんてことは小さなことだ。次はばれないように家の中で吸ってやる。臭いがつきにくいタバコにしよう。加熱式じゃなくてカートリッジ式のものにすれば家の中で吸ってもばれないんじゃないかな。完全犯罪さ。
ピンポーン。一番嫌いな音が響く。ああもう。彼女がインターホンに向かう。ぼくは自室に戻ろうと立ち上がる。
「はーい」
彼女の声は普段よりも明るいものだった。
この声の感じは彼女の友人か。ぼくは結構彼女の友人たちが好きで、よく彼女とぼくと友人というメンバーで話したりする。ぼくにとっては、その時間がぼく自身の友人と過ごす時間よりも大事だった。ぼくは自室にもどるのをやめて、立ち上がった労力を三人分のコーヒーカップをもってくる労力へと切り替えた。
「こんばんは。もうね、この年齢になると夜に急に訪ねても受け入れてくれるのなんてここくらいだよ」
と、嬉しそうに話す。彼女の友人はみんなこう言う。彼女の友人たちをみんな集めて一回会わせてみたら、ぼく達の家でひとりひとり迎える必要性がなくなるんじゃないかなあなんて思う。
「この時間に訪ねられる友人よりも、きっとその同居人に感謝するほうがいいよ」
ぼくは笑いながら言った。もう20時を過ぎているけれど、ぼくは人数分のコーヒーを入れるために電子ケトルに水を入れ、カチッとボタンを押した。このボタンは反応しているのかいつも不安になるくらい押した心地がしない。もう慣れたものなのだけど、ケトルからシューと音が聞こえてくるまではこいつがちゃんと働いているかどうか信用はできない。こいつがもしシューと音をたてながら、実はお湯をつくっていなかったとしたら、ぼくは怒りの罵声を発しながらも心の中で褒めるかもしれない。
「ほい、どうぞ」
コーヒーをそれぞれの前に置く。ふたりはお礼だけ言ってしゃべり続けている。ぼくは必ずしも会話にはいるわけではないけれど、会話を聞いているだけでも楽しめることがほとんどで、たまにある愚痴大会だけはあまり好きではなかった。
「あーあ、岸本君みたいに彼女のこと大事にしてくれる男がいたらないいのにな」
「いや、こいつだって約束破るしいいところばっかりじゃないよ?今日だってあんなにやめてって言ったのに部屋でタバコ吸ってたしさ」
ぼくの話題でも特に話に入ろうとは思わなかった。ぼくはこれからも彼女との約束をバレないように破り続ける。あー、お湯だけ沸かして生きていきたいな。たまにサボりながら。
コーヒーが身に染みわたる。カフェインで寝られなくなっても明日の仕事は休めばいい。寝不足になるくらいなら。
家についてソファーに横になる。ポケットから電子タバコをとりだして加熱すると、手の中でブルッと震えた。その振動を合図に横になりながら煙を吸って床と平行に吐きだす。自身の口から出ていった煙は最初はまだ地面と平行に進むのだけれど、少し進むとテーブルの近くで霧散した。
タバコを三本吸い終わったところで玄関からガチャガチャと音が聞こえてくる。僕は体を起こしてタバコをポケットに戻す。
玄関まで行っておかえりと声をかける。彼女は顔を上げて僕にただいまと言う。彼女は一通り仕事の愚痴をこぼすと、少し苛つきを表に出してぼくの方に向いた。
「電子タバコを吸うときも外で吸ってって言ったよね」
ぼくはばれるとは思っていなかったものだから少し動揺したが、今日はどうも強気でいられる。彼女の声でぼくが反省をすることはないけれど、ごめんと形式上の謝罪をした。
ぼくは彼女と交わした約束を破ったけれど清々しいような気持ちでいた。いままでが真面目に行き過ぎたのかもしれない。歩き煙草をしているやつにくらべれば、家の中での約束事を破るなんてことは小さなことだ。次はばれないように家の中で吸ってやる。臭いがつきにくいタバコにしよう。加熱式じゃなくてカートリッジ式のものにすれば家の中で吸ってもばれないんじゃないかな。完全犯罪さ。
ピンポーン。一番嫌いな音が響く。ああもう。彼女がインターホンに向かう。ぼくは自室に戻ろうと立ち上がる。
「はーい」
彼女の声は普段よりも明るいものだった。
この声の感じは彼女の友人か。ぼくは結構彼女の友人たちが好きで、よく彼女とぼくと友人というメンバーで話したりする。ぼくにとっては、その時間がぼく自身の友人と過ごす時間よりも大事だった。ぼくは自室にもどるのをやめて、立ち上がった労力を三人分のコーヒーカップをもってくる労力へと切り替えた。
「こんばんは。もうね、この年齢になると夜に急に訪ねても受け入れてくれるのなんてここくらいだよ」
と、嬉しそうに話す。彼女の友人はみんなこう言う。彼女の友人たちをみんな集めて一回会わせてみたら、ぼく達の家でひとりひとり迎える必要性がなくなるんじゃないかなあなんて思う。
「この時間に訪ねられる友人よりも、きっとその同居人に感謝するほうがいいよ」
ぼくは笑いながら言った。もう20時を過ぎているけれど、ぼくは人数分のコーヒーを入れるために電子ケトルに水を入れ、カチッとボタンを押した。このボタンは反応しているのかいつも不安になるくらい押した心地がしない。もう慣れたものなのだけど、ケトルからシューと音が聞こえてくるまではこいつがちゃんと働いているかどうか信用はできない。こいつがもしシューと音をたてながら、実はお湯をつくっていなかったとしたら、ぼくは怒りの罵声を発しながらも心の中で褒めるかもしれない。
「ほい、どうぞ」
コーヒーをそれぞれの前に置く。ふたりはお礼だけ言ってしゃべり続けている。ぼくは必ずしも会話にはいるわけではないけれど、会話を聞いているだけでも楽しめることがほとんどで、たまにある愚痴大会だけはあまり好きではなかった。
「あーあ、岸本君みたいに彼女のこと大事にしてくれる男がいたらないいのにな」
「いや、こいつだって約束破るしいいところばっかりじゃないよ?今日だってあんなにやめてって言ったのに部屋でタバコ吸ってたしさ」
ぼくの話題でも特に話に入ろうとは思わなかった。ぼくはこれからも彼女との約束をバレないように破り続ける。あー、お湯だけ沸かして生きていきたいな。たまにサボりながら。
コーヒーが身に染みわたる。カフェインで寝られなくなっても明日の仕事は休めばいい。寝不足になるくらいなら。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる